株主提案権を制限へ、会社法改正の動き

はじめに

日経新聞電子版は15日、法務省法制審議会が1人の株主が提案できる議案数に制限をかける会社法改正試案をまとめた旨報じました。パブリックコメントを経て来年2019年の通常国会提出を目指すとのことです。今回は会社法改正案のポイントを見ていきます。

株主提案権とは

株主提案権とは一定の議決権割合を有する株主が、会社が招集する株主総会で一定の事項を会議の目的とする権利を言います。株主総会は原則として取締役が招集し(会社法296条3項)、その議題も基本的に取締役等が决定することになります。そうすると少数株主は株主総会にあまり影響を与える機会が無いことになります。そこでそういった少数株主も積極的に株主総会に参加し、意思を反映させる機会を確保することが目的となります。しかし濫用的な行使を防止するため一定の要件が規定されております。

株主提案権の種類

(1)議題提案権
議題提案権とは一定の事項を株主総会の会議の目的とすることを請求する権利を言います(303条1項)。議題とは例えば「取締役解任の件」「監査役選任の件」「定款一部変更の件」といった会議の目的そのものを言います。

(2)議案提案件
議案提案件とは株主総会で会議の目的となっている議題についての議案を提出する権利を言います(304条)。議案とは議題で决定すべき具体的内容のことで、例えば「取締役選任の件」という議題に対し、「◯◯氏を取締役に選任すること」といった議案を提出することをいいます。しかし本来会議の一般原則から、会議参加者は動議の提出を当然にできるものであり議案の提案件はその原則を確認しただけとも言われております。

(3)議案要領通知請求権
株主総会の目的となっている議題につき、株主が提出しようとしている議案の要領を招集通知に記載するよう請求する権利を議案要領通知請求権といいます(305条1項)。株主総会の招集を書面または電磁的方法で行う場合にはそれらに記載して、そうでない場合は別途株主に通知することを請求できます。

行使要件と行使方法

株主提案権を行使するためには一定の議決権要件があります。まず公開会社では議決権の1%または議決権300個を6ヶ月以上保有する必要があります(303条2項)。非公開会社で取締役会設置会社の場合は議決権割合については同じですが、保有期間の制限はありません。非公開会社で取締役会非設置会社の場合はこれらの議決権要件はありません。そして行使する場合は株主総会の日の8週間前までに会社に請求する必要があります(303条1項、305条1項)。また内容の制限として、議案の内容が法令定款に違反するものや以前に議決権の10%以上の賛成を得られず否決され3年を経過していないものは不可となります(305条)。

改正案のポイント

現在法制審議会会社法部会が取りまとめた試案によりますと、株主提案権で株主が提案できる議案数に制限をかける案が出されております。1人の株主が数百件の議案を提出したといった例もあり、このような総会の遅延や混乱を目的とした濫用的な株主提案を防止する趣旨です。1人の株主が提出できる議案数を5個までにする案と10個までにする案が出されているとのことです。議決権要件は変更せずに、招集通知の発送を現在の2週間前から3週間前、4週間前に前倒しし、株主により早く情報提供する案も出されております。またそれら以外にも株主の個別承諾無く事業報告などをインターネットで提供できる案や、社外取締役の設置の義務付け、特別取締役制度の拡充案なども盛り込まれております。

コメント

今回の改正案が実現した場合、株主から提案される議案の数が大幅に制限されることになります。米国やドイツといった海外の会社法では1人の株主が提案できる数は1個であったり、提案内容で制限している国もあるとされます。現在日本の会社法ではこのような制限はありませんが、法改正によって1人で数百件の提案といった濫用的な提案が防止でき、総会運営が迅速なものとなり、本来重点を置くべき議題に集中できるよう期待できます。また事業報告が原則インターネットとなり、よりコスト削減も期待できます。株主提案や招集通知といった株主総会の手続きに関しては、不備があった場合は株主総会決議取消の訴えの対象となってきます(831条1項1号)。法改正の情報に注視しつつ、株主提案などがなされた場合には議決権要件や期間要件、行使方法に問題が無いかなどを慎重に確認していくことが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:,
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

弁護士コラム 法務ニュース 商事法務 会社法 法改正
【名古屋】AIに関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第3回》
2018年08月09日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第3回目のテーマはAIに関する法律問題です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
弁護士コラム 法務ニュース 商事法務 会社法 法改正
【名古屋】誹謗中傷記事・炎上対策《ITビジネス法務勉強会:第4回》
2018年09月06日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第4回目のテーマは誹謗中傷記事・炎上対策です。
申込・詳細はコチラ
弁護士コラム 法務ニュース 商事法務 会社法 法改正
【名古屋】情報セキュリティ対策《ITビジネス法務勉強会:第5回》
2018年10月18日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第5回目のテーマは情報セキュリティ対策です。
申込・詳細はコチラ
弁護士コラム 法務ニュース 商事法務 会社法 法改正
【名古屋】自動運転技術に関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第6回》
2018年11月22日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第6回目のテーマは自動運転技術に関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
弁護士コラム 法務ニュース 商事法務 会社法 法改正
《渋谷開催》データの利用に関する最近の法令と契約実務
2018年9月10日(月) 15:00~17:20(14:40開場)
10,000円(1名様)
東京都渋谷区
講師情報
岡 伸夫
1992年 京都大学法学部卒業
1994年 大阪弁護士会 登録 梅ケ枝中央法律事務所 
2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー    
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設

弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員 

企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士

主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
IoT技術の進展にともない、公開・非公開のデータの収集・解析と派生データの活用が盛んに行われることが今後予想されます。
他方で多額の費用と労力をかけて有用なデータベースを構築し、営業秘密でない形でサイトやアプリでユーザーに提供している会社においては、
競業他社による目的外利用を予防し、侵害を受けた場合に権利主張していく方法を検討・確保することが重要になってきます。
このセミナーでは、データの利用に関する最近の法改正の紹介と共に、これらを背景にデータ提供に関する約定、提携先との契約において
留意しなければならないポイントを説明いたします。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

日米がアルゼンチンをWTO提訴 概要  日米両政府は8月21日、アルゼンチンが外国産の自動車や電気製品などの輸入を不当に制限しているとして、世界貿易機関(WTO)に提訴する手続きに入ったと発表した。今後、9~10月に両国政府で協議を実施することになるが、話し合いが不調に終われば、WTO内に第三者からなるパネルを設置することになる...
小規模の障害者施設、スプリンクラー設置義務化へ... 事案の概要 総務省消防庁はこれまで対象外であった小規模障害者施設について原則としてスプリンクラーの設置を義務付ける方針を固めた。 これは、今年2月に起きた認知症グループホームの火災を受け、原則として全ての高齢者向け福祉施設についてスプリンクラーの設置を義務化することを検討するのに伴い、同様...
軽自動車も燃費課税の対象に 事案の概要 政府・与党は、自動車を購入する際に燃費性能に応じて課される「燃費課税」について、普通自動車に加えて軽自動車も対象とする方針を固めた。普通車と同様に軽自動車にも燃費課税をすることによって、自動車の購入者にエコカーを選ぶよう促すねらいがある。政府はすでに、消費税が10%に増税された場合に自...