海外からの投資促進と安全保障強化へ、外為法改正の動き
2019/10/25 商事法務, 民法・商法
はじめに
日本政府は18日、外国資本による国内株式取得を規制する外為法の改正案を閣議決定し開催中の臨時国会に提出する予定であることがわかりました。
安全保障関連企業への海外からの投資について欧米と足並みを合わせるものとのことです。
今回は改正案について概観していきます。
改正の経緯
現行外為法では原子力や武器製造に関連する安全保障上重要な分野については一定の割合を超える株式取得を外国投資家が行う場合には事前届出などが必要とされてきました。
近年欧米では特に中国を念頭にAIや半導体、サイバーセキュリティといった最先端技術に関して株式取得を通じて非公開情報の取得がなされることを防止するため事前審査対象の拡充が行われてきました。
それを受け日本でも欧米と足並みを揃えつつ安全保障や技術流出の懸念が無い投資については手続きを簡略化し、投資の促進を図る方針です。
現行法上の規制
現行外為法では外国投資家による対内直接投資は原則として事前届出や報告は不要としつつ、上場会社の発行済株式の10%以上を取得する場合などでは事後報告を、国の安全保障等に係る一定の業種に関しては事前届出を義務づけております(26条、27条)。
事前届出の対象となっている業種は武器、航空機、原子力、宇宙関連など軍事転用可能な製造業からサイバーセキュリティ関連、電気、ガス、放送、旅客運送、農林水産、石油、航空運輸、開運など多岐にわたります。
届出を受けた事業所管大臣は審査を行い問題があると認める場合は変更・中止の勧告を出し、従わない場合は中止・変更命令、それにも従わない場合は株式売却などの措置命令を出すこととなります(29条)。
改正のポイント
(1)安全保障対策の強化
現行法では発行済株式数の10%以上の取得が事前届出の対象とされてきましたが改正案では1%に引き下げられます。
これは会社法の株主総会への議題提案権に合わせています。
また株式取得以外でも役員就任や重要事業の譲渡も事前届出の対象に追加される予定です。
国内外の行政機関との情報連携も強化するとされます。
(2)問題の無い投資の促進
反面、国の安全保障等と損なうおそれがない海外投資を促進するため、政令や告示等で対象事業を明確化しつつ、いわゆるポートフォリオ投資など問題の少ない株式取得については事前届出を免除する方針です。
このような投資についても事後報告や勧告・命令によって免除基準の遵守を担保するとされます。
コメント
現行法上の規制基準となる発行済株式の10%は旧外資法や証券取引法で10%を扱いの分水嶺にしていたこと、また国内の上場開会社でも筆頭株主の保有割合は10%前後であったことが挙げられております。
会社法では1%で議題提案権、3%で臨時株主総会招集権、10%で解散請求権、3分の1で特別決議の単独阻止が可能となります。
また3%で会計帳簿閲覧請求も可能です。
今回の改正案では議題提案が可能となる1%に合わせたものです。
近年外資による株式取得は活発化しております。
それと同時に株式取得を通じて国内企業の先進技術の流出も懸念されております。
今回は外為法による規制強化でしたが、他の法分野での規制強化も今後行われていく可能性は十分考えられます。
海外資本による自社株の取得については会社法や金商法だけでなく外為法などの規制についても留意していくことが重要と言えるでしょう。
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