住民訴訟と企業について

はじめに

繊維大手「ユニチカ」(大阪市)が愛知県豊橋市から無償提供されていた工場跡地を市に返還せずに売却したのは不当だとして、住民130人が市に返還請求するよう求めていた訴訟で名古屋地裁は8日、請求を認め全額の返還請求を市に命じました。今回は住民訴訟と企業の関係について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、豊橋市は1951年にユニチカの前身会社に対し、市の所有する旧軍用地約27万平方メートルを工場用地として無償提供しました。ユニチカは2015年に同地の工場を閉鎖し、跡地を積水ハウスに約63億円で売却したとのことです。市がユニチカに工場用地を無償提供した際の契約書には「将来、敷地内で使用計画を放棄した部分は市に返還する」との記載があったとされ、同市の住民は工場跡地を市に返還せず売却した行為は不当であるとして、市に対し売却額につき返還請求するよう監査請求を行っておりました。その後監査請求の棄却を受けて住民訴訟の提訴に踏み切ったとのことです。

住民訴訟とは

地方公共団体の執行機関や職員が違法・不当な行為により公共団体に損害を生じさせ、または生じさせるおそれのある場合、住民が同公共団体に対し差止や損害賠償の請求をすることを求める訴訟を住民訴訟と言います。たとえば市が特定の業者に不当に安く市有地を売却したなどの場合に、住民が市に対して業者に不当利得返還請求や損害賠償請求をするように求めるといったものです。地方自治の本旨にのっとり、住民に司法的統制権を与えたものと言えます。

監査請求前置主義

公共団体の執行機関や職員が違法または不当な財務会計上の行為を行った場合に、住民が監査委員に対して、防止、是正、損害の補填など必要な措置を求めることができます(地方自治法242条)。これを住民監査請求と言います。その公共団体の住民であれば1人でも行うことができますが、違法・不当な行為から1年以内に請求する必要があります(同2項)。そしてこの監査請求で棄却された場合に住民訴訟に移行することになります。つまり住民訴訟を提起するためにはまず監査請求を行わなくてはならず、監査請求を行った住民だけが提起することができます(242条の2第1項)。

住民訴訟の手続き

住民訴訟で請求できる内容は①差止請求(242条の2第1項1号)、無効確認(同2号)、怠る事実の違法確認(同3号)、そして賠償請求、不当利得返還請求を相手方にすることを請求することができます(同4号)。一般的にはもっぱら4号請求によることになると言えます。住民訴訟はあくまで住民が市などの公共団体に対して提起するものであって、訴訟当事者は住民と公共団体ということになります。つまり違法・不当とされる行為の相手方は当事者とはなりません。しかし訴訟が提起された場合、その相手方に対しても訴訟告知がなされることになります(同7項)。そしてその相手方は当該訴訟に補助参加することが可能となります(民訴42条)。相手企業等は行政側について訴訟で戦うことができるというわけです。ここで参加しなかった場合でも行政側が敗訴した場合には敗訴の効果が及ぶことになります(民訴53条4項、46条)。

コメント

本件では主に豊橋市が工場用地を提供した際の返還条項の解釈が争点となりました。名古屋地裁は一部の土地を放棄した場合には返還し、全部の土地を放棄した場合には返還義務が無いと解することは不合理であるとして住民側の主張を認めました。これにより以後豊橋市はユニチカに対して不当利得返還請求を提起していくことになります。以上のように自治体と企業が契約等を行った際に、それについて住民が違法・不当であると考えた場合にこのような住民訴訟が提起されることになります。地方自治法の2002年改正以前は住民は直接企業を訴えることができていました。しかし現行法上はあくまで行政と住民の訴訟となります。企業は直接の当事者ではありませんが、最も利害関係を有しており補助参加することによって違法性は無いこと、または違法であったとしても行政側に過失等があり過失相殺ができるなど攻撃防御を尽くす必要があります。自治体等の行政を相手として取引等を行う場合には、このような住民からの訴訟提起もあり得るということを念頭に対策を準備しておくことが重要と言えるでしょう。

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東北大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了

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近時の著書等には『個人情報管理ハンドブック[第4版]』(商事法務、2018)、
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