障害者の労災認定、最高裁が国の判断を否定
2011/07/26 労務法務, 労働法全般, その他
事件の概要
心臓に障害を抱えながら家電量販店従業員として勤務していた小池勝則さんの死亡は過剰な業務が原因であるとして、勝則さんの妻が国を相手に、労災を認めない労働基準監督署の処分の取り消しを求めて訴訟を提起した。最高裁は今月21日付けで国の上告を受理しない決定をし、これにより過労による労災を認めた原告逆転勝訴の高裁判決が確定した。
小池さんは慢性心不全を抱え、身体障害3級の認定を受けていた。2000年11月に家電量販店「マツヤデンキ」に障害者枠で入社したが、健常者と同様に立ち仕事や残業・ノルマを強いられており、入社約1ヶ月半後に致死性不整脈を発症し、死亡した。遺族は豊橋労基署に労災認定を申し立てたが、認められず本訴訟に至った。
本判決の意義
2008年、一審の名古屋地裁は、小池さんの死亡前約1ヶ月の33時間の時間外労働が、国の過労死判認定基準である月45時間を下回っているとして、原告の請求を認めなかった。これに対して、昨年4月の名古屋高裁は、障害者であることを前提として業務に従事させていた場合には、国が用いる平均的労働者の基準で業務の過剰性を判断することは相当でなく、当該労働者本人の状況を基準に判断するべきだとした上で、労災を認める原告逆転勝訴の判決を下した。最高裁はこの高裁判断を支持し、国の敗訴が確定した。本判決の意義は、障害を抱える労働者の労災認定について、健常者と同じ基準を適用する国の判断を明確に否定し、たとえ平均的労働者にとっては過剰といえない業務であっても、障害者の個別事情に照らした場合、過剰な労働となりうることを示した点にある。
総評
本判決は当たり前の内容のようだが、裏を返せばこれまでの国の機械的な労災認定判断の問題点を浮き彫りにした。障害者の雇用促進については、厚生労働省の雇用安定局が障害者雇用対策を掲げており、一定の成果が見られる。しかし、雇用後の障害者の労働環境については、障害者への人権配慮が欠けており、その調査・改善への取り組みが確立していないのが現状である。労働安全衛生法62条は、「事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たつて特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行なうように努めなければならない。」としており、労働省通達は「特に配慮を必要とする者」に身体障害者が含まれることを明記している。障害者の雇用が単なるパフォーマンスであってはならず、国の監督体制の強化を急ぐとともに、個々の事業者は障害者への配慮の必要性を強く自覚しなければならない。
・関連リンク
労働安全衛生法
厚生労働省 障害者雇用対策
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