死刑未執行、過去最多の120人。法相に執行を拒む権限はあるのか。
2011/08/28   訴訟対応, 刑事法, その他

死刑未執行、過去最多の120人。法相に執行を拒む権限はあるのか。

死刑が1年以上執行されず、未執行のまま拘置中の死刑囚が過去最多の120人に達している。前法相の千葉景子氏が死刑制度の存否について一石を投じる形で、死刑執行の「刑場」をマスコミに初公開してから、はや1年。
民主党政権下で法相がころころと変わる中で、死刑制度に対する国の指針はいまだに確定していない。その一方で、裁判員裁判では、一般国民が悩み苦しみながら、死刑という重い判断を下し続けている。

江田五月法相の言い分

江田五月法相は、死刑の執行について「悩ましい状況に悩みながら勉強している最中。悩んでいるときに執行とはならない」と発言。死刑の是非に対する自身の考えが固まっていないことを理由に死刑執行命令書へのサインを保留している。

死刑制度をめぐる現状

【1】死刑制度に疑問を投げかける法相
最後に死刑が執行されたのは、2010年7月28日。当時の法相である千葉景子氏は、同年8月6日に死刑の廃止も視野に死刑制度の在り方を研究する勉強会を省内に設置した。また、同年8月27日には東京拘置所内の刑場を報道陣に公開し、死刑制度に対する国民的な議論の契機となるよう働きかけた。

【2】裁判員裁判制度の開始と死刑判決
上述した最後の死刑執行以降、死刑が確定したのは16人。執行を待つ死刑囚は合わせて120人にのぼる。その間、裁判員裁判で8件の死刑判決が言い渡され、そのうち2件で死刑が確定している。

死刑執行において法相に与えられた権限

死刑の執行は法務大臣の命令がなければ出来ない。一方で、刑事訴訟法上、法務大臣は、(ⅰ)冤罪の疑いから再審請求等がなされている場合や(ⅱ)心神喪失の状態にある場合、(ⅲ)妊娠している場合等の特殊な場合を除き、
死刑判決から6ヶ月以内に死刑執行命令を下さなければならない。

雑感

1.死刑執行の猶予期間の持つ意味
刑事訴訟法の規定(判決から6ヶ月以内に死刑執行しろという規定)にも関わらず、死刑判決の確定から刑の執行までの平均期間は、7年11か月だという。死刑が人の命を奪う極刑であり、一旦執行されると回復が不可能な損害を与えることから執行命令に慎重になっていることの表れだろう。
一方で、死刑囚からすると、6ヶ月経過後は、いつ死刑執行命令が出されるかわからない極限の精神状況下で日々生活することを強いられるのであり、およそ、人をそのような精神状況に何年も置くこと自体が残酷な刑であるとも言える。

なお、この6ヶ月の期間につき、下級審では、「単なる訓示規定であって、法務大臣の死刑執行命令がこの期間を超えて行われても、不当な判断ではない」という内容の判断が下されている。

2.死刑制度に対する疑問から執行命令を下さないことの是非
現行の刑事訴訟法上、法務大臣が死刑執行命令を下すことを猶予出来るのは、冤罪払拭のための諸手続きの申立てがされている場合や心神喪失の場合、妊娠している場合等、一定の客観的(!)事実がある場合のみである。法務大臣の主観が介在する余地はないといっていい。

国家の法で死刑制度があり、それに基づき、裁判官、裁判員、検察官、弁護士その他多数の関係者がそれぞれ法に従い、死刑が妥当であるかを長い年月と膨大なエネルギーを投じて下す判断、それが「死刑判決」である。

法務大臣の主観として死刑制度に疑問があるからといった程度の理由で、法に基づく手続きを重ねて成立した「死刑判決」をないがしろにしていいはずはないのである。
法務大臣には、判決から6ヶ月以上が経過している死刑囚につき、主観で死刑執行命令を拒絶する権利など、はなから与えられていない。

3.総括
冤罪が恐くて死刑執行命令を下したくないという気持ちは十二分にわかる。しかし、裁判官、裁判員は冤罪を恐れつつも、自己の責任の下、苦しい決断を下している。検察官も冤罪を恐れながら、慎重な判断を重ねて死刑を求刑している。そんな彼らの決断の積み重ねを法務大臣の主観で、なかったことに出来ると考えるのは、司法軽視、思い上がりと言わざるをえない。

死刑を廃止したいなら、そのような内容の法案を提出すればいいし、判決から死刑執行命令までの期間を延ばしたいならそのような法案を提出し通せばいい。死刑判決後に冤罪について再度調査する制度を作りたいなら、やはりそのような法を作ればいいし、冤罪が起きないように、より慎重な司法制度を作りたいなら、そのような法を作ればいい。

法務大臣が法に則った手続きを踏もうともせずに、自己の気持ちをおさめるために法に反する振る舞いを平気で行っていることが私には甚だ疑問だ。
厳しい言い方だが、法によらず自己の意思を実現する姿勢は、ある意味、独裁者と変わらない。個人的な主観を理由に法を破ることを容認する者には法務大臣を続ける資格がないと私は考える。

上間法務行政書士事務所
行政書士 齊藤 源久(さいとう もとひさ)

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