軸受製造販売業者による価格カルテル事件について
2018/01/19 コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに
平成29年12月22日、NTN株式会社は独占禁止法(以下「法」という。)第52条第4項の規定に基づき排除措置命令に係る審判請求を取り下げました。これにより、公正取引委員会が行った排除措置命令は確定しました(同条第5項)。
今回は、軸受製造販売業者による価格カルテル事件を題材に、独占禁止法が規定する不正取引の制限について見ていきます。
事案の概要
平成25年3月29日、公正取引委員会は軸受製造販売業者(NTN株式会社、日本精工株式会社、株式会社不二越、株式会社ジェイテクト)に対し独占禁止法の規定に基づいて審査を行いました。その結果、法第3条(不当な取引制限の禁止)に違反する行為を行なったとして、法第7条第2項の規定に基づく排除措置命令及び法第7条の2第1項の規定に基づく課徴金納付命令を行いました。
4社は、平成22年7月1日以降に納入する産業機械用軸受の販売価格を、同年6月時点における4社の販売価格より、一般軸受につき8%、大型軸受につき10%をそれぞれ引き上げることを需要者等に申し入れました。また、4社は、同納入期の自動車用軸受の販売価格を、同年6月時点における4社の販売価格から、原材料の鋼材の投入重量1キログラム当たり20円を目途に引き上げることにも合意しました。軸受の原材料である鋼材の仕入価格の値上がり分を転嫁することを目的としていたようです。そして、販売価格引上げ交渉については、販売地区及び主要な需要者ごとに4社が連絡、協議しながら行うことを合意しました。
「不当な取引制限」
独禁法は、「不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、・・・公正且つ自由な競争を促進し、・・・国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的」(法1条)としています。消費者が自由に商品を選ぶ中、市場経済の成長を支えるために健全な競争が不可欠です。そこで、「不正な取引制限」とは、「事業者が・・・他の事業者と共同して対価を決定し・・・取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し・・・公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(法2条)とされています。具体的には、カルテルや入札談合がこれにあたります。紳士協定や口頭の約束など、申し合わせの形は問いません。「不正な取引制限」に当たる場合には、排除措置命令や課徴金納付命令がなされます。当該違反行為による課徴金の算定率は10%(中小企業は4%)であり、独占禁止法の中でトップの算定率となっています。
「不正な取引制限」にあたるためには、行為要件として「他の事業者と共同して対価を決定し・・・取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束」することが必要です。これについて、実務上は①「意思の連絡」と②「相互拘束」が必要と考えられています。
本件では、4社は販売価格の引き上げ交渉を協議し、合意(①)しました。また、販売価格を相互に拘束(②)し、市場の停滞を招きました。このような4社の行為から、法3条に定める「不当な取引制限」に該当すると判断されました。
コメント
日本の軸受(ベアリング)業界は、世界でもトップクラスのシェア率を誇っています。企業別シェア率を見ると、世界第3位は日本精工、同4位はNTN、同5位はジェイテクトとなっており、3位以下を占めています。そのシェア率は約34%と、世界の3分の1のシェアを誇っています。国内でも90%以上と、圧倒的なシェア率となっています。また、国内第4位の株式会社不二越は6%のシェア率を誇ります。
大手メーカーによる価格カルテル事件として、その課徴金額も相当なものとなりました。その合計額は約133億円(NTN株式会社は約72億円)であり、企業にとっては甚大な被害となりました。また、企業の社会的イメージの低下など、将来的な社会的制裁も負うことになります。
日本では歴史的側面もあり、価格カルテルに関する社員の意識は低いかもしれません。しかし、市場の競争力の低下から経済がストップしてしまえば、企業の経済活動が成り立たず、長期的には企業にとっても致命的な状況下に置かれることになります。そこで、社内での周知活動に加え、研修等によって積極的に社員の意識を高める必要があるでしょう。また、現にカルテルや談合が行なわれるのを防ぐため、データの管理や自社の施設利用者のチェックを行なうなど、管理体制を強化することも有効と思われます。
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