2社契約でうつ病の元店員が提訴、労災制度について

はじめに

 系列会社2社から同時に雇用されていたガソリンスタンド(GS)の元店員の男性が、休業補償が1社分しか反映されていないのは不当であるとして、国を相手取り提訴していたことがわかりました。男性は時間外労働107時間でうつ病を発症していたとのことです。今回は労災制度について見直していきます。

事案の概要

 報道などによりますと、原告の男性は2013年3月から大阪市と守口市にあるGSで働いていました。翌2014年2月以降、人手不足を理由に委託元会社からも直接雇用され、同時に2社と雇用契約を締結して平日は委託先、日曜は委託元の下で働いていたとのことです。男性は157日連勤と107時間の時間外労働でうつ病を発症し労災認定がなされたとされます。しかし大阪中央労基署の決定した休業補償は委託先企業の賃金だけを基準とするもので、委託元の分が反映されておらず、この点が不当であると提訴に踏み切りました。

労災制度とは

 労働者が仕事で病気や怪我をした場合にはその治療費は雇用主が負担し、働けなくなったときは雇用主が休業補償を行うことが義務付けられております(労基法75条、76条)。しかし雇用主側に余裕がなかったり、大きな事故等で会社が混乱している場合には迅速に補償が受けられないこともあります。そこで労働者を迅速に救済するために国が代わって給付を行うのが労災制度です。原則として労働者を雇用している事業主全てに加入義務があり、保険料は事業主が全額負担することになります。

労災手続の概要

(1)対象となる災害
 労災保険の対象は①労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡である「業務災害」と、②労働者の通勤中の負傷、疾病、障害、死亡である「通勤災害」に分けられます(労災保険法7条1項1号、2号)。通勤災害については労働者の住居と就業場所の間の合理的な経路、方法による往復であることが必要とされております(同2項)。

(2)給付の内容
 労災保険給付には①療養補償、②休業補償、③傷病補償、④障害補償、⑤遺族補償、⑥葬祭料、⑦介護補償があります。療養補償は傷病の治療費、傷病補償は療養開始後1年6ヶ月経過しても症状が固定しない場合の給付金、障害補償は症状固定後の後遺症への給付金、遺族補償は死亡した際の遺族への給付金となります。そして休業補償は休業4日目から基礎日額の60%と特別支給金20%で合計80%が支給されます。ここに言う基礎日額は事故直前3ヶ月分の賃金の1日あたりの平均値を言います。なお休業1日目から3日目までは平均日額の60%を事業主が補償することになります。

(3)給付の手続
 労災保険給付の申請は労働者自身で行います。労働災害が発生したら、労働者は医師と事業主の証明を付けて請求書を労基署に提出します。労基署は必要に応じて関係者の聴取や書類の提出を求めるなどして調査し、労災に当たるか、休業が必要か、保険給付額がいくらになるかを決定していきます。この間おおむね1ヶ月程度かかると言われております。支給が決定されると労働者通知がなされ支払われます。

事業主証明について

 上記のとおり労働災害が生じると労働者は労基署に保険給付請求を行いますが、その際「事業主証明」の添付が必要となります。これがなければ申請できないというわけではありませんが、通常従業員から求められることになります。これは従業員の怪我や疾病が労災であることを事業主が認めたことの証明となります。ここでもし労災であるかが不確かである場合や疑いがある場合は安易に証明書を書かず、後に求められる「証明拒否理由書」を提出することになります。ここで証明すると別途民事訴訟が提起された場合に会社は否定が難しくなるからです。

コメント

 本件で原告の男性は2つの会社から雇用されガソリンスタンドで働いておりました。しかし労基署で決定された休業補償の基礎日額は1社分の賃金だけを基準とするものであったとされます。通常基礎日額の算定では臨時の賃金や賞与などは含まれません。また今回の労災は1つの会社での業務によるものとされたことからこのように決定されたものと言われております。複数のアルバイトを掛け持つ場合などに影響するものと考えられることから判決が待たれます。以上のように労災制度は労働者の安定した生活の補償のため重要なものです。しかし実際には保険未加入や「労災隠し」なども横行していると言われております。事業者が未加入でも労災保険は支給されますが、その際、事業者に過去2年にさかのぼって徴収され、場合によっては40%~100%の追徴がなされます。今一度制度内容を確認し、適切に準備しておくことが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《名古屋会場》第109回MSサロン
2019年04月03日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「基礎からわかる人工知能(AI)に関する法律問題」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《札幌初開催》第111回MSサロン
2019年04月18日(木)
18:30 ~ 20:30
2,000円
札幌市中央区
講師情報
岡崎 拓也
平成13年3月 早稲田大学法学部卒業
平成13年10月 司法試験合格
平成15年10月 弁護士登録(56期/札幌弁護士会)
       田中敏滋法律事務所(現在「札幌英和法律事務所」)
平成23年7月 岡崎拓也法律事務所設立
平成23年9月 社会福祉法人北海道光生会・評議員(現在、評議員のみ現任)
平成25年11月 株式会社ホクリヨウ監査役(現任)
平成27年4月 札幌弁護士会常議員会副議長
平成27年6月 フルテック株式会社監査役
平成28年4月 札幌弁護士会副会長
平成28年6月 フルテック株式会社監査等委員取締役(現任)
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「スタートライン企業法務」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《東京開催》AIによる英文契約翻訳システム T4OO事例セミナー
2019年04月03日(水)
15:45 ~ 17:15
無料
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
サイネオス・ヘルス合同会社
アジア太平洋地域法務責任者

1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業双方で通算30年以上の企業法務・国際法務の経験を有する現役の企業法務責任者です。
AIによる英文契約翻訳システム T4OOを導入している企業の法務担当者が講師を務め、実際の活用事例をご紹介いたします。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 労務法務 労働法
《東京開催》少人数法務の為の企業法務研究会
2019年03月27日(水)
19:30 ~ 20:30
無料
東京都渋谷区
講師情報
舩山 達
株式会社フルスピード(東証二部上場)
法務・総務部 部長
慶応義塾大学法学部法律学科卒
大阪市立大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了
従業員5人のベンチャー企業に就職。2回の転職を経て現職。
少人数やノウハウの蓄積のないために業務の進め方に不安を持っている法務担当者のための意見交換会です。
今回のテーマは「契約書レビューの手法」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

障害を持った従業員に適切な対応を はじめに  平成28年7月27日、厚生労働省が、平成27年度「使用者による障害者虐待の状況等」を公表しました。公表された調査結果のポイントと、障害をもった労働者を雇用する使用者として気をつけるべき点を検討していきたいと思います。 厚生労働省ウェブページ 平成27年度「使用者による障害者虐待の...
違法サイトに有名企業の広告 事案の概要 ポルノ画像や違法薬物の取引情報を載せたインターネットの違法サイトに有名企業の広告費が流れ込んでいるという事実が警察庁の調べで分かった。 インターネット上の広告は、企業が広告会社に広告の依頼をし、広告会社が配信会社に広告データを送ることで掲載される。配信会社はサイト管理者と配信契約を...
胆管がん 労災申請29人に 緊急特別セミナーも開催... 事案の概要  大阪市や宮城県の印刷会社の従業員らが胆管がんを相次いで発症している問題で、厚生労働省は28日、この1か月間に新たに11人について労災申請があったことを明らかにした。申請者はこれまでの判明分と合わせて計29人となる。11人の年代別の内訳は、30代2人、40代3人、50代1人、60代4人...