食中毒500人超の駅弁メーカー吉田屋、処分解除で営業再開
2023/11/07   危機管理, 行政対応, 食品衛生法, 行政法, 外食, 食料品メーカー

はじめに


駅弁を食べたお客、554人が食中毒と確認された問題で、営業禁止処分を受けていた駅弁メーカー「吉田屋」の処分が解除され、営業を再開しました。
食中毒が全国で発生した経緯を改めて確認しつつ、過去に発生した食中毒関連の裁判例をご紹介します。

 

全国で550人以上が食中毒に


今回、食中毒問題を起こした株式会社吉田屋は、明治二十五年創業の老舗駅弁メーカーです。現在は東北の主要駅や車内販売だけでなく、全国の有名百貨店やスーパーマーケットなどで開催される駅弁イベントのほか、集合住宅エリアでの移動販売も行っています。

今年9月、その吉田屋が納品・販売した駅弁を食べたお客が食中毒となる問題が全国各地で発生しました。

9月16日・17日にかけて青森県内のスーパーで開催された駅弁のイベントで、弁当の購入客に、嘔吐や下痢などの症状がみられたのを皮切りに、問題は全国各地に広がり、29都道府県の554人が食中毒と確認されました。

9月23日、保健所が弁当を検査した結果、黄色ブドウ球菌やセレウス菌が検出されたと発表。15・16日の2日間に吉田屋が製造した67種類、合わせて約2万2千個の弁当を原因とする食中毒であると断定し、吉田屋を営業禁止処分としました。

 

食中毒発生から約50日後に営業再開


八戸市保健所及び関係自治体の調査等に基づき、食中毒の原因として、以下が指摘されました。

・吉田屋は米飯を委託製造していたが、検収手順・受入れ基準を定めていなかった。そのため、注文時の指示書より高い温度の米飯が納品され、米飯冷却までに原因菌が増殖した可能性。
・上記米飯を配送するために使用した発泡スチロール製の外箱につき、殺菌等の措置を行うことなく盛り付け室に搬入していた。そのため、米飯や具材等に原因菌が付着した可能性。
・自社炊飯分の米飯を冷却する際、委託製造した米飯の移し替えや冷却も同時に行われた。こうした移し替えや冷却は予定になかった工程で、その際、手指の消毒・手袋交換等のタイミングや方法の不備等により、原因菌が付着した可能性。
・臨時従業員に対し、通常当該施設で実施されている衛生的な取扱いや健康管理が徹底されず、原因菌が付着した可能性。
・販売店に対する回収連絡網が整備されておらず、一部の販売店まで回収連絡が届かなかった。その結果、回収対象だった16日製造分の駅弁の一部が販売され、食中毒患者が確認された。


市内で製造された弁当による食中毒の原因について(八戸市HP)

吉田屋は、指摘された原因を改善するべく、10月30日に衛生改善報告書を提出。その2日後に保健所は立入検査を行い、弁当の試験製造に立ち会うなどし、業務内容の改善がされたと判断。4日に処分解除となりました。

市内で製造された弁当による食中毒にかかる行政処分の解除について(八戸市)

吉田屋は「もう一度私どものお弁当を手にとっていただくことができるよう、信頼の回復に努めて参ります」とコメントを発表しています。

 

食中毒で賠償請求も


食中毒をめぐる問題では、行政処分のほか、被害者や仕入れ会社などとの間で損害賠償請求訴訟に発展するおそれがあります。また、食品衛生法違反と認められれば、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されることがあります(食品衛生法71条)。
さらに、被害者が死傷等した場合、業務上過失致死傷等の罪で、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科される可能性があります(刑法第211条)。

■食中毒に関する裁判例
(1)東京地裁平成14年12月13日判決
割烹料亭にてイシガキダイのアライ(刺身を冷水で締めたもの)を提供した際、イシガキダイにシガテラ毒素が含まれていたために食中毒が発生。中には25日間休業を余儀なくされた被害者もおり、740万円強の損害賠償が請求された。直接的な原因は食材としてのイシガキダイそのものにあったものの、訴訟では、アラに調理した料亭側の製造物責任の有無が争われた。判決で東京地裁は、料亭側の製造物責任を認め、総額308万円の損害賠償を命じた。
 
(2)横浜地裁平成15年12月16日判決
飲食店にて生食用の牡蠣を提供した際、牡蠣が小型球形ウイルスに汚染されていたことから集団食中毒が発生。飲食店経営者が生食用牡蠣の加工販売会社および仕入販売会社に対し、損害賠償請求を求めた事案。訴訟では、食中毒の原因に関する事実認定、食中毒と原告が主張する損害との因果関係、加工販売会社の製造物責任・不法行為責任の有無、仕入販売会社の債務不履行責任・瑕疵担保責任の有無などが争われた。判決で横浜地裁は、生食用の牡蠣が食中毒の原因と認定。さらに、加工販売会社の不法行為責任、仕入販売会社の瑕疵担保責任を認め、計約480万円の損害賠償を命じた。
 
(3)仙台地裁平成11年2月25日判決
飲食店にて生ウニを客に提供したところ(調理など、店では手を加えていない)、生ウニに付着した腸炎ビブリオ菌により23人が罹患する集団食中毒を起こし、店は5日間の営業停止処分を受けた。飲食店経営者は生ウニを輸入した輸入会社を提訴。製造物責任・不法行為・債務不履行・瑕疵担保を根拠に3495万円の損害賠償を求めて提訴した。判決では、生ウニが輸入され市場に輸送されるまでの過程で、食中毒を誘発するだけの量のビブリオ菌が付着していたとは認められないとした。また、ビブリオ菌を増殖させるような保管方法をとっていた事実も認められないとして、食中毒発生との因果関係を否定し請求を棄却した。


 

コメント


今回のケースでは、全国各地で駅弁の販売を行なっていたことから被害が拡大する結果となりました。記者会見の中で吉田屋の社長は、食中毒を発生させた弁当が製造された日の1日当たりの発注数が1万8000個にのぼり、自社だけで対応できず外部に米飯の製造を委託したと説明しました。そのうえで、売上を優先させ、食中毒のリスク管理がおざなりになっていたと明かしています。

行政処分による営業停止に加え、顧客からの信頼の失墜、高額な損害賠償請求、何よりも人命への影響まで懸念される食中毒問題。食品を扱う業種の企業はもちろんのこと、イベント等で食品を提供する機会のある企業なども、細心の注意を払った対応が必要になります。

 

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