Q&Aで学ぶ英文契約の基礎(9) - 英文契約の表現と読解(2)
2021/10/18   契約法務, 海外法務

 

この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第9回では、前回に引き続き英文契約書の表現と読解について解説します。

 

Q1: 前回、いくつか英文契約の表現を学びましたが、知っておいた方がいい表現の一覧表のようなものはありますか?


A1:以下に英文契約に頻出し契約書のあちこちで現れかつ一般的な表現を以下に示します。

 

なお、各条文に特有な表現(例:"force majeure," "indemnify and hold harmless"等)は、いずれ、それぞれの条文例に関連して説明する予定です。

 

(注)「n.」は名詞。「節」は主語(S)と述語(V)を含む文。[ ]はなくても可。

 

 

英文契約の表現

 

訳例および説明

 

(1) shall ~(do)


 

(2) agree(s) to ~(do)


(3) is/shall be obliged to ~(do)


(4) has(have) an obligation to ~(do)



 

(1) 「~するものとする」、「~しなければならない」。
事・物が主語の場合は必要に応じ「されるものとする」などに訳す(後記のmay/ shall not/may notについても同じ)。

(2) 「~することに同意する(ものとする)」

(3), (4) 「~する義務を負う(ものとする)」

義務を表すには基本的には"shall"を使えばよい。但し、特に義務性を強調したい場合は(3), (4)を使用。

"will"は、当事者双方について"shall"などと混在することなく一貫して使われていれば通常問題ない。

"must"は使わない。

 

(1) may ~(do)


(2) [shall] have the right to ~(do)


(3) is/shall be entitled to ~(do)


 
 

(1) 「~することができる(ものとする)」


(2), (3) 「~する権利を有する(ものとする)」


権利を表すには基本的には"may"を使えばよい。但し、特に権利性を強調したい場合(例:ライセンス)は(2),(3)を使用。


"can"は使用しない。


 

(1) shall not ~


(2) may not ~


 

「してはならない(ものとする)」


"will not"は当事者双方について"shall not"などと混在せず一貫して使われていれば可。


 

(1) if ~(節)


(2) in the event [that]~(節)


(3) when ~(節)


 

「~する場合」、「~した場合」


なお、このような条件節の中の述語は動詞の原形を使う。


 

in the event of ~(n.)

 

「~の場合」


 

(1) ...... , provided, however, that~(節)


(2) ...... , except that ~(節)


 

「...... 。但し、~」。


和訳する場合は、通常、前の文(......)と分けて別の文として訳しても問題ない。


 

except for ~(n.)

 

「~を除き」

 

except as provided in ~


 

「~に定める場合を除き」


 

...... , provided that ~(節)

 

「~することを条件として......」、「......。但し、~」


 

unless ~(節)

 

「~しない限り」

 

unless otherwise provided in ~

 

「~に別段の定めのない限り」

 

except as otherwise agreed upon (by both parties)

 

「(両当事者により)別段の合意がなされた場合を除き」

 

(1) notwithstanding ~(n.), .........


(2) notwithstanding the foregoing


(3) notwithstanding anything to the
contrary in this Agreement


 

(1) 「~にかかわらず.........」


(2) 「上記にかかわらず」


(3) 「本契約の他の如何なる規定にもかかわらず」


 

subject to ~(n.)

 

「~に従い、」、「~を条件として、」、「~を条件とする。」


 

in accordance with/according to/ pursuant to/in compliance with
~(n.)

 

「~に従って」

 

(1) in no event ~


(2) in any event, (......) not ~


 

「いかなる場合も~しない」、「いかなる場合も~なく」


 

neither ~(partyなど).......

 

「いずれの~も........ない」


 

(1) to the extent of ~(n.)


(2) to the extent [that] ~(節)


(3) if and only to the extent [that]
~(節)


 

(1)「~の範囲(限度)内で(において)」


(2)「~する範囲(限度)内で(において)」


(3) 「~する場合においてかつその範囲内で」


 

(1) A, including[,] but not limited to ~(n.)


(2) inter alia ~(n.)


(3) among other things ~(n.)


 

(1) 「~を含め、かつ、これらに限らずA」、「~その他A」

(2), (3) 「とりわけ~」、「なかんづく(就中)~」

いずれも例示(「~」)の内容が全てではないことを意味するが、(1)が最も一般的で使うにも無難。

 

and/or

 

「および/または」

 

(1) at the request of ABC


(2) upon ABC's request


 

「ABCの請求(要求)に応じ」、「ABCの請求(要求)があった場合は」

 

upon ~


 

「~が生じた場合」、「~があった場合」


 

within ~ days (months)

 

「~日(~か月)以内に」

 

(1) on or before ~(X日)


(2) no (not) later than ~(X日)


 

「(X日)以前に」。 


X日を含む。すなわち、X日に義務を履行してもよい。


 

(1) X(数字) calendar days


(2) X(数字) business days


 

(1) 「X暦日」


(2) 「X営業日」(厳密には定義が必要)


 

hereto, hereunder, herein, hereof

(here + 前置詞)

 

それぞれ、"to this Agreement"など、前置詞 + this Agreementに書き換え可能

 

thereafter, thereofなど

(there + 前置詞)

 

それぞれ、after ~、of ~(「~」は前にある名詞)に書き換え可能。但し、thereafter, thereofなどでは前にある名詞がどれを指すか明確でない場合は、after ~、of ~などに書き換えた方がよい。


 

(1) provide /set forth/ stipulate/ prescribe/ specify/describe/ mention/ define


(2) ~(n.) provided in ....など


 

(1) 「定める」、「規定する」、「記載する」、「定義する」などの訳を文脈に応じ選択。なお、(2)のように受け身形で用いられることも多い。


(2).「.....に定める~」など。


 

at the risk of ABC


 

「ABCの危険負担で」


 

at ABC's own expense (and cost)

 

「ABCの費用負担で」

 

at ABC's sole discretion


 

「ABCの単独の判断で(裁量で)」


 

the following ~


 

「以下の(次の)~」


 

~, as follows:


 

「以下の(次の)通り~」


 

any one of the following events/items


 

「以下の(次の)いずれかの場合/事項」


 

all of the following ~(conditionsなど)


 

「以下の(次の)全ての~(条件など)」


 

with respect to/ in connection with/ in relation to/ relating to/ concerning ~


 

「~に関して」、「~に関する」


 

if necessary


 

「必要な場合には」


 

if any


 

「もしあれば」


 

if applicable


 

「該当する場合には」


 

applicable (lawなど)


 

「適用される(法など)」


 

A or B, as the case may be


 

「Aまたは場合に応じB」


 

irrespective of/ regardless of/ without regard to + whether ~ or not


 

「~か否かを問わず」


 

the terms/conditions described in ~


 

「~に定める条件」


なお、単数の"term"は契約期間を意味する場合がある(例:"the term of this Agreement")


 

termination (of this Agreement)

 

「本契約の解約(解除)」、「契約終了」(解約と契約期間満了の両方を含む)」


 

expiration (of this Agreement)

 

「(本契約の)契約期間満了」

 

breach


 

「違反」。 但し、「侵害」と訳すべき場合もある。


 

amend (amendment to)/ modify (modifications of )/ change(hange in) ~(n.)

 

「改訂(する)・の改訂」、「修正(する)・の修正」、「変更(する)・の変更」など


 

represent(s) and warrant(s) that ~(節)


 

「~を表明しかつ保証する」。


契約書締結時点などにおいて~が事実であること、および、その事実関係(状態)を今後も維持することを保証するという意味。


 

Article/ Section/ paragraph/ clause/Subsection X など


 

その契約書の構成に応じ、「第X条」、「第X項」などと訳す。


一般的には"Article"は「条」、"Section"は”Article"があれば「項」、なければ「条」、その他は「項」など


 

"in lieu of "その他ラテン語表現


 

こちらの栗林総合法律事務所のサイト参照


(1) without prejudice to ~(rights/remedies/tasks/powers)


(2) without prejudice to ~ rights
generally


(3) Without prejudice to ~(Article 3など), .......(S+V)


(4) A is/shall be without prejudice to B.


(5) .......(S+V)[,] without prejudice to ~(rights/tasks/powers)


(1) 「~(権利/救済手段/任務/権限)に加え」、「~の他」、「~とは別に」


(2) 「~の他の権利に加え」、「~の他の権利の他」


(3)「~(の規定内容/の規定の適用)とは別に......」、「~は別として......」、「.........。但し、このことは、~に影響を与えない。」


(4)「AはB(の適用/の行使)を妨げるものではない」、「AはB(の適用/の行使/に影響を与えないものとする。


(5) 「.......。但し、これにより、~(権利/任務/権限)を損ねてはならない(ものとする)」、「.......。但し、これは、~に影響しないものとする」


 

 

Q2: "without prejudice to ~"の意味が今一つ良く分かりません。具体的にはどのように訳したらいいですか?


A2: 文脈に応じて、上記表の一番下に示した訳例を参考に訳す必要があります。

 

原義は「~(権利・利益など)を害することなく」という意味で、そのように訳している例も良く見かけます。しかし、これでは何だか良く分かりません。英文契約の表現の中でも最も意味をとりにくい表現の一つのような気がします。

 

以下に、二つだけ例文を挙げて検討してみましょう。

 

 

(例文1)Licensee acknowledges that monetary relief would not be an adequate remedy for a breach or threatened breach by the Licensee of the provisions of this Agreement and that Licensor shall be entitled to the enforcement of this Agreement by injunction, specific performance or other equitable relief, without prejudice to any other rights and remedies that Licensor may have.


(著者による訳例)


ライセンシーは次のことを了解する。


(a)ライセンシーによる本契約の違反または違反のおそれに対しては、金銭的賠償では適切な救済手段とならないこと。


(b)ライセンサーは、ライセンサーが有する他の権利および救済手段に加え、差止、特定履行その他衡平法上の救済手段により本契約上のライセンシーの義務の履行を強制する(enforcement
of this Agreement)権利を有すること。


 

上記において、太字部分を原義通り、「~を害することなく」と訳しても何のことかよく分かりません。

 

ここで言いたいことは、ライセンサーが差止等を裁判所に請求した場合、もしかしたら金銭賠償は認められなくなるという解釈があるかもしれないが(英米法上はそのような解釈がかつてあった)が、そうではなく、ライセンサーは、(日本の民法のように)差止請求権も損害賠償請求権も行使できる、ということです。

 

従って、このような場合は、「~に加え」などと訳した方がよく分かります。最初の訳(「~を害することなく」)は、法務部員のみが読むのであればもいいかもしれませんが、取引の担当部門や経営層の参考のため作成する訳としては失格のように思います。

 

次の例文は、「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第7回で取り上げたAmazonの"AWS Customer Agreement"に付属されている"AWS GDPR[1]DATA PROCESSING ADDENDUM[2]"からのものです。

 

 

(例文2) Without prejudice to Section 5.1, Customer may use these controls as technical and organisational measures to assist it in connection with its obligations under the GDPR, including its obligations relating to responding to requests from data subjects.


セクション5.1に定める内容とは別に、顧客は、データ主体からの要求への対応に関する義務を含め、GDPR上の顧客の義務の履行に役立てるための技術的・組織的措置として、上記の管理手段を利用することができるものとする。


(Section 5.1)


5.1 AWS has implemented and will maintain the technical and organisational measures for the AWS Network as described in the AWS Security Standards and this Section.


5.1 AWSは、AWS
セキュリティー基準および本セクションに定める通り、AWSネットワークの技術的・組織的措置を講じこれを維持するものとする。


 
 

ここで言いたいことは、顧客は、セクション5.1に従いAWSが行うセキュリティー確保措置によりAWS上で保存する顧客のデータのセキュリティーを間接的に確保できるが、それとは別に、顧客自らAWSが提供する各種の手段を利用してセキュリティーを確保することもできる、ということです。

ここでは、「~(の規定)に定める内容とは別に」と訳すのが適切だと思います。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第9回はここまでです。次回はどのような英文契約にもほぼ共通して規定される条項(いわゆる「一般条項」)について解説します。

 

 

[1]【GDPR日本の個人情報保護委員会の欧州連合(EU)のGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)紹介サイト

[2] 【AWS GDPR DATA PROCESSING ADDENDUM】 このAWSのサイトに掲載されている。

 

==========

本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】
浅井 敏雄 (あさい としお)
企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで複数の日本企業および外資系企業で法務・知的財産部門の責任者またはスタッフとして企業法務に従事。1998年弁理士試験合格。2003年Temple
University Law School (東京校) Certificate of American Law
Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy
Professionals) 会員。


【発表論文・書籍一覧】
https://www.theunilaw2.com/


 

 

 

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