【法務省】人権擁護法案は誤解されている。
2011/12/09   法務相談一般, 民法・商法, その他

【法務省】人権擁護法案は誤解されている。

法務省は6日、世間で物議を醸している人権擁護法案につき、誤解に基づく意見や問い合わせが多く寄せられたことを理由として、「新たな人権擁護機関の設置について」のQ&Aを発表した。その内容を紹介する。

人権擁護法案の概要

1 制定目的
我が国で起きている差別・虐待などの人権問題及び公権力による人権侵害に対処することが人権擁護法案の目的である。そのために、政府から独立性を有した新たな人権救済機関の設置が求められるとしている。

2 新たな人権救済機関
・今回設置が検討されている「人権委員会」は、政府からの独立性・中立公正さを制度的に担保された、国家行政組織法3条2項の「委員会」に分類される。
・人権委員会の委員長及び委員は、中立公正で人権問題を扱うにふさわしい人格識見を備えた人物が任命されるが、その任命には国会の同意が必要となる。
・人権委員会の下には、人権擁護委員を置き、地域社会における人権擁護の推進を図るため、後述する「一般救済手続き」を行わせる。この人権擁護委員は、市町村長が推薦した者の中から人権委員会が選ぶ。

3 新たな人権救済機関に与えられる権限
(1)一般救済手続き
・人権侵害に関する諸々の問題について、相談に応ずる権限
・人権侵害による被害の救済又は予防に関する職務を行うために必要な調査(一般調査)を行う権限
・被害者等に対する助言、関係行政機関等への紹介、法律扶助に関するあっせんその他の援助を行う権限
・加害者等に対する説示、啓発その他の指導を行う権限
・被害者等と加害者等との関係の調整を行う権限

(2)特別救済手続き
一般国民、国又は地方公共団体の職員等の行う不当な差別的取扱い、虐待等、差別助長行為等に対しては、特別に以下の措置を行う権限が与えられている。
・事件の関係者に対する出頭要求・質問を行う権限
・当該人権侵害等に関係のある文書その他の物件の提出要求を行う権限
・当該人権侵害等が現に行われ、又は行われた疑いがあると認める場所の立入検査を行う権限

人権擁護法案において指摘される問題点

・外国人が人権擁護委員になり、外国人集団が、人権擁護を名目に権力をふるう危険性がある。
・「人権侵害」の定義が曖昧であり、結果として、自由な言論が弾圧されるおそれがある。
・現状、委員会を抑止する為の機関・法律などが存在せず、なおかつ、人権委員の罷免手続もないため、人権委員会の権限が強大なものとなり、暴走するおそれがある。
・人権委員会、人権擁護委員の人選が不透明である。
・適正手続の保障の面で不安がある。
・人権委員会の行った誤った措置が原因で私人の名誉が傷つけられた場合に、名誉回復の手段がない。

※ なお、人権擁護法案は、かつて小泉内閣時にも審議が為されていたが、人権委の調査を拒否した場合に30万円以下の過料を科すとの制裁や、メディア規制の条項が盛り込まれていたために、言論弾圧などへの懸念から一度は廃案となった経緯がある。

法務省発表のQ&A

1 外国人が人権擁護委員となる可能性について
人権擁護委員の選定においては、候補者がその市町村議会の議員の選挙権を有する住民で、人格識見が高く、広く社会の実情に通じ、人権擁護について理解のある者であることが人権擁護委員法により定められている。したがって、外国人は推薦の対象者にはされていない。
※ ただし、外国人に地方参政権が認められたら、この限りではない。

2 「人権侵害」のあいまいさについて
救済手続の対象となる「人権侵害」については、「特定の人の人権を侵害する違法な行
為」、すなわち、憲法の人権規定に抵触する公権力による人権侵害のほか、私人間におい
ては、民法・刑法その他の人権にかかわる法令の規定に照らして違法とされる行為がこ
れに当たるものとされている。
このように、人権擁護法案における救済の対象は、司法手続においても違法と評価される行為であることが前提となっているので、「人権侵害」の定義が曖昧ということはない。

3 言論の自由の保護について
言論の自由は、憲法が保障する基本的人権の中でも最も尊重されるべきものの一つで
あり、新たな人権救済機関がそのような自由を侵害し国民の言論を弾圧するようなこと
があってはならないことは当然である。したがって、言論の自由が害されるおそれはない。

4 人権委員会の権限が強すぎるとの指摘について
新たな人権救済機関が行う調査は相手方の同意を得て行う任意の調査に限られ、家宅捜索や差押えをするということはない。したがって、令状なしにの家宅捜索や証拠差し押さえが人権委員会に認められているわけではない。
そもそも人権委員会は、人権侵害をした者を摘発又は処罰する機関ではなく、広く国民に人権についての理解を深めてもらうための機関である。

雑感

法務省のQ&Aを読むと、どうにも釈然としない思いにとらわれる。どういった分野であれ、法律を作る際には、対立する2つ以上の利益(今回で言うと、「人権侵害の被害者の保護」と「国民の言論の自由」といったところか)をどのように調整するかに細心の注意が払われる。
どんなに「人権侵害の被害者の保護」を厚くすることが素晴らしいことでも、行き過ぎてしまえば、それに伴って失うものもあるからである。そして、その失うものが国民にとって重大なものであればあるほど、前述の利益の調整は、より慎重に行われなければならない。

その意味で、今回の人権擁護法案によって、おびやかされるおそれのある「国民の言論の自由」は、民主主義国家の国民である我々日本人にとって、最大級に重要な事項である。神経質なほど慎重な利益調整を行っても、慎重過ぎることはないと言える。

それにも関わらず、今回の人権擁護法案においては、「制度」として国民の言論の自由がおびやかされないよう十分に調整された形跡は見られない。例えば、人権委員の任命には国会の同意を必要としているものの、任命後の事後的なチェック機能は今のところ、何も設けられていない。国民の言論の自由を侵害するおそれのある委員を監視する制度は何もないのである。また、何をもって「人権侵害」とするかというデリケートな解釈を必要とする部分においても、委員による慎重な判断がなされるよう取り図った制度は何もない。
法務省の言う「民法・刑法その他の人権にかかわる法令の規定に照らして違法とされる行為」に該当するか否かは、本来、裁判官が長い時間をかけて、うんうん悩みながら判断する事項である。このような、判断を誤るおそれの高い事項に対して、そういった制度が存在しないことは問題ではないか。

法務省のQ&Aを見ても、「この条項はこういう解釈だから、皆さんが危惧していることは起きませんよ。大丈夫ですよ。」という気休めの域を出ないものである。解釈に頼るということは、日々の運用の中で、柔軟に曲げられるおそれがあるということである。
やはり、「言論の自由の保護に十分配慮がされている」と国民を納得させるだけの具体的な「制度」が必要だと私は考える。

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