企業法務の人材不足の救世主になるか!?ALSP(代替法務サービス事業者)について解説
2025/02/28

はじめに
大手法律事務所で海外勤務を経験しクロスボーダーで企業法務にも従事してきた視点から、今後の日本企業の法務体制について考察します。
日本国内では少子高齢化などの影響により、多くの業界で人材不足が深刻化しています。法務・コンプライアンスの専門分野も例外ではなく、個人事業主・ベンチャー企業や中小企業では企業体力から法務部・法務専任者や顧問弁護士の体制をなかなか設けられず、さらには法務人材の確保が困難で育成も間に合わない中でさらに追い打ちを掛けられています。また、上場企業や大手企業・中堅企業でも法務体制を維持できず限られた法務リソースで運用されているケースも目立ってきています。特に内製化の傾向が強い国内特有の課題でもあると感じています。さらに外部・内部環境の変化から法務領域の拡大・専門分野への対策・整備も必要となっており、社内組織横断での広い係わりなどますます法務組織・担当者の役割は重要視されています。
企業規模から見る現状の法務業務の課題例
法務の人材不足や課題感は企業規模によっても異なってきます。下記、企業規模での課題例になります。
個人事業主・ベンチャー企業~中小企業
・法務専任担当者(部門)の不在
・法務業務は他業務者や担当役員が片手間で兼務している
・顧問弁護士を設けていないケースが多い
・事案発生時にスポットで探して弁護士に相談
・自社事業に係わる新法や法改正対応に追い付いていない、など
中堅~大手企業・上場企業
・必要な法務人材体制(人数)が確保できない欠員状態
・事業やビジネスが多く契約書レビューなど定型業務に追われている
・コア業務に集中できずビジネススピードに支障が出ている
・法務領域や専門分野の拡大から複数の顧問弁護士を必要としている
・ガバナンス,コンプライアンスや人権労務を強化したいが法務支援が間に合わない、など
このように、「人材不足」や「業務量の増大」により法務リソースが逼迫し、経営やビジネス速度に支障が出ているケースが多く見られます。
ALSP(代替法務サービス事業者)の登場と役割
「ALSP(Alternative Legal Service Provider)」とは、従来の法律事務所や顧問弁護士とは異なる形で、企業の法務業務を外部委託(アウトソース)できるサービスを提供する事業者のことです。
特徴
反復的な契約書レビューやリサーチなどを効率的に処理するために、ITや専門スタッフを組み合わせ、高品質かつスピーディーな法務対応を実現する
欧米の動向
アメリカやヨーロッパでは既にALSPの市場が大きく拡大しており、多くの大企業が法務の一部を委託しています。社内法務部門は経営戦略やコア業務に集中し、変動的な法務業務はALSPを活用する仕組みが一般化しています
国内の現状
日本でも近年、大手企業を中心に法務アウトソースを検討・導入するケースが増えてきました。法務人材が不足する中、必要に応じて専門性の高いリソースを外部から柔軟に確保できるのが強みです
ALSPは従来型の法律事務所や顧問弁護士とは大きく異なったサービス方式となっています。ALSPの概念は法務業務の委託(法務アウトソース)となります、専門性の高い法律業務や各種専門領域を委託(法務アウトソース)することで、高度な法務領域の獲得・法務業務の効率化・生産性を高めることができます。ALSPは世界で浸透してきておりますが特に米国・欧州中心に毎年利用者が拡大し成長しています、国内傾向とは逆で専門性が高く、業務量も増加および変動的な法務分野だからこそALSPによる委託(法務アウトソース)やオンライン法務サービスを利用する傾向が強いです。自社の法務部・法務専任担当はコア事業やビジネス戦略・経営戦略に集中し、不安定なリソースを常備することなく法務業務量に応じた最適なコストコントロールも可能になります。
この最適化されたALSPが日本にも上陸しています。国内ユーザーは先ずは大企業からの流れの通り大手企業からALSPの導入が始まってきています。まさしく法務人材難や法務領域の拡大・増加に伴う限界に対して部分最適化としてALSPが導入されています。
法務のテリトリーは年々拡大・増加傾向です、越境の国際取引化や企業ガバナンス・コンプライアンス・人権・プライバシーから環境ESG・サステナビリティやサイバー攻撃、IT情報セキュリティなど専門領域は時代とともに変化しており、内製化の体制構築と人材確保・育成の供給バランスが崩れていると感じています。従来は丁寧に確実に対するべき部分に手が回らず予防法務まで手当できていないのではと危惧しております。
ALSP(代替法務サービス事業者)が提供できる法律サービス
法務・コンプライアンス業務の代替・補完・サポートとして「専門性の高い質」と「スピード」から「スケール対応」が可能です。ALSP側では多種多彩な専門士業の体制を構築・完備しており、専門分野の適切な処理から、業務量に応じたリソースの最適化などALSP側で自動化されサービス提供されます。チャットシステムやWebシステムを介してリレーションが組まれ迅速かつ確実な連携が可能となります。
ALSP提供機能の例
・法律や労務に係わる弁護士相談やサポート
・事業特有の法令調査やリスク精査
・弁護士審査の契約書レビュー
・弁護士監修の法律文書の作成
・株主総会/取締役会の開催,運営の支援
・商標等知的財産権の登録支援
・子会社など法人設立支援
・契約交渉の支援
・資本政策(ファイナンス)の支援
・M&Aや事業買収のデューデリジェンス(DD)、など専門士業の領域
国内でも専門士業とITを組合せ、顧客から「アクセスしやすく」「コストパフォーマンス」「品質」に優れたALSPサービスである「バーチャル法律事務所:クラウドリーガル」も展開されています。大手企業の部分的な法務アウトソースからベンチャー企業や中小企業での利用実績など幅広い顧客層・法務ニーズに対応しています。
ALSP(代替法務サービス事業者)の導入例や範囲
大企業向けと思われるALSPですが実は企業規模を問わず導入することができます、企業規模によりニーズや導入範囲が異なりますが、個人事業主・ベンチャー企業や中小企業でも導入することができるため、国内ニーズにもマッチしていると考えています。
企業規模に見るALSP導入例
個人事業主やベンチャー企業
・法人化前の法務アドバイスおよび法人設立支援
・法人化後の顧問弁護士としてそのまま伴走
・自社法務の代替えとして全般アウトソース
・企業法務に必要な法律文書の提供
・新規ビジネス参入による法令調査から商標登録支援
・安全なスケールアップのための資金調達アドバイス、など
中小企業
・法務兼務者の法務サポートとして
・法律や労務の相談先
・顧問弁護士としての役割
・独自のカスタム契約書のドラフト作成
・契約書レビューの依頼
・株主変動による株主総会や取締役会の適正開催や運営の支援、など
中堅企業や大手企業
・法務部(法務専任者)の不足/欠員の補完サポートとして
・日々発生する契約書レビューの依頼
・独自のカスタム契約書のドラフト作成
・現行の顧問弁護士の専門外領域の相談先や使い分け(併用)
・セカンドピニオンの弁護士相談先
・M&Aデューデリジェンス(DD)対応
・事業部や本部単位からビジネス化に伴う法令調査,リスク判断や法律などの相談、など
まとめ
日本の法務人材不足は今後ますます深刻化すると考えられます。企業規模を問わず、法務リソースが足りない状態で重要な意思決定を行えば、大きなリスクを伴いかねません。そこで注目されるのがALSP(代替法務サービス事業者)です。
もともと欧米で広がりを見せているALSPは日本でも徐々に浸透しており、大手企業だけでなく、スタートアップや中小企業にも利用が広がっています。海外での法務経験から見ても、法務人材不足の対策や企業法務の強化に、ALSPは有効なソリューションと言えるでしょう。自社の状況や課題に合わせて、ぜひ一度検討されてみてはいかがでしょうか。
参考文献・出典
The Business Research Company 「オンライン法律サービス グローバル市場レポート 2024」
LawSites「Alternative Legal Services Market Grows to $28.5B as Industry Faces Critical Juncture, Thomson Reuters Report Finds」
日本経済新聞社「企業の法務、外部にお任せ 双日やサントリーが一部委託」
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