東芝決算発表「監査意見なし」へ、会計監査意見とは

はじめに

日経新聞電子版は11日、東芝が2016年4月~12月期の決算発表で監査法人の「適正意見」を付けずに発表する方向で最終調整を行っている旨報じました。米原子力会社ウエスティングハウスの内部統制を巡り監査法人と意見が対立しているとのことです。今回は会計監査人の監査意見について見ていきます。

事案の概要

東芝はこれまでも度々取り上げてきましたが、2015年7月、第三者委員会の報告により巨額の粉飾決算が発覚しておりました。一連の不正会計の一部として2011年に巨額の資金で買収した米ウエスティングハウスについて同社内での内部統制不備が発覚していたとのことです。同社の前会長であるダニー・ロデリック氏が損失を抑えるために従業員に圧力をかけていた疑いが浮上しておりました。この点について東芝側は圧力があったのは昨年末以降であり2016年4月~12月期の決算の訂正は不要としております。対して東芝の監査法人は、それ以前にも圧力があった可能性があり、同期決算が適切かは疑問であるとして両者の意見が対立しているとのことです。すでに2度の決算発表延期を行っていることから東芝は監査法人による意見を付さないまま決算発表を行う見通しとなっております。

会計監査人とは

会計監査人とは会社の計算書類および附属明細書等の会計監査を行うことを職務とする会社の機関を言います。どのような会社でも会計監査人を設置することができますが(会社法326条2項)、大会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は設置が義務付けられます(328条、327条5項)。会計監査人は公認会計士か監査法人に限定され(337条1項)、任期は1年で、定時株主総会で別段の決議がなければ再任と見なされます(338条1項)。会計監査人の選任・解任については監査役が議案の内容を決定することとなります(344条)。

会計監査人の監査

会計監査人は会社の計算書類について「一般に公正妥当と認められる監査に関する基準及び慣行に従って」監査を行います(内閣府令3条2項)。そして会計監査人が計算書類について監査を行った後、監査報告書に以下の4種類の「意見」を付することになっております。
①無限定適正意見
一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行った結果、すべての重要な点において適正に表示がなされている旨の意見を無限定適正意見と言います。計算書類は監査の後、取締役会と株主総会での承認を要しますが、この無限定適正意見が付されている場合は株主総会による承認は不要となります(436条、438条2項、439条、規則135条)。

②限定付適正意見
一部不適切な表示がある場合に、それら不適切事項を記載した上で、それ以外の財務状況につき「それらの事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している」との意見を付します。これが限定付適正意見です。公認会計士協会の実務指針によりますと、具体的に計算書類のどの部分にどのような疑義が有り、どのような記載が欠落しているかを報告書に記載することになります。

③不適正意見
不適切な記載があり、計算書類の全体にも重要な影響を与える場合には会社の財務状況を「適正に表示していない」旨の意見を付します。これも限定付適正意見同様、具体的にどのような疑義や問題があり、計算書類全体にどのような影響を与えるかが記載されます。例えば◯◯億円の債務超過状況であり、一年以内に償還予定の社債が◯億円あるにもかかわらず連結財務諸表には記載が無い、といった記載が挙げられます。

④意見不表明
十分な監査証拠が入手できない場合等、重要な監査が実施できず、財務諸表に対する意見表明ができない場合に「適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない」旨を表示します。具体的にどのような状況で意見表明のための合理的な基礎を得ることが出来なかったのかを記載することになります。

コメント

会計監査人の監査報告では大抵の場合、無限定適正意見が付されることになります。それ以外の意見が付されることは実務上は相当まれなことと言えます。東京証券取引所の上場廃止基準によりますと、有価証券報告書に虚偽記載を行った場合、または監査報告書に「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨の記載がなされた場合には市場の秩序を維持することが困難と認められるときに上場廃止となるとしています。今回東芝は監査法人と意見が対立していることから「適正意見」がもらえる見通しが立たず監査法人の意見を付けずに決算発表する方向で調整しております。東芝は上場維持に向けて期日通りの発表を行う予定ですが、このまま適正意見が付されない状況が続いた場合、最終的に上場廃止に追い込まれる可能性があります。このように監査意見は決算報告に関してかなり重要な位置を占めております。また無限定適正意見がもらえたとしても、他の役員の監査・監督義務にお墨付きがもらえたというわけではなく、不祥事の際には別途責任が発生することになります。これらの点にも注意してガバナンス体制の強化を進めることが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年3ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

企業 法務ニュース コンプライアンス 総会対応 会社法
『事例で学ぶ 労務問題解決のセオリー講座』~IRACをきちんと回して解決する労務問題~
2018年08月01日(水)
13:30 ~ 16:30
18,000円(税込)
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
サイネオス・ヘルス合同会社
アジア太平洋地域法務責任者

1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業双方で通算30年以上の企業法務・国際法務の経験を有する現役の企業法務責任者です。
当社は、東京にて、企業法務パーソン(企業法務担当者・インハウスローヤー等)のためのビジネススクールを運営しています。
企業法務にまつわる「知識」を学ぶ研修・講座は世の中に数多くありますが、当社が運営するリーガルビジネススクール(LBS)は、
法務担当者としての「思考方法」や「仕事術」を学ぶことに焦点を当てています。

今回は、『事例で学ぶ 労務問題解決のセオリー講座』を開催いたします。

★「休業手当は平均賃金の60%でいいんじゃないの?100%払えって、弁護士名で手紙が来たけど。。。!!」
★「先日入社したAさん。実は逮捕歴があったらしいの。そんなこと、人材紹介業者は何も言ってなかったけど、どうしよう。」
★「裁判所から“債権差押命令”っていうのが来たけど、どうすればいいの?ウチの社員に給料を払っちゃいけないらしんだけど、ホント?」
★「この間辞めた営業部長、ライバル会社で働いているらしいけど、それって問題ないの?」
★「Bさんともう3日連絡が取れていません。電話してもでないし、メールも返信なし。自宅に直接行っても誰もでない。どうすればいい?」

なくなってほしいけれど、そう簡単になくならないのが労務問題。企業が人の集団である以上、労務問題から解放されることはおそらくないでしょう。
そうであるならば、法務担当者や人事担当者は、勘や経験のみに頼ることなく、こうした問題への適切なアプローチを理論として学ぶことがとても重要だと考えます。

本講座では、人事部長も務めたことのある現役の企業法務責任者が講師として、上述の事例をベースに、IRAC* (*Issue, Rule, Application and Conclusion)の手法を用いて、
企業における労務問題への適切なアプローチ ー解決に向けて踏むべきステップー を解説し、またこうした問題への予防策にも言及してまいります。
申込・詳細はコチラ
企業 法務ニュース コンプライアンス 総会対応 会社法
第101回MSサロン(名古屋会場)
2018年08月02日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「取引基本契約書 ~ その作成・交渉の実務及び民法改正に対応する場合の留意点」です。
申込・詳細はコチラ
企業 法務ニュース コンプライアンス 総会対応 会社法
【名古屋】共同開発契約/ライセンス契約《法務担当者のための英文契約セミナー:第6回》
2018年07月25日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第6回目のセミナー内容は共同開発契約/ライセンス契約です。
申込・詳細はコチラ
企業 法務ニュース コンプライアンス 総会対応 会社法
【名古屋】ジョイントベンチャー契約/株主間契約《法務担当者のための英文契約セミナー:第7回》
2018年08月08日(水)
15:00 ~ 17:00
8,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第7回目のセミナー内容はジョイントベンチャー契約/株主間契約です。
申込・詳細はコチラ
企業 法務ニュース コンプライアンス 総会対応 会社法
【名古屋】AIに関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第3回》
2018年08月09日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第3回目のテーマはAIに関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

ダンプカーの運転手に応募したら、いつの間にか原発作業員に!?... ダンプカーの運転手に応募したら、いつの間にか原発作業員に!? 大阪市西成区・あいりん地区の労働者2人が「宮城県女川町でのダンプカーの運転手」の求人に応募したところ、実際には「福島第一原発周辺での作業」に従事させられていたことがわかった。ダンプカーのハンドルを握るつもりが、防護服を着てガレキを撤...
レノボ、M&Aを活用して最高益!! M&Aで補完されたのは 今年7月、NECのパソコン事業部とレノボジャパンを子会社として、レノボNECホールディングスが設立された。これ以後、レノボ、NECの販売シェアは伸び続けており、両者併せての国内シェアは30%に近づいているとされる。  レノボジャパンは、従来販売については直販でなく、パ...
東芝の不正会計とコーポレートガバナンス... はじめに 東芝は3月15日、2010年度から14年度までに、7件58億円の不正会計があったと発表しました。内部通報をうけた社内調査などで発覚したようです。東芝は、すでに去年の中間決算などで損失処理をしていましたが、これまで公表していませんでした。これについて、東芝は「適時開示の基準に該当してい...