法務部門の中の 「ソフト老害」

 
 

こんにちは。法務専門キャリアアドバイザーの潮崎です。

放送作家の鈴木おさむさんが取り上げたことで、注目を浴びたキーワード「ソフト老害」。
従来、“老害”というと、60~70代あたりの人を対象に用いられてきた言葉でしたが、近年、30代や40代にして、若い世代から煙たがられる「ソフト老害」が増えてきているといいます。

年齢的に該当する私自身も、思わず、ドキッとさせられるキーワードです。

 

1.自分は老害なのではないかと悩む法務課長の話

この「ソフト老害」という言葉を聞いて思い出すのは、長年親交のある、とある通信会社の法務課長です。

当時、まさに40代。まだ、「ソフト老害」という言葉が世に知られていなかったころ、この法務課長は、自分自身が法務部内の老害と化してしまっているのではと真剣に悩んでいました。とても柔軟な考え方の持ち主で、性格は面倒見がよく穏やか。老害と最も遠いところにいる方だと感じていたので、少々驚きました。

どうして、そう思うのか尋ねたところ、
『最近、若手メンバーの意見のアラ探しばかりをしてしまう』とのこと。

『上長として、メンバーを成長させるために指摘をするのは普通のことじゃないですか?』そう返した私に、

『たしかに、“正しくない”ことを“正しくない”と指摘するのは、上長として当然のことだと思う。でも、最近の自分は、それが正しいかどうかではなく、“社内でその意見を通せるかどうか”という視点で、若手にブレーキをかけてしまっている
と苦悩を打ち明けてくれました。

『そうやって、若手を思って、思い悩める人は老害なんかじゃないですよ』

そう言って励ましましたが、法務課長の顔はスッキリしていないように見えました。

 

2.鈴木おさむさんが自身を「ソフト老害」と認識した理由

「ソフト老害」という言葉を広めた鈴木おさむさん。

その鈴木おさむさんは、過去に一緒に仕事をした後輩テレビディレクターから仕事上の恨みを買っていることを知り、自分自身がいつの間にか「ソフト老害」になっていたと悟ったといいます。

経験を積む中で、様々な立場の様々な事情が見えてきて、全体のバランスを取った意見を出せるようになる40代。
いつしか、上下や部署間の衝突が起きないよう、全体のバランスが取れる方向に、各所を説得し、誘導するようになったといいます。

でも、良かれと思ってやってきたバランス取りは、40代になって増してきた発言力もあいまって、「若手が必死に考えてきた企画を妨害し、口先一つでひっくり返す行為」でしかなく、恨みを買う結果になってしまったそうです。

相手に理解のあるふりをしながら、オブラートに包んだマイルドな言葉で、会社全体のバランスが取れる方向に誘導する

人によっては、経験を積み重ねたがゆえの“洗練”ともとれそうな仕事の進め方が、鈴木おさむさんによると「ソフト老害」なのだといいます。

それを「ソフト老害」と言われてしまうなら、思い当たるところがあり過ぎて、グサグサ刺さります・・。

 

3.「ソフト老害」になりつつある自分とどう向き合うか?

では、「ソフト老害」を自覚した鈴木おさむさんは、その事実とどう向き合ったのか?
その日以来、誰に対しても、

(1)オブラートに包んだ物言いをやめ、
(2)なぜ違うのかをハッキリと伝えると決めた

そうです。嫌われないよう、うまくやろうとするのではなく、嫌われるなら正面からちゃんと嫌われようと。

鈴木おさむさんのいうソフト老害は、「立場を明確にせず、あちこちに入り込みながら、巧みに、意図した落としどころに持っていく人たち」。
その巧みさもあいまって、チャレンジしたい若手からすると、最も邪魔な存在となってしまいます。

だから、その巧みさをあえて発揮せず、全方位にストレートに物を伝えることが、ソフト老害から脱却する術と鈴木おさむさんは考えたのだと思います。

 

4.法務部門ではソフト老害が生まれやすい?

こうして見ると、あのとき、「自分は老害なのでは?」と悩みを打ち明けてくれた法務課長も、当時、同じような思いを抱いていたのかもしれません。
経営層や現場との調整や折衝、法務部門内での意見調整など、“調整”が数多く発生する法務部門では、

「立場を明確にせず、あちこちに入り込みながら、巧みに、意図した落としどころに持っていくスキル」を発揮できる人こそが、スムーズに仕事を進められる向きがあります。

その意味で、鈴木おさむさんのいう「ソフト老害」になりやすい、「ソフト老害」が生まれやすい環境といえます。

でも、だからと言って、鈴木おさむさんがそうしたように、全方位にストレートに物を伝えて法務の仕事が回るかというと、仕事柄それも難しい気がします。

だから、せめて、同じ法務部門内の若手に対してだけは、巧みさを発揮せず

・どの立場の人がどんな事情を抱えていて
・自分がどこの落としどころを目指しているのか

を包み隠さずオープンにしたうえで、真っすぐにディスカッションする姿勢を持つことが重要になるのではと感じました。

ぜひ、皆さんのご意見もうかがってみたいです。

 

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株式会社パソナ
法務・ハイクラス専門キャリアアドバイザー
潮崎明憲
大阪市立大学法学部卒、近畿大学法科大学院修了。法務・総務担当として入社した営業研修会社の事業を4年にわたって支えた後、2014年より、米国訴訟における日本企業支援(eディスカバリー)業務に従事。2016年からは、法務専門エージェンシー、株式会社More-Selectionsにてエージェントとして、1000社超の企業の法務職採用に携わる。2021年9月、同社のパソナへの吸収合併を機に、株式会社パソナにて法務・ハイクラス専門のキャリアアドバイザーを務める。
 
 
 
 

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