大正製薬のMBOで「オアシス」が反対、株式の公正な価格とは
2024/02/15 商事法務, 戦略法務, 会社法
はじめに
香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」は12日、大正製薬が実施するMBOについて、買取価格が低すぎると反対していると発表しました。少なくとも1万1000円で買い取るべきとのことです。今回は反対株主の株式買取請求と公正な価格についてみていきます。
事案の概要
報道などによりますと、大正製薬は先月、1株8620円での株式公開買付(TOB)が成立し、創業家である上原茂副社長が代表を務める会社が議決権の73.12%に相当する株式を取得したとされます。同社は3月に臨時株主総会を開催し、承認を得た上で株式併合によってTOBに応じなかった少数株主から強制的に株式を取得する予定とのことです。TOBの際の買取価格はTOB発表前の株価に55%のプレミアの上乗せした水準とされますが、オアシス・マネジメント最高投資責任者のセス・フィッシャー氏は、この価格でも割安であり、1株あたり1万1000円が相当としております。
反対株主の株式買取請求
会社法では、株式に譲渡制限の規定を設ける場合や、全部取得条項付種類株式の定めを設ける場合、株式併合、単元株式数の定め、株主割当での募集株式発行、新株予約権の発行、そして合併や会社分割、株式交換などの組織再編行為の際に、反対株主には株式買取請求権が認められております(116条、785条1項、797条1項等)。ここで「反対株主」とは、これらの行為に関する株主総会に先立って反対の意思を通知し、実際に株主総会で反対した株主を言います(116条2項1号)。また当該株主総会で議決権を行使できない株主も含まれます。そもそも株主総会決議を要しない場合はすべての株主が対象となります。そしてこれらの行為の効力発生日から30日以内に会社と株主との間で買取価格についての協議が整わない場合、「公正な価格」の決定を裁判所に求めることが可能となります(786条2項、798条2項等)。
公正な価格とは
それでは株式の「公正な価格」とはどのようなものなのでしょうか。一口に公正な価格と言っても、その原因となった行為は上記のように様々です。そして公正な価格の評価方法も複数存在しており、どのような評価方法を採用するかについても個別具体的な状況に即して考えられることとなります。合併などの組織再編の場合は基本的に、組織再編によってシナジーが生じ企業価値が上昇する場合と、逆に組織再編によって企業価値が毀損する場合が考えられます。前者の場合はシナジーを織り込んだ価格にする必要があり、後者の場合は組織再編がなかったものと仮定した価格が公正な価格とされております。そして公正な価格の算定基準時は反対株主が株式買取請求を行なった日と考えられております。買取請求により会社との間で株式の売買契約が成立したと同様の状態となり、以後原則として買取請求が撤回できず、その後の株価変動リスクを株主に負担させるべきでないと考えられるからです。
公正な価格の評価方法
裁判所に公正な価格の算定を申し立て場合、いくつかの評価方法が使われることとなります。その代表的なものとしてはDCF法と収益還元法があります。DCF法とは、(Discounted
Cash
Flow)の略で事業により将来生み出されるキャッシュフローを加重平均資本コストで割ることによって企業の現在価値を出すというものです。上場会社のM&Aでもっとも利用されている評価方法とされます。特許や知財などの資産価値を評価するのに適しているといわれております。これに対して収益還元法とは、将来期待される純利益を基礎に株式の現在の価格を算定する方法で、将来予測される単年度の税引後純利益から資本還元率で割って、それを発行済株式総数で割ることにより算出します。これら以外にも純資産法や配当還元法、類似会社比準などの評価方法がありますが、近年ではほぼDCF法または収益還元法が用いられております。
コメント
本件と同様にTOB後のMBOに反対した株主から価格決定の申し立てがなされた事案で裁判所は、株式取得日に近接した一定の期間の市場価格を基本とすべきであるが、会社がTOB前に業績を下方に誘導していた意図が否定できないことからTOB前6ヶ月の平均を基礎とし、それに20%のプレミアを上乗せした額が公正な価格とした例があります(東京高裁平成20年9月12日)。本件でもTOB前数ヶ月の平均が基礎となる可能性が高いと考えられます。以上のように会社法では様々な場面で反対株主の買取請求が認められており、その際の公正な価格の算定は非常に複雑なものとなっております。また非上場会社の場合の難しさもあります。反対株主が出る可能性がある場合は、価格についての協議や裁判所での決定もありえる点を考慮して準備を進めていくことが重要と言えるでしょう。
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