“成長”を目的とした転職は失敗しやすい

 
 

こんにちは。法務専門キャリアアドバイザーの潮崎です。
先日、エン・ジャパンさんが行った『仕事を通じた成長実感』についてのアンケート結果を目にしました。

アンケートは39歳以下のビジネスパーソンを対象としたものでしたが、回答者の3人に1人が「現在、仕事を通じた成長実感がない」と回答しており、それを理由に「転職を考えたことがある」とする人が9割を超えたそうです。

普段から法務パーソンのキャリア相談に乗っている私の実感としても、“成長”を求めて転職する人はかなり多い印象を受けています。

 

1.成長を求めて転職活動をしても、足が止まってしまう

“成長を求めての転職”と聞いて思い出されるのは、数年前、「手持ちの内定を受諾すべきかどうか」を相談に来てくれたMさん。

Mさんは当時40代半ば、中途入社した会社で法務として10年以上働いていましたが、「今の会社にいても、これ以上は成長できないから」と転職を決意し、自身で何社か応募した結果、1社内定を獲得したそう。

 

Mさんの現職は大手で給料も悪くなく、ワークライフバランスも取れているそうですが、法務組織が縦割りで、定型的な業務も多いといいます。
内定先では、給与も上がり、任される業務の幅も広がるとのことでしたが、それでも、内定を受諾すべきかでひどく悩んでおられました。

私はとても健全な悩みだと思いました。

 

2.「成長したい」の奥にある真なる声

そもそも、Mさんのように、成長を求めて転職活動をする人は、なぜ成長したいのでしょうか?

冒頭でご紹介したアンケートでは、企業選びで成長環境を重視する理由として、「市場価値を高めたいから」が上位にあがっていました。
実際、面談の中でも「市場価値を高めたい」という声は、多くの求職者から耳にします。

 

一般的に、「転職して市場価値を高めたい人」と聞いたときに、野心あふれる人、リスクをとってチャレンジするアグレッシブな人などを想像すると思います。
しかし、私が面談で出会う“市場価値を高めたい法務パーソン”の大多数は、こうした人物像に当てはまりません。

多くの場合、市場価値を高めたい理由は、「将来、つぶしが効くように」「食いっぱぐれがないように」というもの。つまり、保険のため市場価値を高めたいという人がほとんどです。

その意味で、多くの場合、「成長したい」という動機の奥底にあるのは、チャレンジ精神よりも、「安定したい」という堅実性なのだと思います。

 

3.「大きなリスクをとってまで成長したいか」を自問しよう

Mさんに話を戻すと、Mさんが内定受諾を躊躇していたのは、

・内定先企業の評価制度が成果主義の色が濃いこと
・新しい人間関係を築くことへの不安
・業界が変わることへの不安

などが理由でした。

環境を変えたくて始めた転職活動ですが、結局、「環境を変えることへの恐れ」がMさんの決断を阻んでいたのです。

そんなMさんを見て、皆さんは、優柔不断に感じるでしょうか?私は、Mさんが転職を躊躇する感覚は正しいと思いました。

 

守るべきものが増える40代以降、環境が変わるのはとても恐いことですし、それが安定志向の方であれば、尚更です。
聞くと、Mさんもまた、「50代以降のキャリアを安定させたい」という安定志向から市場価値の向上を目指した方でした。

たしかに、市場価値を高めることでキャリアが安定するのは確かですし、私が言うのもなんですが・・、最近はエージェント各社が転職をあおる広告を打ち、「転職でキャリアアップを目指すべき」といった風潮も作られています。

でも、転職先で成長するためには、「①現実に成長できる環境」のみならず、給与・ワークライフバランス・人間関係・社風など、そこで「②安定・継続的に働ける環境」が必要です。
どんなに成長環境があろうとも、短期で離職した場合、たいてい市場価値は上がらないからです。

そして、転職先にこれらが本当に備わっているかは、残念ながら、入社してみないとわからない“賭け”の部分が少なからずあります。

 

だから、チャレンジ精神に衝き動かされたわけでもなく、現職に大きな不満があるわけでもないけれど、「将来の保険のために市場価値を上げたい」と考えて転職を検討している方がいたら、一度、「はたして自分は大きなリスクをとってまで成長したいのか?」と強く自問して欲しいです。
そこに明確なイエスが出ないのであれば、転職せず現職に留まるというのも、立派な選択肢になると思います。

 

当時、同じ問いをMさんに向けたところ、数日悩んだ末、最終的に現職に留まる決断をされました。
Mさんは、今でもたまに近況を知らせてくれますが、当時と同じ会社で、マネジメントにやりがいを見出しながら、ご活躍を続けているようです。

「“成長”を目的とした転職は、クリアすべき条件が多く難しい」というお話でした。

 

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株式会社パソナ
法務・ハイクラス専門キャリアアドバイザー
潮崎明憲
大阪市立大学法学部卒、近畿大学法科大学院修了。法務・総務担当として入社した営業研修会社の事業を4年にわたって支えた後、2014年より、米国訴訟における日本企業支援(eディスカバリー)業務に従事。2016年からは、法務専門エージェンシー、株式会社More-Selectionsにてエージェントとして、1000社超の企業の法務職採用に携わる。2021年9月、同社のパソナへの吸収合併を機に、株式会社パソナにて法務・ハイクラス専門のキャリアアドバイザーを務める。
 
 
 
 

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