日本電産がダイヤモンド社を提訴、名誉毀損の公共の利害について
2023/01/27   訴訟対応, 刑事法

はじめに

 日本電産は24日、役員解任などをめぐるダイヤモンド社の報道が名誉毀損に当たるとして、損害賠償と謝罪広告などを求め東京地裁に提訴したことがわかりました。名誉毀損罪で告訴もしているとのことです。今回は名誉毀損の成立要件と公共の利害性を見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、ダイヤモンド社は昨年9月から「ダイヤモンドオンライン」や「週刊ダイヤモンド」で日本電産の幹部職員の相次ぐ退任や前社長の解任の影響で人材が流出しているなどと報じていたとされます。日本電産側は「当社の名誉を毀損しており、容認できない」とし損害賠償などを求め東京地裁に提訴したとのことです。ダイヤモンド社側は「憶測ではなく客観的かつ慎重な取材に基づき、報道している」とし訴訟を確認した上で今後の対応を検討するとしております。なお日本電産は自己株式取得を巡る不適切処理の疑いを報道した東洋経済新報社に対しても損害賠償などを求め提訴しております。

 

名誉毀損とは

 刑法230条では、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」としております。「公然と」とは不特定多数に広まりうる状況を言い、「事実を摘示」するとは、例えば「○○は横領したことがある」「○○は不倫をしている」といった具体的な事実を示すことを言います。これらの事実は真実であるかどうかは関係ありません。そして「名誉を毀損」するとは、その人の社会的評価を低下させることとされております。つまり名誉毀損とは、社会的評価が下がるような事実を、広く広まる可能性がある状態にすることと言えます。雑誌や週刊誌での報道、ビラ貼り、インターネットでの書き込みから、何人かの知り合いに話すことも該当しうるということです。なお事実を摘示しない場合は別途侮辱罪が成立する可能性があります。

 

公共の利害に関する特例

 刑法230条の2によりますと、名誉毀損に該当する行為でも、「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」としております。つまり(1)公共性、(2)公益性、(3)真実性の3つの要件を満たした場合は違法性が阻却されて名誉毀損罪が成立しなくなるということです。公共の利害に関する事実とは、たとえば政治家に関する事実など広く国民の関心を集めるような内容を言います。民間であっても、大企業や大規模な宗教法人に関する事実もこれに該当すると言えます。またその表現行為が専ら公益目的である必要があります。一般消費者や国民の利益を考えての行為であれば認められる可能性が高いと言えます。そして摘示した事実が真実である必要があります。これは真実と判断するに足る資料や根拠、正当な理由の存在を意味します。このような場合はたとえ名誉を毀損するものであっても公共の利害とために表現行為が優先されるということです。なおこれらの要件を満たす場合、民事でも賠償義務を免れるとされます。

 

真実性の錯誤

 上記のように名誉毀損に当たる表現行為を行った場合でも、公共の利害に関する特例の要件を満たす場合は名誉毀損罪は不成立となります。しかし逆に言えば1つでも満たさない場合は成立するということです。この点について摘示した事実を真実を証明できなかった場合の判例があります。それによりますと、刑法230条の2の規定は人格権の保護と正当な言論の保障の調和を図るものであり、両者の調和と均衡を考慮して、真実の証明がない場合でも、真実と誤信し、誤信したことについて確実な資料、根拠に照らし相当な理由があるときは故意がなく名誉毀損罪は成立しないとしております(最判昭和44年6月25日)。なお刑法の名誉毀損罪は故意がなければ成立しませんが、民事での不法行為責任は過失がある場合でも成立する点に注意が必要です。

 

コメント

 本件でダイヤモンド社は日本電産の幹部職員に関する記事を掲載していたとされます。記事の内容は同社のCEOが自らに服従しない役員を次々と解任し、前社長の退任後に外部人材が流出しているなどと報道していたとされます。日本電産側は確たる証拠もなく名誉を毀損しているとし、ダイヤモンド社側は客観的かつ慎重な取材に基づいていると反論しております。今後記事内容の真実性を裏付ける資料や根拠などの有無が争点となってくるものと予想されます。以上のように名誉毀損は公然と事実を摘示することが必要であり、一定の場合には違法性が否定されることとなります。どのような場合に名誉毀損となるか、また逆に名誉毀損を否定されることとなるのかを今一度確認し、自社が被害を受けた時に備えて準備しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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