裁判例にみるLGBT(性的少数者)への企業対応の基準
2016/01/18   労務法務, 法務相談一般, 民法・商法, 労働法全般, その他

1 概要

 渋谷区のパートナーシップ条例で話題となったLGBT(性的少数者)への社会的配慮が拡大しつつある。企業の先進的対応としては、日本IBMが、結婚や出産などの特別有給休暇や介護休職などについて、男女間の結婚とかなり近い水準としている例がある。また、与党はLGBTへの差別を解消するため、党内に新たな対策組織を設けるという。とはいえ、法的には議論途上にあり、多くの企業にとっては悩ましい状況だ。そこで、顧客対応と従業員への対応が問題となった裁判例から、最低限のルールを見てみたい。

2 裁判所の基本スタンス

 この点について最高裁判所の判決はないが、後述するゴルフ場事件で東京高等裁判所は「(性同一性)障害が単なる趣味・嗜好の問題ではなく、本人の意思とは関わりなく罹患する疾患であることが相当程度社会においても認識され」ており、「性同一性障害及びその治療を理由とする不合理な取扱いをすることが許されないことは、その他の疾病を理由とする不合理な取扱いが許されないのと同様」とし、性同一性障害への差別は許されないことを明言している。

3 実際の事例

(1) 顧客対応:老舗ゴルフ場での入会拒否事件
男性から女性に戸籍上も変更し、性別適合手術を受けた原告が、老舗ゴルフ場から入会を拒否され、不法行為による損害賠償を請求した。一審の静岡地方裁判所、控訴審の東京高等裁判所ともに、原告の請求を一部認めて、慰謝料としては高額の100万円の賠償支払いを命じた(静岡地判平成26年9月8日、東京高判平成27年7月1日第17民事部判決)。
 注目すべきは、ゴルフ場では入浴施設や更衣室などセンシティブな施設がある点だ。裁判所は、原告が身体的・外見的に女性型になっており、実際にビジターとして過去3回、入浴施設や更衣室を利用した際に混乱がなかった事実を指摘して、ゴルフ場が被る不利益は「抽象的な危惧に過ぎない」としている。
 では、ゴルフ場の他の会員たちの意向は影響するだろうか?この点、被告であるゴルフ場は会員へのアンケートを実施し、回答総数の約6割が入会拒否に賛成していた。しかし、裁判所はアンケートの時期や内容を厳しく審査して、提訴後に行われた点や原告の入会拒否に賛成するように誘導する点があったとして、「アンケート結果はこれを重視すべきではなく、」違法性の判断に影響しないとした。また、仮にアンケートが会員の意向を正確に反映していても、「公序に反し違法な決定に当たるのであれば、団体の構成員の相当数が賛同するという理由によって肯認されるべきものではない」とし、顧客の意向であっても差別は許されないとしている。
(2) 従業員への対応:女性服装での出勤禁止事件
この事件の従業員は、性別適合手術や性別の戸籍変更はしていないものの、性同一性障害と診断されて精神療法等の治療を受け、戸籍上の名前も女性名に変更していた。そして、女性の容姿をして出勤したところ、会社は服務命令に違反するなどを理由に懲戒解雇した。従業員が地位保全および賃金・賞与の仮払いを求め、裁判所は解雇を無効として従業員の求めを認めた(東京地決平成14年6月20日)。
 裁判所は、従業員が性同一性障害により女性の容姿でないと多大な精神的苦痛を被る状態にあった場合には、女性の容姿による出勤を服務命令で禁止したり、また配置転換できないのが原則であるとする。また、取引先や顧客の違和感及び嫌悪感が生じる場合もあるが、会社の業務遂行上著しい支障を来すおそれがあるレベルに達しない限り、やはり服務命令で禁止したりできないとする。

4 まとめ

 裁判所としては、LGBTの当事者が真剣に対応を求めた場合には、企業はこれに応じるのが原則であるというのが基本的な流れだ。国際的には、同性婚を認める方向にある。日本企業は今まで以上に海外展開し、その顧客はLGBTへの配慮について関心が高くなってきている。日本企業にも真剣な対応が求められそうだ。

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