東和工業の訴訟に見る男女同一賃金原則

はじめに

富山市の本間啓子さん(64)が勤務していた機械設備メーカー東和工業に対し男女別の賃金制度は違法であるとして差額分約2290万円の支払いを求めていた訴訟の控訴審で、4月27日名古屋高裁金沢支部は約449万円の支払いを命じました。労基法が禁止する男女別賃金について見ていきます。

事件の概要

1987年から東和工業に事務職として勤務していた本間さんは90年に設計士の資格を取得し設計職として勤務していました。その後2002年に同社は男性を総合職、女性を一般職とする雇用制度を導入し、本間さんは一般職に、同じ設計職であった他の男性従業員は総合職に配属されました。同社通達によりますと、総合職とは総合的視野に基づく判断能力を有し、職種転換、出張、転勤可能な者を言い、一般職とは専門分野において業務遂行能力を有し採用時の職種に限定され転勤が無い者を言うとしています。本間さんは2012年に定年退職するまでの賃金及び退職金が同じ設計職の男性従業員に比べて大幅に低かったとして、差額分約2290万円の支払いを求める訴えを起こしていました。

男女同一賃金原則

労働基準法4条によりますと、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」としています。違反した場合には当該賃金規定は無効であり、また罰則として6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課せられます(119条1号)。本条が禁止しているのは女性であることを理由として「賃金」についての格差を設けることです。それ以外の待遇や配置、昇進といった点に関して差異を設けることは禁止されておらず、これらの点については別途男女雇用機会均等法により規制されております(3条)。また本条が禁止する賃金格差は女性に不利なもののみならず、有利なものも含まれており、女性であることを理由に賃金を高く設定することも禁止されます。賃金格差が専ら女性であることを理由とせず、能率や勤続年数、家族構成といった他の理由によるものである場合は違反することにはなりません。

労基法4条に関する判例

(1)裁決平成21年10月20日
男性を一般職、女性を事務職といったコース別に募集、採用し異なる賃金体系を取っていた総合商社に務める女性従業員が違法な男女差別に基づく賃金格差であるとして差額の支払いを求めていた事例です。最高裁は同一の業務内容でも若年の一般職の男性と、長年従事してきた事務職女性で相当の賃金格差が生じており、賃金格差に合理的な理由は認められず、性別のみによる差別であるとして差額の支払いを命じました。

(2)裁決平成21年1月22日
社内で「職能資格等級制度」と呼ばれるランク付け制度を採用していた会社に勤務する女性従業員が、勤続年数や学歴が同等であるにもかかわらず全般的に男性が上位に格付けされ、賃金に格差が生じていることが違法な女性差別であるとして不法行為に基づく損害賠償を求めた事例です。最高裁は業務内容が同一の男性従業員と比較して格付けの相違が著しいことに合理的な理由は認められないとして違法であるとしました。

(3)東京地判平成16年12月27日
男性従業員と女性従業員との間で初任給及びその後の賃金に格差が生じていることについて、女性であることを理由とする差別であり違法であるとして不法行為に基づく損害賠償及び差別がなければ昇進したはずの地位の確認を求めた事例です。東京地裁は両者の間に能力、勤務成績等の差が認められず、むしろ採用当初の業務習熟度は原告のほうが遥かに勝っていたことから性別を理由とする差別的取扱いとみるほかなく違法であるとして賠償を命じました。

(4)広島高判平成25年7月18日
一方で違法が認められなかった事例です。中国電力に勤務していた女性従業員の職能等級が13年間主任2級に留められていたことに比べ、男性従業員のほとんどが昇級昇格し賃金格差が生じていることは違法であるとして不法行為に基づき損害賠償を請求していた事例です。広島高裁は昇格に男女格差が生じていたこと自体は認めつつ、女性従業員が管理職に昇進することを敬遠する傾向があったこと等を理由として、会社の人事裁量の範囲内であり違法とは言えないとしました。

コメント

本件で一審金沢地裁は会社が一般職と総合職に分ける制度を始め、原告を一般職にした際に能力を検討した形跡はなく、性別によって区別したと認めることが相当であるとして労基法4条違反を認めました。名古屋高裁も一審判決を支持し、違法を認め、時効にかかった分を除いて一部認容判決を言い渡しました。ここまで見てきたように労基法4条に違反するかについて裁判所は原則として他に合理的な理由が無く専ら性別のみを理由としているかで判断していると思われます。しかし上記(4)の中国電力事件のように賃金格差が従業員の地位に基いて生じている場合には、仮に昇級昇格の機会や速さに格差が生じていても労基法4条違反とは認められない可能性が高いと言えます。昇級昇格といった人事評価に関しては会社に一定の評価裁量が認められることが理由だと思われます。つまり同一の地位でありながら賃金制度自体に男女差がある場合は原則的に労基法4条に違反することになります。職能資格等級制度のように地位に該当するのか賃金制度体系に該当するのかの判断が微妙な場合もあり、事例によっては判決が分かれることもあると思われますが、一見して賃金格差の理由が性別以外に見いだせない場合には違法と考えていいでしょう。賃金制度策定の際にはこの点について留意することが重要と言えそうです。

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01年東京大学法学部卒業
04年弁護士登録
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13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
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著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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