東京高裁がイラストのリツイートで賠償命令、誹謗中傷への規制の動き
2022/11/11   コンプライアンス, 民法・商法, 刑事法

はじめに

 ツイッターに投稿されたイラストで名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの伊藤詩織さん(33)が損害賠償を求めていた訴訟の控訴審で10日、東京高裁はリツイートした男性にも賠償を命じました。リツイートも表現行為とのことです。今回は名誉毀損や侮辱等への規制について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、伊藤さんが元TBS記者から性被害を受けたと公表した2017年以降、漫画家の蓮見都志子氏が伊藤さんのイラストを交えて「枕営業大失敗」「裁判なんて簡単」などとツイッターに投稿していたとされます。また蓮見氏の投稿を男性医師がコメントをつけずにリツイートしており、伊藤さんは蓮見氏と同医師を相手取り、慰謝料などの損害賠償を求め提訴しておりました。一審東京地裁は蓮見氏の投稿が名誉毀損に当たるとして110万円の賠償を命じ、またリツイートしていた男性医師に対しても11万円の支払いを命じました。男性医師は一審判決後もリツイートをしていたとされます。

 

名誉毀損と侮辱罪

 名誉毀損等については以前にも取り上げましたが、ここでも簡単に触れておきます。名誉毀損とは、公然と事実を摘示して、人の名誉を毀損することを言い、事実の有無にかかわらず成立することになります(刑法230条)。これに対し侮辱とは、事実を摘示せずに、公然と人を侮辱した場合に成立するとされます(231条)。いずれも「公然」と行われることを要件としております。公然とは不特定多数の者が認識しうる状態を言い、多数が集まる場所で発言したり、ネット上で投稿するといった場合だけでなく、少数の者に伝えた場合でも、広く噂が広まる可能性があれば該当します。そして名誉毀損では「事実の摘示」が求められ、これは「詐欺で逮捕された」「窃盗の前科がある」「職場で上司と不倫をしている」といった具体的な内容を示すことをいいます。そして名誉を毀損とは人の社会的評価を低下させることとされます。

 

「いいね」の名誉毀損該当性

 以前にも取り上げましたが、SNS上で「いいね」ボタンを押す行為も名誉毀損に該当するかが問題となりました。これも本件と同じく伊藤詩織さんに関する事例で、国会議員の杉田氏が伊藤さんに対する誹謗中傷ツイートに繰り返し「いいね」ボタンを押していたというものです。一審東京地裁は「いいね」ボタンは抽象的で様々な意味を含む表現行為であり、特段の事情がないかぎり違法とはならにとして名誉毀損に当たらないとしました。これに対し二審東京高裁は、伊藤さんへの批判を繰り返していた杉田議員が、侮辱する内容のツイートに賛同の意を示すことは名誉感情の侵害に当たるとし、名誉を傷つける意図を持って「いいね」をしたと認定して55万円の賠償を命じました(東京高裁令和4年10月20日)。11万人もフォロワーがいる国会議員が行ったという点も影響が大きいと指摘しております。

 

リツイートとは

 ツイッターにはリツイートという機能が存在します。リツイートは大きく分けて「引用リツイート」と通常の「リツイート」があります。リツイートは誰かが投稿したものをそのまま自分のタイムラインに再投稿することを言うとされ、引用リツイートは元の投稿に自分の意見や感想などを加えて再投稿することとされております。いずれも誰かがツイッターに投稿したものに賛同の意を表す場合や、自身のフォロワーなど多くの人にも見てもらいたい場合に行うものです。Facebookの「シェア」も同様の機能を有しております。これらは投稿内容をより多くの人に拡散したり、宣伝やプロモーションにも活用することができ、企業の広報活動にも利用されております。つまりリツイートには自身の投稿と同じようにその人の意思が含まれた表現行為とも言えます。

 

コメント

 本件では漫画家の蓮見氏がツイッターに投稿したイラストについて、それをコメントをつけずにリツイートした男性医師にも名誉毀損が成立するかが問題となりました。一審東京地裁は、リツイート行為を被告自身の発言ないし意見でもあるとして名誉毀損に当たるとしました。二審東京高裁は一審判決後にもリツイートした行為について、イラスト内容に賛同する意思を示し、その内容を拡散させるリツイート者自身の表現行為と解するのが相当とし、追加で賠償を命じました。以上のように他人の誹謗中傷投稿への「いいね」に続き、他人の名誉毀損的投稿をリツイートする行為についても名誉毀損を認める判決が出ております。近年インターネット上での誹謗中傷により自殺者が出るなど社会問題化しており、侮辱罪の法定刑も今年7月7日から1年以下の懲役または30万円以下の罰金と厳罰化されるなど規制が強化されております。それに伴い名誉毀損を認める判決も増えております。これらを踏まえ、自社が被害を受けた場合に備えておくことが重要と言えるでしょう。

 

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