日本貨物航空が全部取得条項付種類株式を消却、自己株式とその消却について
2023/09/01   

はじめに

 日本貨物航空が25日、自己株式として保有する前部取得条項付種類株式の前部を消却していたことがわかりました。ANAが10月に予定している完全子会社化の手続きの一環とのことです。今回は自己株式の取得と消却について見直していきます。

 

事案の概要

 ANAホールディングスは10月1日付で日本貨物航空を完全子会社化することとなっております。ANAはかつて日本貨物航空の株式を27.59%保有しておりましたが、2005年に全株式を日本郵船に譲渡、その後欧米での貨物便を運行する日本貨物を完全子会社化することによって貨物事業の拡大を図る方針です。完全子会社化には簡易株式交換によるとされ、その手続の一環として日本貨物は自己株式である前部取得条項付種類株式7億9097万3000株のすべてを消却したとされます。また日本貨物側では9月中旬に臨時株主総会を開催して承認を得る予定とのことです。

 

自己株式の取得

 自己株式とは、会社が発行する株式のうち自社で取得し保有している株式を言います。自己株式は金庫株とも呼ばれ、以前は相場の公正さの保護やインサイダー取引の防止、資本充実などの理由で原則として取得が禁止されており、ストックオプションなどごく限られた場合にのみ許されておりました。しかし現在では無制限で自己株式の保有が認められております。保有が無制限とは言え、取得できる場面は一定の制限があり株主との合意、譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合、取得請求権付株式、取得条項付株式の取得、単元未満株の取得請求、組織再編等による場合に限定されております(会社法155条)。また自己株式の取得は実質、株主への出資の払い戻しの側面があることから原則として分配可能額の範囲内という財源規制に服すこととなります(461条1項)。しかし単元未満株式の買い取り、組織再編によって取得する場合は適用除外となっております。

 

自己株式取得のメリット

 自己株式の取得は市場に流通する自社の株式の回収という意味があり、流通数が増えすぎて株価が下落している場合に株価の上昇という効果が期待できます。また既存の株主の持ち株比率を高め、市場流通量を減少させることによって敵対的買収の防衛策にもなります。そして自己株式を保有しておくと、M&Aを行う際にその自己株式を対価として交付することによって現金などの資金繰りが必要なくスムーズに組織再編を行うことができると言われております。また自己株式は対価として利用できるだけでなく、完全子会社化などの準備段階として予め全部取得条項付種類株式などとして回収しておくことも考えられます。

 

自己株式の消却

 自己株式の消却は取締役会設置会社では取締役会決議、取締役会非設置会社では取締役の過半数の同意で決定する必要があります(348条2項)。株式消却を行っても原則として発行可能株式数に影響はありませんが、定款でその旨定めていた場合には発行可能株式数も同時に減少することとなります。なお公開会社では発行可能株式数が発行済株式数の4倍を超えてはいけないという、いわゆる4倍ルールが存在しますが、これが適用されるのは会社設立時、定款変更による発行可能株式数の増加、非公開会社が公開会社となる場合、株式併合、組織再編による設立の場合のみとなっており(37条3項、113条3項1号、2号、180条3項、814条1項かっこ書き)、自己株式消却には現在適用されておりません。

 

コメント

 本件で日本貨物航空は10月1日をもってANAホールディングスの完全子会社となる予定です。今回は簡易株式交換であることからANA側では株主総会による承認決議は不要となっております。完全子会社となる日本貨物側では9月中に臨時株主総会が予定されているとされます。そして今回日本貨物の自己株式を消却し、簡易株式交換の効力発生をもって日本貨物の株式は100%ANAホールディングスが保有することとなります。以上のように自己株式の取得や消却はM&Aの手続きに活用することができます。親会社への移転だけでなく、対価として利用することにより多額の資金を用意することなく組織再編を実現することも可能です。どのような場合に取得できるのか、またどのように利用できるかを確認し、活用していくことが重要と言えるでしょう。

 

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