最高裁が元証券幹部の有罪確定、第三者への情報提供について

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はじめに

SMBC日興証券(旧日興コーディアル証券)が関わったTOBを巡るインサイダー取引事件で最高裁は、同証券元執行役員の吉岡宏芳被告(55)の上告を棄却していたことがわかりました。知人への情報提供行為でインサイダー取引の教唆犯が認められたことになります。今回はインサイダー取引の要件について概観します。

事件の概要

報道等によりますと、当時三井住友銀行から出向し、旧日興コーディアル証券の執行役員となっていた吉岡被告は2010年から2011年にかけて未公開のTOB情報を自らの重要顧客であった加藤元被告に提供し、それに基づいて加藤元被告がTOBに関連する3社の株式を購入し、TOB公表後に売り抜けるというインサイダー取引を行ったというものです。これにより加藤元被告は約3,600万円の利益を得たとのことです。加藤元被告自身のインサイダー取引事件については既に確定しております。吉岡被告については第一審で検察側は吉岡被告と加藤元被告が共謀の上でインサイダー取引を行ったとして起訴しましたが、吉岡被告自身は取引を行っておらず、加藤元被告から利益の提供も受けていないことから共謀から教唆犯への訴因変更を行っておりました。弁護側は情報提供自体を罰する規定が無い旨反論していましたが横浜地裁、東京高裁は教唆犯を認定し有罪としました。最高裁もそれらを支持し上告棄却。懲役2年6月、執行猶予4年、罰金150万円が確定しました。

インサイダー取引の要件

金融商品取引法166条によりますと、「会社関係者」が上場会社等の業務等に関する「重要事項」を、その者の職務等に関して知りながら、「公表」される前に当該上場会社等の株式等の「売買」を行ってはならないとしています。
(1)会社関係者
ここに言う会社関係者とは上場会社の役員、社員、アルバイト・パート、会社の帳簿等の閲覧ができる株主等、監督官庁の公務員、当該会社と取引を行っている者、会計監査を行っている者、顧問弁護士、有しを行っている銀行およびその部門の役員等、証券会社およびその社員などが該当します。職務上当該会社の重要事項について一般投資家よりも先んじて知りうる立場に有るものということです。

(2)重要事項
重要事項とは、株式・新株予約権の募集、資本金、準備金等の減少、自己株式取得、株式無償割当て、株式分割、剰余金配当、株式交換、株式移転、合併、分割などを言います。それ以外にも新製品の開発や新技術の発明、事業譲渡、などの株価に影響を及ぼす事項も該当します。

(3)公表
公表とは①2つ以上の報道機関に対して公開され、12時間が経過したこと、③TDnet等により公衆の縦覧に供されたこと、③有価証券届出書等に記載し、公衆の縦覧に供されたことのいずれかに該当する場合を言います(金商法施行令30条)。この「公表」がなされる前に株式の取引等ができないということです。

(4)TOBの場合
TOB(公開買付け)の場合は「公開買付者等関係者」が「公開買付等事実」を職務上知りながら「公表」される前に取引等を行ってはならないとしています(167条1項)。公開買付けを行う会社の役員や監督官庁の公務員、証券会社等が該当します。

関係者の範囲について

規制の対象となる「会社関係者」の範囲については、上記の者に加え元会社関係者、第一次情報受領者も含まれることになります。元会社関係者とは会社関係者でなくなって1年以内の者を言います。ただし会社関係者であった当時に知った情報に限られます。第一次情報受領者とは会社関係者から情報提供を受けた者を言います。直接提供を受けた者の他、職務上情報の提供を受けた者が所属する法人の役員等で職務上知った場合も該当します。つまり会社関係者の家族、知人、証券会社の社員や役員、証券アナリストなども含まれることになります。それを超えた第二次情報受領者は除外となります。

コメント

本件で元日興コーディアル証券の役員であり、職務上未公開のTOB情報を知ることができた吉岡被告は金商法上の「会社関係者」に該当します。そしてその吉岡被告から情報提供を直接受けた加藤元被告は「第一次情報受領者」該当します。そしてその情報をもとに取引を自ら行った加藤元被告はインサイダー取引の正犯となります。しかし直接取引を行わず、利益も受けていない吉岡被告に教唆犯が成立するのかが争点となりました。当時2014年改正前の金商法では情報提供のみを処罰する規定が無かったためです。この点について裁判所は「インサイダー取引規制の徹底を図る法の趣旨」から教唆も成立するとして認めました。教唆犯が成立するには犯罪実行をそそのかし、現実にそそのかされた者が実行する必要がありますが、現行の改正法では重要事項について情報を提供しただけで処罰されることになります(167条の2)。インサイダー取引は要件が複雑な上に規制範囲も拡張されていることから会社の重要事項を知った場合には、自ら株取引を行わなくてもその扱いには十分な注意を払う必要があると言えるでしょう。

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本記事は、約2年7ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
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