改正特許法施行、職務発明の扱いについて
2016/04/08   知財・ライセンス, 法改正対応, 特許法, その他

はじめに

平成27年7月10日公布された「特許法等の一部を改正する法律」が4月1日施行されました。これにより職務発明の扱い等に変更が生じることになります。今回は特許法35条の職務発明について見ていきたいと思います。

職務発明とは

特許法35条にいう職務発明とは、「使用者等」の「従業者等」が行った発明を言います。企業の従業員や法人の役員、国や自治体の公務員が行った発明といったものです。そしてその発明が使用者等の業務範囲に属し、かつ従業者等の職務範囲に属していることを要します。例えば使用者が製薬会社であった場合、業務範囲は薬剤の製造であり、その研究員が職務上薬剤を発明した場合が職務発明に当たります。使用者の業務範囲に属していない発明は自由発明、従業者の職務範囲に属していない発明は業務発明と呼ばれます。製薬会社の研究員が機械部品を発明した場合は自由発明、製薬会社の営業部従業員が薬剤を発明した場合は業務発明となります。職務発明の特許の帰属とその対価については、従来からその扱いについて争いがあり特許法上も、その扱いを変遷させてきました。明治時代は最初から使用者に帰属する使用者主義が取られており、大正10年改正で発明者に帰属する発明者主義が基本となりました。

平成27年改正のポイント

本改正では主に特許権の帰属、相当の対価について、予見可能性についての3つの点で従来の扱いが見直されています。以下それぞれについて概観します。
(1)特許権の帰属
従来の特許法35条では、発明の特許を受ける権利は原則発明者に帰属し、使用者と従業者の間で契約、勤務規則等を定めることによって職務発明に限り予め従業者から使用者に承継する定めを置くことが認められていました。職務発明以外の自由発明と業務発明に関しては認められません。つまり職務発明に関しては一旦発明者に帰属し、それを相当の対価を支払うことによって使用者に承継させることを予め定めておくという扱いを取っていました。この点について本改正では、予め契約、勤務規則で定めることにより、最初から使用者に帰属させることができるようになりました。この定めを置かない場合は従来通り発明者である従業員に帰属することになり、使用者が権利を使用したり、権利を得ようとする場合は別途、従業者と合意する必要があります。

(2)相当の利益
従来は「相当の対価」となっていた部分を「相当の金銭その他の経済上の利益」(相当の利益)と改めました。発明者に与えられる対価を金銭に限定せず、多様な経済上の利益を与えることによって使用者の戦略と発明者のインセンティブを柔軟に調整しようという趣旨です。相当の利益について勤務規則等で定める場合はその基準等が不合理なものであってはならず、従業者との協議の状況や算定基準の開示状況、従業者の意見の聴取等から客観的に合理性が判断されることになります(35条5項)。もし不合理であると認められた場合は35条7項に基いて別途利益の内容が決定されます。その発明によって使用者が受ける利益、発明にあたっての使用者の負担と貢献、従業員の処遇等から総合的に判断されることになります。

(3)予見可能性
上記の相当の利益に関する勤務規則等の定めの合理性の判断(35条5項)について、より具体的な判断基準を経済産業大臣が指針(ガイドライン)を定めて公表する旨新たに規定されました(35条6項)。35条5項に列挙されている上記の考慮要素をより具体的に明示し、これらの手続き状況が適切かどうかをまず判断し、適切であれば使用者と従業者の合意を尊重する旨を明示されることになりました。これにより勤務規則等の定めの合理性の判断の予見可能性の向上が図られることになります。

コメント

企業に所属する研究員の発明をめぐって企業と研究員の利害が対立する事例はこれまでも多く見られてきました。従来日本では企業の資金と設備を使用して従業員として研究開発し、それにより新たな発明が生まれた場合、その権利は企業に当然に帰属するというい考え方が浸透していました。一方でより研究者の権利を保護する欧米の考え方も日本に入り始め、自らの権利を主張して相当の対価を求める研究者も増えてまいりました。青色発光ダイオードの特許の帰属とその対価をめぐって中村修二氏が日亜化学工業を訴えていた事例で、平成16年に東京地裁が日亜化学工業に対し、200億円の支払いを命じたことは日本の多くの企業に衝撃を与え、この問題に関して考える契機となったと思われます。今回の改正は職務発明の特許は最初から取得したいという企業の要望と、発明の正当な対価を得たいという研究者の要望を調整したものと言えます。新たな発明を促進し、企業の利益と従業員の待遇を増進するため、経産大臣が公表することになるガイドラインにそって勤務規則の策定を進めることが重要と言えるでしょう。

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