裁判例にみる暴排条項の有効性について

はじめに

日経新聞電子版は5月30日、保険会社が約款に規定された暴排条項に基づいて保険契約を解除したことの有効性を巡る訴訟で、広島高裁岡山支部が解除を有効と認め、確定していた旨報じました。保険契約解除の有効性に関する先例となりうる裁判例とのことです。今回は裁判例から暴排条項を見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、2014年に岡山県の建設会社が会社を契約者、代表取締役の男性を被保険者として生命保険と損害保険契約を締結しておりました。しかしその後、代表取締役の男性と暴力団幹部との交友が確認されたことにより同社は岡山県から県発注工事の指名業者から除外されとのことです。それを受け保険会社も約款の暴排条項を根拠として本件契約を解除しました。建設会社側はこれを不当として解除の無効確認を求め提訴していたとされます。

暴力団排除条項とは

2009年に福岡県で暴力団排除条例が制定されたことを皮切りに全国の各都道府県で同様の条例が制定されていきました。東京都暴力団排除条例の18条1項では「事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方…が暴力団関係者でないことを確認するよう務めるものとする」とし、2項では「事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう務めるものとする」としています。そして同項1号で「当該事業に係る契約の相手方…が暴力団関係者であることが判明した場合には…催告することなく…契約を解除することができる」と規定しています。つまり事業者は契約の相手が暴力団関係者でないことを確認し、契約の際には暴力団関係者と判明したら無催告解除ができる旨の規定を設ける努力義務を課しております。

暴力団関係者の意義

各都道府県暴排条例によって「暴力団関係者」や「暴力団密接関係者」などといった規定のされ方がされておりますが、その具体的な意味は暴力団または暴力団員が実質的に経営を支配する法人に所属している者、暴力団員を雇用している者、暴力団を不当に利用している者、暴力団の運営、維持に協力している者、その他暴力団と社会的に非難されるべき関係がある者などを含むと言われております。

暴排条項に関する裁判例

暴排条項に関する裁判例として次のようなものがあります。銀行が預金契約締結後に取引約款を改定し暴排条項を盛り込み、それに基づいて当該預金契約を解除したというものです。この事例では①当該暴排条項自体の合憲性・有効性、②遡及適用の可否、③信義則・権利濫用とならないかが問題となりました。裁判所は①については正当性、合理性が認められ憲法や公序良俗に反しないとし、②については預金契約の性質上、約款による必要性が高く、また合理的な範囲で変更されることも予定されており、既存の契約にも適用しなければ目的が達成できないことから遡及適用は有効とし、③については信義則・権利濫用も否定しました(福岡高裁平成28年10月4日)。

コメント

本件で問題となったのは保険約款に規定された暴排条項に基づく契約解除については「保険金詐欺の恐れがある場合」に限定されるべきではないかという点です。保険法では保険契約者保護の規定が強化されており、それらの観点から暴排条項による解除も限定的に適用すべきとの見解があるからです。これに対し広島高裁岡山支部は保険会社の信頼と業務の健全性を維持するためのものであり保険金詐欺の恐れがある場合に限定されるべきではないとしました。また本件では原告男性が反社会的勢力との関係を誇示していたという事情も認められた点が考慮されたのではないかと思われます。以上のように近年暴力団排除の機運が高まり、裁判所もそれを積極的に容認する判決を出している傾向にあります。これを機に契約約款や雇用の際の誓約書をこれらの裁判例を踏まえて見直してみることが重要と言えるでしょう。

 
[著者情報] mhayashi

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2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向

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修士(法学)・博士(経営法)

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鋼管営業部企画・調整室長、監査役事務局部長、社団法人日本監査役協会常務理事、獨協大学法科大学院教授を経て、現職。

専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。
長年の実務経験をもとに、法理論と実務が相まった解りやすい解説は定評がある。
国際取引法学会理事、企業法学会理事、(一社)GBL研究所理事。東京大学商法研究会所属。

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■淵邊 善彦(ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士)

1987年東京大学法学部卒業。
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95年ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業。
00年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
08年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)。
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02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

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■白石 和泰(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)

98年司法書士試験合格。
03年弁護士登録。
13年ワシントン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
13~14年Dorsey & Whitney LLPおよびBracewell LLPで研修。
14~15年外務省経済局政策課専門員。
第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会委員、情報ネットワーク法学会会員。全銀協オープンAPI推進研究会元メンバー。無人航空従事者試験(ドローン検定)1級。

『AI・ロボットの法律実務Q&A』(勁草書房、19年2月)、『個人情報管理ハンドブック〔第4版〕』(商事法務、18年3月)、「Japan chapter of Getting The Deal Through」(Cybersecurity)(18年1月号)など編著書多数。


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96年弁理士登録。
国内及び海外における特許出願、ライセンスや特許売買等のトランザクションや侵害訴訟、包括的な知財戦略支援等に従事。電気情報や機械制御等の技術を主に扱う。
97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
翌年、創英の米国オフィスをシリコンバレーに開設。07年米マイクロソフト本社知的財産部に入社。
11年アジア地区特許ディレクター兼日本マイクロソフトの知的財産部長に就任。14年TMI総合法律事務所入所。出版、講演多数。

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略歴:
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2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
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2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
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