所有権移転請求事件で市が勝訴、時効取得について

はじめに

兵庫県篠山市がかつて買収していた土地の所有権移転登記を求め、住民を相手取り提訴していた訴訟の上告審で最高裁が上告棄却していたことがわかりました。市側の勝訴が確定したこととなります。今回は所有権の帰属を巡る紛争での時効取得について見ていきます。

事案の概要

 
報道などによりますと、篠山市は住民からの問い合わせにより市の西紀支所の敷地の一部に住民名義の土地が存在することが判明しました。同市が村誌や組合議事録等の調査した結果1949年から1955年にかけて行った中学校建設用地として買収した20筆あまりの土地の一部であり、所有権移転登記がなされないままとなっていたことがわかったとされます。市は住民側に移転登記手続きを求めたところ、契約書や領収書が無いことから理解が得られず2015年に住民4人を相手取り提訴に踏み切ったとのことです。

時効取得とは

他人の物を一定期間占有するとその所有権を取得することができます(民法162条)。これを時効取得と言います。その趣旨は長期間継続した状態の保護と時間の経過による立証困難の救済、そして権利の上に眠る者は保護しないと言われております。他人の土地等を得たという場合だけでなく、もともと自己の土地であるけれどそれを証明できないといった場合にも利用されます。所有権の帰属を巡って争われている訴訟でも頻繁に利用される重要な法制度と言えます。その要件は①所有の意思をもって、②平穏かつ公然と、③20年または10年間占有し、④援用の意思表示をすることです。

取得時効の要件

(1)所有の意思
所有の意思とは自主占有意思とも呼ばれ、自己の所有物としての意思を言います。他人の所有を認めつつ何年占有しても取得できないということです。この所有の意思は客観的に判断されます。たとえば占有原因が賃貸借や使用貸借の場合には所有の意思は否定されます(最判昭和58年3月24日)。

(2)平穏かつ公然
その占有が平穏かつ公然と行われている必要があります。暴行や脅迫、また隠避、隠匿による占有といったものでは時効取得はみとめられないということです。この平穏性・公然性は推定規定が置かれており(186条1項)、時効を主張する側は原則立証は不要です。

(3)占有期間
時効取得するための占有期間は20年と10年があります。自分の所有であると信じ、信じることにつき過失がない場合(善意無過失)は10年で、そうでない場合は20年で時効が完成することになります。善意であることも推定されておりますが、無過失については推定されておりません(186条1項)。また占有はその期間中継続される必要がありますが、占有開始時と完成時の両時点の占有を証明すれば、その間の占有も推定されます(同2項)。

(4)援用の意思表示
時効は完成してもただちに効力が発生するわけではなく、当事者が援用の意思表示をして初めて効力が発生するといわれております(145条 最判昭和61年3月17日)。時効制度を利用するしないも当事者の自由ということです。

コメント

本件では市が用地買収したときの契約書や代金を支払った時の領収書など、住民が市に土地を売却したことを証明する証拠は存在しませんでした。しかし長年にわたって市が本件土地を占有し続けていた事実が認められ市が時効取得していると判断されました。市側は用地買収して所有権を得ていたことに加えて、時効取得も併せて主張していたと考えられます。このように時効取得は売買契約等、本来の所有権移転原因を証明できなかった場合でも予備的に主張して所有権の帰属を主張する武器となります。時効取得は一般に知られているよりも要件は複雑で理解しにくい点も多いと言えます。用地の帰属で紛争が生じた場合、または逆に他社に占有されている場合等に備え要件を正確に把握しておくことが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務コラム 法務ニュース 訴訟対応 民法・商法
第104回MSサロン(名古屋会場)
2018年11月07日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「国際取引契約の実務入門~英文契約を取り扱う際に最低限知っておくべきこと~」です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 訴訟対応 民法・商法
【名古屋開催】自動運転技術に関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第6回》
2018年11月22日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第6回目のテーマは自動運転技術に関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 訴訟対応 民法・商法
《東京開催》GDPR対応の実務 日本企業にとってのFAQと優先順位
2018年11月16日(金)
09:45 ~ 11:45
17,000円(税別)
東京都港区
講師情報
石川 智也
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
EUにおける知的財産制度・競争法、EUデータ保護規則をはじめとする
グローバルベースでのデータ規制についても詳しい。

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
本講演では、多くの日本企業のGDPR対応をサポートしてきた講師が、その過程でよく質問を受ける事項を解説するとともに、
作業の優先順位を明確にして、日本企業がどのようにGDPR対応を行い、今後どのようにGDPRコンプライアンスを維持していくべきかについて解説いたします。

解説に際しては、欧州データ保護評議会(EDPB)が公表・承認しているガイドラインの内容を踏まえることはもちろんのこと、各国の監督当局が公表している情報・オピニオンや、
GDPR施行後の当局の執行状況を含め、現地の最新動向について、お話ししいたします。

また近時、M&Aのデューディリジェンスの過程で買収する会社のGDPRコンプライアンスが問題になることがしばしばありますので、その際のチェックポイントについても触れたいと思います。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 訴訟対応 民法・商法
《東京開催》企業におけるAI活用と個人情報保護・プライバシーの留意点
2018年11月07日(水)
14:00 ~ 16:30
18,000円(税別)
東京都港区
講師情報
野呂悠登
TMI総合法律事務所 弁護士

東北大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了

平成27年改正個人情報保護法の全面施行前後に、
個人情報保護委員会事務局において、
法令関係とデータの利活用関係を担当

近時の著書等には『個人情報管理ハンドブック[第4版]』(商事法務、2018)、
「AIによる個人情報の取扱いの留意点」(Business Law Journal、2018年6月号)、
「ビッグデータ・個人情報の利活用と先端ビジネス」(Business Law Journal、2018年8月号付録〔LAWYERS GUIDE〕)等がある。

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
最近、AI関連技術の発展等により、AIの活用に対する期待が高まっており、ビジネスにおいて実際にAIの活用を始める企業が増えてきています。

AIを活用する場合、従来人間の脳が行っていた知的な作業をコンピュータに行ってもらうことになるため、従来想定されなかった様々な法的問題点が生じることが想定されます。
特に、機械学習を用いたAIを用いる際には、従来とは異なる方法で大量の情報を集積し又は処理を行うため、個人情報保護法やプライバシー権との関係が問題となりやすいと考えられています。

本セミナーでは、平成27年の個人情報保護法の全面施行前後において、同法を所管する個人情報保護委員会にて法令の担当者を務めた講師により、
AIを活用することを検討している企業の担当者向けに、企業におけるAI活用と個人情報保護・プライバシーの留意点を具体的な事例を基に解説します。
申込・詳細はコチラ
法務コラム 法務ニュース 訴訟対応 民法・商法
《東京開催》海外企業との販売店契約/ディストリビューション契約 -豊富な実例に基づく、各条項の検証-
2018年11月06日(火)
09:30 ~ 11:45
17,000円(税別)
東京都港区
講師情報
豊島 真
小島国際法律事務所
パートナー 日本及びカリフォルニア州弁護士

東京大学法学部卒
1999年弁護士登録(第二東京弁護士会)
カリフォルニア大学デービス校ロースクール修士課程卒(LL.M.)
国内外の販売店契約に関する取扱い案件多数
著作に「販売店契約の実務」(中央経済社・共著・編集担当)

主催
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
販売店契約(ディストリビューション契約)は、サプライヤーの商品を、販売店(ディストリビューター)の販売チャネルを通じて販売するための契約です。
本セミナーではかかる販売店契約を取り扱いますが、その意義・目的は以下のとおりです。

①実際の事例の紹介を多く行います。よく見かける契約書の条項の一言一句の大切さは、実際に問題が起こってから初めて思い知らされることが多いものです。
実際に起こった問題に触れながら、これまで見過ごしていたかもしれない各条項の重要性について見ていきます。

②販売店契約は、企業間取引で最も頻繁に使われる契約の1つであり、英文契約の入門科目として最適と言えます。

これから英文契約について本格的に学びたいという方にも役立ちます。
(参考資料として、英文販売店契約のひな型をお配りします。)
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

【規制緩和】プレミアム商品券発行について 一定条件で保証金供託不要に... 事案の概要 経済産業省は2014年8月25日、有効期限が一定期間内のプレミアム付き商品券について、資金決済法の発行保証金の供託に関する規制の適用除外とする特例措置が創設されると発表した。同省は地域消費の活性化等につながると期待している。 プレミアム商品券とは プレミアム商品券とは例えば、1万円で...
今国会に提出される見込みの労働基準法改正案のポイント... 労働基準法改正案が今国会に提出へ 安倍政権が掲げる「働き方改革」の柱となる労働基準法改正案の具体的な内容が明らかになってきました。厚生労働省は、今月6日をめどに開く労働政策審議会(厚生労働省の諮問機関)の分科会において、労働基準法改正案の報告書に以下の内容を盛り込んだ報告書案を提示し、今月内に...
外国語版被疑者ノート 概要 日弁連は、違法な取り調べや虚偽の供述調書作成を防ぐため弁護人が容疑者に差し入れる「被疑者ノート」の外国語版を作成したと発表。英語、中国語、韓国語の3ヶ国語で、各弁護士会に配布するという。 「被疑者ノート」とは 容疑者や被告が取り調べの状況を日記形式で記録するもので、多くは弁護人から渡される...