ハマキョウレックス訴訟に見る労働条件格差

はじめに

正社員と契約社員で賃金や手当に格差を設けるのは違法であるとして、物流大手「ハマキョウレックス」の契約社員が格差の是正を求めていた訴訟の控訴審で26日、大阪高裁は手当の格差を一部違法と認めました。今回は、「正社員と契約社員で労働条件に差を設けることができるのか」について見ていきたいと思います。

事件の概要

物流大手「ハマキョウレックス」(浜松市)の滋賀県彦根支店の契約社員、池田正彦氏(54)は2008年から運転手として同社と半年ごとの雇用契約を結んでいました。同社では正社員に対しては通勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当の7つの手当を支給しておりました。一方、契約社員の池田氏には、給与は時給制で手当は通勤手当の一部のみが支給されていました。池田氏は労働内容が同一であるのに正社員と手当について格差があるのは労働契約法に反し、また契約の違法部分は公序良俗違反で無効であるとして正社員と同じ手当の支給を求める訴えを起こしていました。昨年9月一審大津地裁は通勤手当の格差のみ違法と認め、通勤手当の差額1万円分につき支払を命じていました。

労働契約法上の規制

労働契約法20条では「有期労働契約を締結している労働者の・・・労働条件が」「期間の定めのない・・・労働者の・・・労働条件」と相違する場合、その相違が「不合理と認められるものであってはならない」としています。不合理であるかどうかの判断にあたっては①業務内容②業務に伴う責任の程度③それらと配置の変更の範囲④その他の事情を総合的に判断することになります。対象となる労働条件は賃金や労働時間だといったものだけでなく、各種手当や福利厚生、災害補償、教育訓練といったもの等一切の労働条件が含まれます。①②に関しては当該労働者が従事している業務の内容およびそれに伴う責任の程度を指します。③は転勤や昇進といった人事異動や役割の変化及びその可能性を指します。④はその他合理的と認められる労使慣行等を指します。本条違反が認められた場合、不合理な労働条件は無効となり、その部分は期限の定めのない労働者と同一のものとみなされます。またそれによる損害の賠償が認められることもあります。

本件一審判決

一審大津地裁は上記①~④について、被告ハマキョウレックスは従業員4500人を有する東証一部上場企業であり、正社員は業務上の必要性に応じて就業場所や業務内容の変更命令を受けなくてはならず、出向先も全国に及び、将来支店長等の責任者となる可能性を有している。一方、契約社員は労働内容、労働時間、休息時間等の変更を受けるに留まるのであるから、事業の中核を担う人材として育成されるべき立場にもないとして、7つの手当のうち通勤手当以外については不支給でも不合理とは言えないとしました。

コメント

本件大阪高裁判決では、一審と同様の判断枠組みに立ちつつも通勤手当だけでなく無事故手当、作業手当、給食手当についても支給されるべきとしました。一方で住宅手当等については正社員には転勤があり得ることなどを理由に不合理とは言えないとしました。正社員と非正規社員との間での格差の合理性を判断するにあたっては、一審二審ともに社内における社員の責任と立場を重視しているものと思われます。将来転勤の可能性があるか、将来責任者となる立場にあるかといった社員の地位が重要な判断材料となっているようです。一方以前にも取り上げました定年後再雇用の場合の合理性の判断について判例は定年後に業務が変わらないまま賃金を下げることが社会通念上、慣行として広く受入れられているかを重視していました。定年後の労働条件に関しては正社員も将来同様の扱いを受ける立場にあることから、立場の違いよりも慣行を重視して判断したのではないかと考えられます。従業員に賃金や手当等について差異を設けている場合にはこれらの判断枠組みを念頭に置いて合理的と言える範囲に設定することが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約2年22日前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
【名古屋】AIに関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第3回》
2018年08月09日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第3回目のテーマはAIに関する法律問題です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
【名古屋】誹謗中傷記事・炎上対策《ITビジネス法務勉強会:第4回》
2018年09月06日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第4回目のテーマは誹謗中傷記事・炎上対策です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
【名古屋】自動運転技術に関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第6回》
2018年11月22日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第6回目のテーマは自動運転技術に関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
【名古屋】情報セキュリティ対策《ITビジネス法務勉強会:第5回》
2018年10月18日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第5回目のテーマは情報セキュリティ対策です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《渋谷開催》データの利用に関する最近の法令と契約実務
2018年9月10日(月) 15:00~17:20(14:40開場)
10,000円(1名様)
東京都渋谷区
講師情報
岡 伸夫
1992年 京都大学法学部卒業
1994年 大阪弁護士会 登録 梅ケ枝中央法律事務所 
2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー    
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設

弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員 

企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士

主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
IoT技術の進展にともない、公開・非公開のデータの収集・解析と派生データの活用が盛んに行われることが今後予想されます。
他方で多額の費用と労力をかけて有用なデータベースを構築し、営業秘密でない形でサイトやアプリでユーザーに提供している会社においては、
競業他社による目的外利用を予防し、侵害を受けた場合に権利主張していく方法を検討・確保することが重要になってきます。
このセミナーでは、データの利用に関する最近の法改正の紹介と共に、これらを背景にデータ提供に関する約定、提携先との契約において
留意しなければならないポイントを説明いたします。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

中国国務院、地方政府に対しインフレ対抗策を通達... 11月20日、中華人民共和国中央人民政府ウェブサイトは、 中国国務院が市場価格の安定のための統制措置を採ることを地方政府や関係機関に求める通達を出した、と発表した。 措置の具体的内容には、 ①野菜・穀物・食用油の生産の安定化のための努力 ②12月1日からの農産物を輸送する車両に対する道路通行料の廃...
電通事件 社長、違法残業認める はじめに  大手広告会社電通が違法残業があったのに必要な防止措置を採らなかったとして労働基準法違反の罪に問われていた事件の初公判が22日東京簡裁で開かれ、山本社長は同社の行為が違法な残業にあたることを認めました。公判は同日結審し、10月6日に判決が下される予定です。略式起訴された刑事事件が不相...
ステルスマーケティングの法的規制の現状... ~イントロダクション~  昨今、ステルスマーケティング、いわゆるステマ(以下、ステマとします。)が問題視される場面が増え、海外で法規制が進む中で、日本の法規制が遅れているとして、法規制の必要性が説かれています。  今回は、ステマに対する法的規制の現状についてご紹介したいと思います。 ~定義~...