ヤマト運輸と荏原製作所の訴訟に見る「瑕疵担保責任」

はじめに

ヤマト運輸が荏原製作所から買い取った土地の土壌に石綿含有スレート片が多量に混入していたとして荏原製作所に約85億円の損害賠償を求めていた訴訟で4月28日、東京地裁は約56億円の支払いを命じました。今回は土地の売買に伴う瑕疵担保責任について見ていきたいと思います。

事件の概要

2007年12月、ヤマト運輸は新しい物流ターミナル建設のため荏原製作所から東京都大田区羽田の土地約10万平方メートルを約785億円で購入しました。荏原製作所が使用していた旧建物の解体後2011年1月建設工事を着工したところ土壌から多量の石綿含有スレート片が見つかりました。ヤマト運輸は近隣住民、行政と協議を行った上で石綿含有スレート片を含む土壌の全て約13万6千㎥を撤去し、荏原製作所に撤去費用約85億円の支払いを求めて提訴しました。荏原製作所は第三者の専門家と協議した上で当該土壌は産業廃棄物には当たらず土地の瑕疵は認められないと反論していました。

瑕疵担保責任とは

売買の目的物に欠陥があった場合に契約を解除したり損害賠償の請求ができることがあります。これを瑕疵担保責任と言います。その要件は売買の目的物に「隠れた」瑕疵が存在すること(民法570条)で、それにより契約の目的を達することが出来ない場合は契約を解除でき、また損害の賠償を請求することもできます(566条)。「隠れた」とは取引上一般に要求される程度の注意をしても発見できないような瑕疵を言います。「瑕疵」とは一般的にはその物に通常有すべき性質を欠いていることを言いますが、判例によりますと売買契約締結時の取引観念上、当事者間においてどのような品質・性能を有することが予定されていたかで判断すべきとしています(最判平成22年6月1日)。

瑕疵の種類

瑕疵には本件のような土壌汚染や埋設物の存在といった物理的瑕疵の他に法律的瑕疵や心理的瑕疵といったものもあります。法律的瑕疵とは土地自体には物理的に何ら欠陥はなくとも都市計画法上の制限や市街化調整区域に該当するため建築制限を受けるといった場合を言います。心理的瑕疵とは物理的にも法律的にも問題はありませんが、その土地で以前死傷者が出る事件があった場合や近隣に墓地等があるといった心理的な欠陥を言います。

土壌汚染に関する判例

土壌汚染に関する瑕疵の事例として上記最判平成22年の判例を紹介します。本事例は売買契約締結時には法律上の汚染物質として指定されていなかったフッ素が土壌に大量に含まれていたとして、契約締結後約15年経過した時点で損害賠償を求めたものです。このように契約時に当事者が認識していなかった物質による土壌汚染が瑕疵に当たるかにつき最高裁は上記の基準をもとに当時の取引観念上フッ素が健康被害を生じさせるとは認識されておらず、当事者間においても土地に備わるべき性質として、フッ素および一切の健康被害を生じさせる物質が含まれていない土地を予定していたとは言えないとして否定しました。

コメント

本件で東京地裁は「石綿は厳格な処理が求められるものであり隠れた欠陥に当たる」として瑕疵を認めました。しかしヤマト運輸が本来本件土地を掘削して建物を建築する予定だった部分のみ瑕疵を認め、掘削することが予定されていなかった部分については瑕疵に当たらないとして一部認容判決を言い渡しました。本件土地の引き渡し前に法令上求められる廃棄物処理手続きを完了していた荏原製作所としては産業廃棄物処理法上の廃棄物に該当しない石綿含有スレートは瑕疵に当たらないと主張していましたが、現代の取引観念上、石綿が土壌に含まれていないことは当然に求められる性質であり、ヤマト運輸としても契約時にそういった物質が含まれないことが予定されていたと見ることができるでしょう。このように判例の考え方は契約締結時の社会通念と当事者の主観的意思を基準に瑕疵の存在を判断しています。売買予定の土地にこのような瑕疵が存在するかどうかを予め調査することは容易ではありませんが、以前どのような施設があったのか等その土地の来歴を調べることである程度予測を立てることができると言えます。また民法上の瑕疵担保責任は瑕疵の存在を知ってから1年間の期間制限がありますが(566条3項)、商人間の売買の場合は受領後直ちに検査しなくてはならず、直ちに発見できない瑕疵でも6ヶ月の制限(商法526条1項、2項)となっておりますので土地の売買の際にはこういった点に留意することが必要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
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2010(平成22)年10月 - 2012(平成24)年3月
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■河端 直
私立桃山学院高校卒業
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