「QBハウス」美容師が残業代求め提訴、雇用関係の成否について
2023/02/16   労務法務, 労働法全般

はじめに

 低価格ヘアカット理容店「QBハウス」の神奈川県内の店舗で働く美容師8人が残業代を過小に算定していたなどとして約2800万円の支払いを運営会社に求め提訴していたことがわかりました。運営会社に直接雇用されていなかったとのことです。今回は会社と労働者の雇用関係の成否について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、QBハウスを運営するキュービーネット(渋谷区)は直轄店と業務委託店の2種類の店舗運営を行っているとされます。そのうち業務委託店は本社と業務委託契約を締結した個人事業主がエリアマネージャーとして運営しており、そこで働く従業員は本社ではなく個人事業主に雇用されているとのことです。この業務委託店に勤務する8人の美容師は、2003年~16年に求人募集を見てスタッフとして採用されたものの採用書には雇用主が誰であるか記載が無くエリアマネージャーを雇用主として雇用契約を締結するよう求められたとしております。直轄店ではなく業務委託店で働く場合は労働時間が週44時間として運用されており、また福利厚生も受けられないとし、未払い分の残業代など計約2836万円を求め東京地裁に提訴しました。原告側は本社の指導やマニュアルに基づく業務指導があることから実質的な雇用主は本社であるとしております。

 

会社と労働者の関係

 会社とそこで働く者との間で生じる労務関係の紛争ではたびたび両者の関係が問題となります。たとえば会社は従業員として雇用契約を締結せず個人事業主として扱い、業務委託契約を締結している場合、または派遣会社に労働者を派遣してもらっているという形をとる場合が挙げられます。いずれも独立した事業主、あるいは派遣社員として扱う場合は特に問題はありません。しかし実質的には会社の指揮監督の元で労働させ、賃金等も会社が決定している場合は問題となります。なお後者についてはいわゆる偽装請負として一定の場合は違法となります。このような場合、会社としては雇用契約にない以上、各種労働法令上の義務や責任は無いと考えます。一方労働者側は実質的に独立性は無く、会社の指揮のもとで働いているのに手当や福利厚生が受けられないのはおかしいと考えます。残業代支払請求訴訟などではこのように会社との関係が争点となってきます。

 

黙示の雇用契約の成否

 上記のように会社との関係が実質的に雇用関係にあるのではないかが問題となる場合、会社と労働者との間に「黙示的な雇用契約」が成立していないかが争点となることがあります。この点について請負会社に請負契約に基づいて従業員を派遣してもらい、自社の工場内で自社の指揮監督のもと働かせていたという事例で大阪高裁は、実質的に脱法的な労働者供給契約に当たり、職業安定法に違反し無効とした上で、会社と使用従属関係が認められ、給与も実質的に同社が決定していたとして黙示的な雇用契約があったとしました。一方上告審で最高裁は労働者派遣法に違反しているとしつつも、派遣元の会社との雇用契約は無効とならず、派遣元が一定の範囲で配置等に関与できていたとして黙示的な雇用契約を否定しました(最判平成21年12月18日)。このように裁判所は、派遣元との関係が残存している場合は黙示の雇用契約の認定は慎重な姿勢と言えます。

 

労働者と個人事業主

 労働関係法令が適用されるかが問題となる場合、労働者か個人事業主のいずれに該当するかもたびたび問題となります。この点については以前も取り上げましたが、ここでも簡単に触れておきます。この「労働者」該当性については労働基準法、労働契約法、労働組合法で若干の差異はあるものの、基本的な大枠はほぼ同じと言えます。一般的には、(1)仕事依頼や業務の指示等の諾否の自由の有無、(2)業務内容や遂行方法等の指揮監督の有無、(3)時間的場所的拘束の有無、(4)報酬の労働対償性、(5)他社による労務提供の代替可能性で判断されると言われております。またこれらに加え、(6)報酬額や機材の負担などの事業者としての程度、(7)他社の業務を受託できるかといった専属性の有無、(8)公租公課の負担の有無も考慮事由に挙げられております。会社から独立して業務を行う者が個人事業者ということです。

 

コメント

 本件で原告側の主張によりますと、QBハウスの業務委託店のスタッフは本社ではなくエリアマネージャーと呼ばれる個人事業主との間で雇用契約を締結しているとされます。しかし本社主催の店長会議やマニュアルに基づく業務指示に従って勤務しているとのことです。本件ではスタッフと本社との関係とは別に個人事業主とされるエリアマネージャーの性質も問題になってくるのではないかと考えられます。個人事業主ではなく実質労働者とされた場合、スタッフとの雇用関係も揺らぐこととなるからです。本社との指揮監督関係などが争点となるものと予想されます。以上のように名目上の契約にかかわらず、会社とそこで働く者との関係は実質的な指揮監督に服しているかが重要です。労働法が適用されない個人事業主等とする場合は業務の遂行方法などもその者の判断に委ねる必要があります。自社での取扱について今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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