Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第44回- 保証条項(5):保証違反に対する救済
2021/11/03   契約法務, 海外法務

 

今回は、前回に続き、保証条項の内、保証違反に対する救済に関する規定に関し、(供給者サイドから見た)規定趣旨と契約交渉例(顧客要求例と供給者回答例)を示します。なお、英文は、理解し易いように適宜一文を分けて訳しています。

 

 

G. Warranty Remedies 保証違反に対する救済


Supplier will provide the following exclusive warranty remedies provided Customer promptly notifies Supplier during the specified warranty period, or for Services within thirty days after the performance of Services, of any non‑conformance to the above warranties.


供給者は、顧客が所定の保証期間中または「サービス」についてはその実施後30日以内に、上記保証への不適合をSupplierに速やかに通知した場合に限り、以下の排他的保証を履行する。


(a)Supplier will repair or replace the Supplier Equipment in the manner specified in the Price List, Quotation, or documentation accompanying the Supplier Equipment.


供給者は、「価格表」、「見積書」または「供給者機器」付属のドキュメントに定める方法で、当該「供給者機器」を修理または交換する。


(b) Supplier will remedy the warranted Supplier Software in the manner specified in the Price List, Quotation, or documentation accompanying the Supplier Software.


供給者は、「価格表」、「見積書」または「供給者ソフトウェア」付属のドキュメントに定める方法で、当該保証対象「Supplierソフトウェア」を改善する。


(c) Supplier will remedy non‑conforming Service.


供給者は、不適合の「サービス」を是正する。


If in Supplier's opinion, Supplier is unable to otherwise remedy the warranty non‑conformance, Supplier may accept return of the Equipment or Software and refund the purchase price, or refund a portion or all of the purchase price of the Service.


供給者は、保証対象の不適合を是正できないと判断した場合、当該「機器」もしくは「ソフトウェア」の返還と引き換えに代金を返還し、または、「サービス」代金の一部または全部を返還することができる。



 

【関連する米国統一商事法典(UCC)の規定】


 

【商品受入(acceptance)後に発見した契約違反の通知義務】 (2-607)


(3)(a)契約違反(保証違反を含む)の通知義務:買主は商品受入(acceptance)後、売主の契約違反を発見しまたは発見し得た場合、その旨売主に対し、当該違反発見後合理的な期間内に通知しなければならない。買主は、これを怠った場合如何なる救済も受けることができない。

【契約解除・代金返還請求・代替品調達・損害賠償請求】 (2-711)


(1)買主は、商品の受入を適法に取消す場合、契約解除(cancel)、商品代金の返還請求、代替品調達(cover)または損害賠償請求をすることができる。

【契約による救済手段(Remedy)の修正・制限】 (2-719)


(1)UCC上の救済手段の修正・制限

(a) 両当事者間の合意により以下のことを行うことができる。

UCCに定める救済手段に加えまたはこれに代え救済手段を定めること

– UCC上請求可能な損害賠償を、買主の救済手段を商品返還および代金返還または不適合品またはその部品の修理または交換に限定することにより限定・修正すること。

(b)救済手段のどれを行使するかはそれを請求する者が選択できる。但し、救済手段が排他的なものであることが明示的に合意されている場合にはその救済手段が唯一の救済手段となる。

(2)排他的・限定的救済手段の本質的目的不達成時の取扱い: 排他的・限定的救済手段の本質的目的が達成されない(fail of its essential purpose)場合、UCCに定める救済も認められる。(*)

 

【規定の趣旨・解説】


保証実施の条件・保証の排他性: 保証は、「製品」(「機器」・「ソフトウェア」)については保証期間内に、「サービス」についてはその実施後30日以内に、顧客から通知があることを条件としています。「排他的保証」(exclusive warranty)としているのは、UCCの上記(a)~(c)の規定に従い、「機器」、「ソフトウェア」、「サービス」の保証違反に対する救済方法を上記の保証条項に規定したものに限定し、UCCに定める他の救済方法(代替品調達等)を排除する趣旨です。

②:「機器」の保証違反に対する救済方法: 修理または交換ですが、その実施場所・方法(例:不具合「機器」の返送を受け修理、部品交換の上返送/顧客施設(オンサイト)で修理)、費用負担(例:全額無償/作業費有償)等については「価格表」その他に定められています

③:「ソフトウェア」の保証違反に対する救済方法: 「ソフトウェア仕様書」に適合しないバグの修正プログラム(パッチ)をダウンロード可能にすること・記録媒体での送付等による提供等が含まれます。

④:「サービス」の保証違反に対する救済方法: 基本的にその「サービス」の不適合部分を「サービス仕様書」通りに実施し直すことです。

⑤:不適合を是正できない場合の返金: 例えば、「ソフトウェア」のバグ等については修正のための合理的な努力をしてもそのバグを修正できない場合があります。その場合、①~④の規定だけしかないと、上記(*)のUCC上の「排他的・限定的救済手段の本質的目的が達成されない(fail of its essential purpose)」と認定され、UCC上の保証(黙示保証等)・救済が復活・適用されてしまう可能性があります。そこで、⑤の規定を置いて、最終的には供給者の選択により代金返還を行うことによりこれを回避する趣旨です。

 

【顧客修正要求例】


①の“exclusive warranty remedies(排他的保証)”の下線部分削除。(これを削除した場合、UCC 2-711の規定により、買主は、交換・修理等ではなく、代替品調達、損害賠償請求も選択可能となる。)

【供給者回答例】


不同意。

 

今回はここまです。

 

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【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)


 
 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄 (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

 

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