公取委、競合へのデータ移行妨害疑いのクラウドサービス会社に立ち入り検査
2023/10/16   情報セキュリティ, 独禁法対応, 独占禁止法, IT

はじめに


クラウドサービスの提供をめぐり、公正取引委員会が初めて立ち入り検査に入りました。対象となったのは、建設業界向けにクラウドサービスを提供している三菱商事の子会社。サービスを通じてクラウド上に蓄積されたデータの他社への移行を妨げた疑いを持たれています。

 

クラウド提供で初の立入検査


公正取引委員会が立入検査に入ったのは、三菱商事の子会社、株式会社MCデータプラスです。

同社が提供する「建設サイト・シリーズ」は、建設業界に特化し、施工管理領域の効率化を目的としたクラウドサービスで、ゼネコン社員らの労務安全衛生についての書類などをクラウド上で電子管理するなどしています。
契約企業数は95,000社以上、登録企業数730,000社以上、登録作業員数1,780,000人以上という業界トップシェアを誇り、ビッグデータを事業アセットとして建設DXを牽引している存在となっています。

報道などによりますと、このクラウドサービスをめぐり、MCデータプラスは顧客のゼネコン企業に対し、遅くとも2019年以降、

・クラウド上のデータのダウンロード不可設定
・データを競合他社のサービスで利用することを禁じる約款の制定

などによりデータの移行を妨害し、顧客流出を防止しようとした疑いが持たれています。さらに、顧客側が一部の項目でも他社に乗り換えようとすると、「全てのサービスで契約を打ち切る」と伝えた疑いもあるということです。

公正取引委員会は独占禁止法が禁じる排他条件付き取引などに当たるとみて調べを進めています。

MCデータプラスは、立ち入り検査を受けた事実を認め、調査に全面的に協力していくとしています。

公正取引委員会による立ち入り検査について(株式会社MCデータプラス)

 

クラウドサービスと不当取引


公正取引委員会告示では、不公正な取引方法として15の類型を挙げていますが、その中の一つとして「排他条件付取引」があります。

(排他条件付取引)
11 不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること。


近年、公正取引委員会は、経済や事業活動のデジタル化の進展に伴って活用の進むクラウドサービスの分野において、取引実態や競争の状況を調査してきました。利用者にヒアリングなども行い、浮かび上がった論点を取り上げつつ、独占禁止法上の考え方を示しています。
その中でクラウドサービス市場の競争に悪影響を及ぼし得る行為として、以下の内容を示しています。

・データ転送料の設定
利用者がインターネット経由でデータを転送する際にクラウド提供業者に支払うデータ転送料。入力時は無料にも関わらず、出力時は容量に応じ何百万・何千万円規模のデータ転送料が設定されるケースがあるそうです。そのため、利用者としては、他社のクラウドサービスへの移行が難しい状況が生まれています。

公正取引委員会は、「高額なデータ転送料が設定されていたとしても、そのこと自体が直ちに独占禁止法上問題となるものではない」としつつ、仮に、利用者がクラウドサービス上に蓄積したデータの他のクラウドサービスへの移行を困難にし、他のクラウド提供事業者の排除または取引機会の減少の恐れが生じる場合には、独占禁止法上問題となる可能性があるとしています。

 

・クラウド提供事業者と利用者との取引
クラウドサービスにおいては、値上げをはじめ、クラウド提供事業者によりサービス内容が一方的に変更されるケースがあります。しかし、利用者からすると、一度使い始めたクラウドサービスの乗り換えはハードルが高く、値上げに応じざるを得ないと考える利用者も少なくないといいます。また、多くの場合、約款上、クラウドサービス終了時の他社サービスへの移行や事業継続は、利用者の責任となっています。

一般的に、取引条件は当事者間の任意の判断に基づく合意により定まります。そんな中、取引上の地位が利用者に優越しているクラウド提供事業者が、一方的に値上げなどを行い、利用者との取引条件を一方的に変更することで、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には、独占禁止法上の問題が生じるおそれがあります(優越的地位の濫用)。

公正取引委員会が発表した報告書の中では、この他にも、不当な取引に対する考え方がいくつか紹介されています。どのような取引が独占禁止法上問題となりえるのか。クラウド提供事業者はもちろんのこと、利用者側も一度目を通してみることが推奨されます。

クラウドサービス分野の取引実態に関する報告書(公正取引委員会)

 

コメント


情報共有に優れ、時間的・場所的制約を超えての業務を可能にするクラウドサービス。他にも、導入コストや運用・メンテナンス面での負担の低さなど、利用者にとってのメリットが大きいサービスといえます。今回、そのクラウドサービスに対し、独占禁止法によるメスが初めて入った形です。

これまで、クラウド提供事業者においては、長期にわたる契約継続を前提に、利用料を低めに設定し、投資を惜しまず利用者の利便性を高める機能開発を続けるところが多かったと聞きます。その前提が揺らぐ場合、こうしたビジネスモデルにも一定の変化がみられる可能性があります。

今回のMCデータプラスへの立ち入り検査を受けて、各社のサービス・契約内容に今後どのような変化が見られるのか。注視していく必要がありそうです。

 

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