従業員の「不倫」が企業にもたらす法的リスクと対応策

記事「従業員の「不倫」が企業にもたらす法的リスクと対応策」のイメージ

Yahoo!検索データの急上昇ワード・デイリーランキングで「センテンススプリング」が1位に輝くなど、タレントのベッキーさんと「ゲスの極み乙女。」のボーカルを務める川谷絵音さんの不倫疑惑が社会問題となって取り上げられています。これを受けて、ベッキーさんをCM起用する企業や番組起用するテレビ局、ベッキーさんの所属事務所などが対応に追われていると聞きます。そこで、今回は、自社の従業員が不倫を行ったときに企業に生じうる法的リスク、不倫を行った従業員への対処方法についてお話したいと思います。

不倫は違法な行為?

不倫を明確に禁止する法律はありませんが、民法770条1項1号で、一方的な離婚が認められる事由の一つとして定められています(当事者同士の同意がない限り、きちんとした理由がなければ一方的な離婚は認められません)。また、民法709条は、故意又は過失で他人の権利や法律上の利益を侵害した者に損害賠償責任を負わせており、これらの条文から、不倫は、民事裁判における損害賠償請求の対象となっています。
逆に言いますと、不倫をした相手に対しては事実上、お金を請求することくらいしか出来ないという言い方も出来ます。

不倫の被害者と企業の関係

不倫は、基本的に、不倫当事者2人と不倫の被害者の三角形(ダブル不倫だと四角形)の関係の中で処理されますが、不倫が業務中に行われるなど、仕事と関連した場面で行われていた場合、不倫の被害者は不倫の加害者の勤める企業に対して損害賠償請求を行う余地が出て来ます。民法715条のいわゆる使用者責任というものになります。

使用者責任が認められる条件

不倫の場面で使用者責任が認められるための条件は簡単ではありません。

①事業の執行に関連して不倫を行ったこと
従業員が、客観的に見て、企業の指揮・命令下にあると認められる場面で不倫を行ったことが、まず一つ目の条件になります。社内の施設で行われた場合や社用車での移動中などに行われた不倫などが代表例となります。

②従業員の行為が不法行為に該当すること
不倫が不法行為として認められるためには、基本的に、性交渉が行われている必要があります。そのため、性交渉を伴わない、ただの逢引きなどは、倫理的には大問題ですが、法律上は不法行為とは認められない可能性が高いです。もっとも、女性が既婚者である同僚男性からの幾度もの肉体関係の求めを巧みにかわして「貞操」を守った事案で、女性が同僚男性のアプローチをはっきりと拒絶せず、逢引きを重ねて二人きりの時間を過ごしたことを理由に、不法行為責任を認める判決を2014年3月に大阪地裁が出していますので、性交渉がなくても不法行為と認められる余地はあるようです。

③企業に過失や注意義務違反が認められること
企業が従業員の監督について過失がなかったり、相応の注意を払っていても、不倫を防止することが出来なかったと認められるときには、使用者責任は認められないことになります。そのため、企業の立場としては、不倫等が業務中に行われないよう、しっかりと監督していたという事実を客観的に残すことが大切になります。具体的には、従業員が誰にも知られずに長時間離席できない体制の構築、社外に出て業務を行うときに頻繁な報告義務を課すなどの方法が考えられます。

不倫の被害者と企業が接触する場面

不倫の被害者と企業が接触する場面は主に以下の二つの場面です。

①会社住所に従業員宛の慰謝料請求の内容証明郵便を送付して来る
目的は、会社に不倫の事実を告げ、会社からの何らかの処分を求めることにあります。

②使用者責任を問う可能性があることを匂わせながら、従業員に対する処分を求める
こちらはもう少し、踏み込んだやり方で、企業に対する訴訟をチラつかせながら、同じく、従業員に対する処分を求めるというものです。不倫の慰謝料を求める裁判は、証拠の収集等が難しいため、大きな金額が認められることが少なく、正直、企業にとって金銭的リスクはそれほど大きいとは言えませんし、上述の理由により、そもそも使用者責任が認められる可能性は低いですが、従業員の不倫を理由に訴訟に巻き込まれることは、社外イメージ・社内風紀を考えたときに企業にとって小さくないダメージを与える可能性があります。

企業がとるべき措置

不倫の被害者が企業に求めることは、基本的にお金ではなく、不倫の加害者である従業員に対する厳しい処分です。逆に、一番怒りを買うのは、企業が不倫の加害者をかばい立てするような姿勢を示すことです。企業側の担当者は、その点を念頭に、公正かつ厳格な姿勢で問題の処理にあたることを不倫の被害者に示す必要があります。特に、いわゆる社内不倫(不倫の当事者二人共が同じ会社内の人間)の場合はなおさら厳しい姿勢を示すことが求められます。
もっとも、不倫を行った従業員を処分するには、徹底的な調査による事実確認と自社が被った損害(金銭面、社内風紀の乱れ、社外イメージ等)の正確な把握、就業規則上の懲戒規定に抵触しているか否かの確認が必要になります。これらをおろそかにして、性急に従業員に重い処分を下した場合には、不当な懲戒処分として労務問題に発展するおそれもありますので、細心の注意を払った方が良いでしょう。
SNSの発展等により、出会いの場が増え、配偶者に隠れて不倫相手と連絡を取ることも容易になっています。今後、企業が従業員の不倫問題に巻き込まれる場面が増えることが予想されますので、事が起こる前に、あらかじめ、従業員が不倫を行った場合の対応を協議しておくといいかもしれません。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約2年5ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
 
[著者情報] mo.saito

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務コラム
『事例で学ぶ 労務問題解決のセオリー講座』~IRACをきちんと回して解決する労務問題~
2018年08月01日(水)
13:30 ~ 16:30
18,000円(税込)
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
サイネオス・ヘルス合同会社
アジア太平洋地域法務責任者

1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業双方で通算30年以上の企業法務・国際法務の経験を有する現役の企業法務責任者です。
当社は、東京にて、企業法務パーソン(企業法務担当者・インハウスローヤー等)のためのビジネススクールを運営しています。
企業法務にまつわる「知識」を学ぶ研修・講座は世の中に数多くありますが、当社が運営するリーガルビジネススクール(LBS)は、
法務担当者としての「思考方法」や「仕事術」を学ぶことに焦点を当てています。

今回は、『事例で学ぶ 労務問題解決のセオリー講座』を開催いたします。

★「休業手当は平均賃金の60%でいいんじゃないの?100%払えって、弁護士名で手紙が来たけど。。。!!」
★「先日入社したAさん。実は逮捕歴があったらしいの。そんなこと、人材紹介業者は何も言ってなかったけど、どうしよう。」
★「裁判所から“債権差押命令”っていうのが来たけど、どうすればいいの?ウチの社員に給料を払っちゃいけないらしんだけど、ホント?」
★「この間辞めた営業部長、ライバル会社で働いているらしいけど、それって問題ないの?」
★「Bさんともう3日連絡が取れていません。電話してもでないし、メールも返信なし。自宅に直接行っても誰もでない。どうすればいい?」

なくなってほしいけれど、そう簡単になくならないのが労務問題。企業が人の集団である以上、労務問題から解放されることはおそらくないでしょう。
そうであるならば、法務担当者や人事担当者は、勘や経験のみに頼ることなく、こうした問題への適切なアプローチを理論として学ぶことがとても重要だと考えます。

本講座では、人事部長も務めたことのある現役の企業法務責任者が講師として、上述の事例をベースに、IRAC* (*Issue, Rule, Application and Conclusion)の手法を用いて、
企業における労務問題への適切なアプローチ ー解決に向けて踏むべきステップー を解説し、またこうした問題への予防策にも言及してまいります。
申込・詳細はコチラ
法務コラム
第101回MSサロン(名古屋会場)
2018年08月02日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「取引基本契約書 ~ その作成・交渉の実務及び民法改正に対応する場合の留意点」です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム
【名古屋】共同開発契約/ライセンス契約《法務担当者のための英文契約セミナー:第6回》
2018年07月25日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第6回目のセミナー内容は共同開発契約/ライセンス契約です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム
【名古屋】ジョイントベンチャー契約/株主間契約《法務担当者のための英文契約セミナー:第7回》
2018年08月08日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第7回目のセミナー内容はジョイントベンチャー契約/株主間契約です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム
【名古屋】AIに関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第3回》
2018年08月09日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第3回目のテーマはAIに関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

個人情報保護新法、国外企業にも適用か…シンガポール法務事情... 個人情報保護新法、国外企業にも適用か…シンガポール法務事情 事案の概要  シンガポールの情報芸術省(Ministry of Information, Communications and the Arts :MICA)は、3月19日、個人情報保護新法の第3次パブリックコメントを開始した。 ...
野村證券職務発明事件 、高裁でも合理性否定... 野村證券職務発明事件の概要   野村證券株式会社の元従業員が、会社に対し、リスクチェックに対する電子注文の際の伝送レイテンシ(遅延時間)を縮小させる方法等に関する発明につき、特許法35条3項及び5項に基づき相当の対価として2億円を請求した事件である。平成16年の特許法改正後、初めての職務発明規程に...
消費者契約法改正の動きについて はじめに 政府は2日、民法改正による成人年齢引き下げを踏まえ「デート商法」などの契約を取り消すことができるようになる消費者契約法の改正案を閣議決定しました。10代の成人を悪質商法から保護することを主な目的としています。今回は消費者契約法改正のポイントについて見ていきます。 法改正の経緯 2...