再雇用の給与格差で不合理判決、同種判例から見る同一労働同一賃金
2020/11/02   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

定年後再雇用の基本給が減額されるのは不合理であるとして未払い分の賃金支払いを求めていた訴訟で28日、名古屋地裁は不合理な待遇格差に当たると認めました。基本給は定年前の6割を下回っていたとのことです。今回は定年後再雇用の格差について最高裁判決の事例と比較してみます。

事案の概要

 報道などによりますと、今回訴えを起こしていたのは「名古屋自動車学校」(名古屋市)に勤務する男性従業員2人で2013年~14年に定年退職後、希望により再雇用され技能講習や高齢者教習を担当していたとされます。業務内容や責任の範囲は定年前と同様であったにもかかわらず、基本給は月額16万円~18万円から7万円~8万円にまで減少したとのことです。男性2人は不当な賃金減額であるとして未払い分の支払いを求め名古屋地裁に提訴しておりました。

同一労働同一賃金

 同一労働同一賃金の原則についてはこれまでも何度も取り上げましたが、ここでも簡単に触れていきます。旧労働契約法20条では、有期労働者と無期労働者で労働条件につき不合理な格差を設けることを禁止しておりました。今年4月1日から施行になった改正パートタイム労働法8条に統合され削除されましたが、基本的な考え方は変わりません。①業務内容と責任の程度、②職務内容・配置変更の範囲、③その他の事情を考慮して不合理な待遇格差となってはならないとされております。また事業者には待遇差に関する内容や理由の説明義務や説明を求めた労働者に対する不利益取り扱いも禁止されております(パートタイム労働法14条2項、3項)。

長澤運輸事件

 同一労働同一賃金の事例でリーディングケースとされる長澤運輸事件(最判平成30年6月1日)をおさらいします。この事例は長澤運輸(横浜市)でトラック運転手として働いていた従業員が、定年後再雇用されたものの正社員との賃金格差が不合理であるとして提訴したものです。この事例で最高裁は定年後の再雇用である点や、長期雇用は通常想定されていないこと、定年までは正社員としての待遇を受けていたこと、老齢年金なども「その他の事情」として考慮することを明らかとしました。そして問題となっていたものは、基本給、精勤手当、住宅手当、家族手当、役付手当、超勤手当、賞与で、そのうち不合理な格差と判断されたのは精勤手当と超勤手当でした。休日以外は欠かさず出勤することを奨励するという趣旨は正規・非正規でことならないとし、また超勤手当も非正規は精勤手当を算定基礎賃金に含めないのは不合理としました。

基本給格差についての判断

 長澤運輸事件では上記のとおり精勤手当、超勤手当以外の格差は不合理ではないとされました。本事例では正社員は基本給+能率給+職務給となっており、再雇用の嘱託職員は基本賃金+歩合給となっておりました。正社員と嘱託職員で賃金総額の格差は12%程度に留まること、基本賃金の額も正社員の基本給の額を上回っていること、歩合給の係数も正社員の能率給の係数の2倍以上であることなど賃金体系は正社員と異なるものを採用しているものの、労務成果が反映されやすくなっており、定年前よりも減少しにくいよう配慮がなされていること、そしてそれらは労組との団交を経て定められたことなどを考慮して最高裁は不合理ではないとしました。

コメント

 本件で名古屋自動車学校で再雇用され嘱託となった男性2人の基本給は正社員であったころの半分以下となっていたとされます。名古屋地裁は「年功的性格があることから将来の増額に備えて金額が抑制される若い正社員の基本給すら下回っており、生活保障の観点からも看過しがたい水準に達している」とし、また労使間の合意も無かった点も踏まえて不合理な格差と判断しました。以上のように長澤運輸事件では労使間交渉があったことや給与格差が生じないよう配慮されていたこと、また格差自体も12%程度であったことから不合理ではないとされた点を見ても、格差の程度、趣旨、交渉の経緯などを踏まえて判断しているものと考えられます。嘱託職員を雇用している場合は今一度待遇を確認し直しておくことが重要と言えるでしょう。

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