労働組合法における「不利益取扱い」まとめ
2016/10/25   労務法務, 労働法全般, その他

・はじめに

先日、小学校で英語指導助手をしていたオーストラリア人の英語教師が卒業式への出席を拒否されました。それに対し労働組合が、小学校による拒否行為は不当労働行為にあたるとして、大阪府の労働委員会に申し立てたところ、労働委員会は市に謝罪文を手渡すように命令しました。この外国人教師は、労働環境の改善を求め組合を結成しており、労働組合の組合員であることを理由として出席が拒否されたと労働委員会は評価したと言えます。労働組合の組合員であることを理由として、解雇や不利益な取扱いをすることは「不利益取扱い」という不当労働行為(労働組合法7条1号【以下、「労組法」とする。】)に該当します。それでは、不当労働行為に該当する「不利益取扱い」とはいかなるものなのでしょうか。

・「不利益取扱い」とは

労組法7条1号によれば、労働者が、➀労働組合の組合員であること、②労働組合に加入しようとしたこと、③労働組合を結成しようとしたこと、④労働組合の正当な行為をしたことを理由として、労働者を解雇したり、その他不利益な取扱いをすることが「不利益取扱い」に該当します。
つまり、労働組合を結成したり、労働組合に加入したり、組合員として正当な行為をしたことを理由として、労働者を不利益に取り扱ってはいけないということになります。
また、労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすることも黄犬契約と呼ばれ「不利益取扱い」に該当しますが、従業員として働く前の話なので今回は省略します.
労働組合法
ここで、企業側として気を付けなければならないのは何かの理由で従業員を不利益に取り扱ったとき、その従業員が➀~④に該当するなら、「不利益取扱い」と認定されうるということです。上記、小学校の事例でも、小学校側としては「混乱が予想される」として出席を拒否しましたが、問題となった外国人の指導助手らが労働環境の改善を求め組合を結成していたので➀の要件を満たし、そのことを理由として「不利益取扱い」がなされたと労働委員会は評価しました。
また、従業員に対し昇進等の一般的に有益な取り扱いであっても、配置転換を伴い就業場所の点から考えると組合活動が困難になること(企業内では人気の部署であっても部署のある場所は僻地である等)があれば「不利益取扱い」に該当しうる点も企業としては気を付けたいところです。

・最近において「不利益取扱い」として認められた事例

最近では、以下のような事例が「不利益取扱い」として認められています。
1.労働組合に加入したことを理由に、賃金改定で昇給させずかつ賞与を支給しなかった事例
 ある従業員が、組合に加入したことを企業に伝えた後の賃金改定で昇給がされず、かつ、賞与の不支給がなされました。その扱いは他の従業員とそれまでの当該従業員における昇給及び賞与の取扱いについて明らかに異なるものでした。 
京労委平成27年(不)第1号プリントパック不当労働行為審査事件
2.争議行為を理由として欠勤した従業員を無断欠勤と扱い懲戒処分を下した事例
 争議行為に参加し欠勤した従業員を、企業が無断欠勤扱いし、1年の間における賃金の5%の減額と冬期賞与の不支給の懲戒処分を下しました。企業は、当該従業員が欠勤届を出していないことを無断欠勤扱いの理由としましたが、欠勤届にかかる書式は無く無断欠勤扱いには正当な理由はないと評価されました。 
大阪府労委平成27年(不)第6号不当労働行為審査事件

・「不利益取扱い」の救済

それでは、「不利益取扱い」がなされた場合に、従業員としてはどのように救済を求めればよいのでしょうか。
ここで、当然に企業を訴えることを考えられると思います(民事裁判)。
しかし、労働関係においては以下のような別の救済手段が用意されています。
1.各都道府県の労働委員会による救済
各都道府県には労働委員会という機関が設置されており、そこに救済を申し立てることが出来ます。労働委員会の構成員には、労働組合の推薦した労働者委員も含まれており(労組法19条1項)、公正な判断が期待できます。また、手続から判断までが民事裁判より簡易迅速である等の特徴があります。
参考サイト 山梨県 労働委員会による救済
2.中央労働委員会による救済
各都道府県の労働委員会の判断に不服がある場合には、中央労働委員会に更に救済を申し立てることが出来ます。中央労働委員会は都道府県労働員会の処分を取り消し、承認し、もしくは変更する権限を持っています(労組法25条2項)。
3.裁判所での取消訴訟
各都道府県の労働委員会及び中央労働委員会の判断である命令は行政処分というものになります。よって、それらの命令に不服のある当事者は、行政事件訴訟法に基づき取消訴訟を提起することが出来ます。日本の司法制度は三審制を取っているので、地方裁判所→高等裁判所→最高裁判所まで争うことが出来ます。
不当労働行為事件の審査手続の流れ

・おわりに

本まとめで取り上げた小学校の事例も含めて不当労働行為として争われる事例では「不利益取扱い」が問題となっていることが多いです。上述の通り、組合員であること以外の理由で従業員に対し何らかの措置をしたとしても、従業員や組合の立場からみれば「不利益取扱い」だと言われてしまうかもしれません。また、不当労働行為として争った場合、多くの事件が和解に落ち着きますがそうでない場合、最高裁まではいかなくても時間を要します。企業の法務担当者としては、企業の行為が「不利益取扱い」に該当しないようにチェックするだけでなく、従業員から申立てがあった場合、解決までにかかる時間も想定してその対応に取り組むべきでしょう。
不当労働行為事件の処理状況

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