JPアセットに業務改善命令、金商法の損失補填規制について
2019/09/11   金融法務, 金融商品取引法

はじめに

 関東財務局は10日、自民党の石井浩郎参院議員(55)への利益供与問題でJPアセット証券に対し業務改善命令を出していたことがわかりました。金融派生商品(デリバティブ)取引での証拠金不足を補填していたとのことです。今回は金商法の損失補填規制について見直していきます。

事案の概要

 報道などによりますと、証券取引監視委員会は先月30日、JPアセット証券に金商法違反の疑いがあるとして金融庁に同社を行政処分するよう勧告していました。その内容は同社が昨年10月から今年5月にかけて石井議員の個人的なデリバティブ取引に関し、不足していた証拠金を立て替えた上で取引を継続していたというものです。不足額は6200万円にものぼり、石井議員から取引の継続を強く求められていたとのことです。これを受け関東財務局は同社に対し顧客管理体制の整備や経営責任の明確化を求める業務改善命令を出しました。

損失補填等に関する規制

 金商法39条によりますと、金融商品取引業者は有価証券やデリバティブ取引について、顧客に「損失」が生じたり「あらかじめ定めた額の利益」が生じなかった場合にその全部または一部を補填することを禁止しております。一般に損失補填と呼ばれる行為で、違反した場合には内閣総理大臣は金融商品取引業者に対し業務改善命令を出すことができ(51条)、また罰則として3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(198条の3)。損失補填の禁止は一部の投資家にのみ利益提供がなされることによって証券市場の中立性や公正性が阻害され一般投資家の信頼を損なうことを防止することが趣旨とされております。

損失補填の行為類型

 金商法39条では禁止する損失補填の類型として以下の3つを規定しております。
①事前に顧客に対し損失を補填するために財産上の利益を提供する旨を申込み・約束する行為(1号)
②事後に顧客に対し損失を補填するために財産上の利益を提供する旨を申込み・約束する行為(2号)
③すでに生じた損失を補填するため財産上の利益を提供すること(3号)
また顧客についてもこれらの行為を要求したり財産上の利益を受けまたは第三者に財産上の利益を受けさせるといった行為が禁止されております(同2項)。

適用除外

 金商法では一定の場合には損失補填禁止の規定が適用除外となることがあります(同3項)。顧客の注文内容をよく確認しないで取引を行った場合、金融商品の性質や取引条件、価格の騰落などに関して顧客に誤認させる勧誘をした場合、顧客の注文の執行に際して事務処理上のミスをした場合、コンピューターの不具合といったシステム上の障害により顧客の注文の執行に過誤が生じた場合その他業者側の法令違反が挙げられております。この場合には金融庁への報告・確認を経て補填することができます。

コメント

 本件でJPアセット証券は顧客である石井議員の強い要望により多額の証拠金不足を補填した上で取引を継続したとされております。金融商品の取引で生じた「損失」に対し「財産上の利益」を提供したこととなると言えます。これに対し関東財務局は「経営陣の法令遵守意識が欠如し、ガバナンスが機能していない」として改善命令を出しました。以上のように金融商品の取引に関しては市場の公正性確保の見地からかなり厳格に損失補填を規制しており、ごく限られた場合にのみ補填することが許されております。大口顧客との取引の継続や新規顧客の開拓といった目的で行うことはできません。金融商品を扱っている場合や、これから扱いを検討している場合にはこれらの点を留意して、特定の顧客への財産提供とならないよう注意することが重要と言えるでしょう。

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