京セラの元経理が3700万円着服、懲戒解雇について

はじめに

 電子部品大手「京セラ」の元従業員が架空の支払いで会社から約3700万円を詐取した疑いで逮捕されていたことがわかりました。京セラはすでに懲戒解雇したとのことです。今回は従業員が犯罪行為を行った場合の懲戒解雇について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、京セラの元経理責任者の中川容疑者(52)は、実在する商社への架空の取引を装い、自分の口座に振り込むといった手口で会社から約3700万円だまし取った疑いが持たれております。昨年の7月に別の従業員が不審な取引に気付き発覚したとされます。被害総額は1億2600万円にのぼり、同社は懲戒解雇した上で今年2月に刑事告訴したとのことです。だまし取った金は遊興費や住宅ローンに当てていたと見られております。

懲戒解雇とは

 解雇には一般的に「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3種類があると言われております。会社の経営上の理由による解雇を整理解雇といい、それ以外の理由で雇用契約を解除する場合を普通解雇といいます。そして会社からのペナルティとして解雇する場合が懲戒解雇です。懲戒事由には様々なものが有り、会社内での犯罪行為、パワハラ・セクハラ、経歴詐称、無断欠勤、私生活上の犯罪行為などが挙げられます。

懲戒解雇の要件

 懲戒解雇を行うためにはまずその前提として就業規則に規定を置いておく必要があります。どのような場合に解雇されるかを従業員に予め周知しておき、従業員に不意打ちにならないようにとの配慮です。これは刑法の罪刑法定主義と同様の趣旨です。懲戒事由が発生してから慌てて就業規則を置いて解雇することはできません。次に懲戒事由が発生したら速やかに手続を行う必要があります。何年も前に発生した事由を突然持ち出して解雇することは不当とされます。そして懲戒処分の判断は公平かつ適正にする必要があります。同様の事由でも処分内容が従業員によって不当な差異が生じてはならないとされております。また当人に弁明の機会を与え、詳細に調査を行うことも必要です。そして原則的に懲戒処分でも30日前の解雇予告は必要とされます。労基署に解雇予告除外認定申請もできますが、それにも期間と手間がかかることから予告を行うほうが無難と言えるでしょう。

従業員の私生活上の犯罪行為である場合

 たとえば従業員が社外で窃盗や痴漢行為などを行ったとして逮捕された場合、懲戒解雇はできるのでしょうか。会社とは関係ないところでの私生活上の行為による懲戒処分には諸般の事情を考慮した上で客観的な合理性と社会的相当性が必要とされております。深夜酩酊し他人の住居に侵入した例で刑が軽く、会社内での地位も高くないことから懲戒解雇を無効とした判例(最判昭和45年7月28日)や、酒気帯び運転の運送ドライバーの退職金不払いを認めず3分の1を支払いを命じた裁判例(東京地裁平成19年8月27日)も存在します。また刑事法上犯罪行為は有罪判決が確定するまでは無罪の推定を受けており、仮に無罪判決が確定した場合は犯罪行為は最初からなかったことになります。それゆえに逮捕段階ではなく判決が確定してから処分を行うほうが無難と言えます。

会社に対する犯罪行為である場合

 窃盗や横領、架空請求など会社内での犯罪行為の場合はどうでしょうか。会社内の犯罪行為の場合、私生活上の犯罪行為と違い会社との信頼関係を裏切る行為であることから裁判例上も懲戒解雇は認められやすい傾向にあると言えます。しかしこの場合でも適正・公平な手続は必要です。当人から弁明を聴いた上で、詳細な事実関係の調査を行い十分に審議を行った上で処分を決定しなくてはなりません。調査や立証が不十分であるとして懲戒解雇を無効とした裁判例も多いと言えます(大阪地裁平成6年7月12日、福岡高裁平成9年4月9日等)。

コメント

 本件で中川容疑者は経理責任者という立場を利用して架空請求を行い、総額約1億2600万円もの会社のお金を詐取した疑いが持たれております。会社内での立場や被害額の大きさからも会社に対する背信性は大きいと言えます。また本人も容疑を認めており京セラがすでに行った懲戒解雇処分は有効なものと考えられます。以上のように従業員が犯罪行為を行ったことを理由とする懲戒解雇にも要件や手続が存在します。社外で逮捕されたからと、即解雇とされる場合も多いと言われておりますが、訴訟に発展した場合には、事実関係の調査不足、十分な審議を行っていない、会社への影響は小さいなどの理由で無効判決が出されることも多いと言えます。懲戒解雇を考える場合は要件や手続を十分に履践して行うことが重要と言えるでしょう。

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中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
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外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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