京都地裁がタクシー会社に支払い命令、歩合給と割増賃金について
2021/12/14 労務法務, 労働法全般

はじめに
残業代が歩合給に含まれるのは不当だとして、タクシー会社の運転手らが会社側に未払い残業代などの支払いを求めていた訴訟で京都地裁が計約1億500万円の支払いを命じていたことがわかりました。歩合給は割増賃金とは解釈できないとのことです。今回は労基法の割増賃金と歩合給について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、洛東グループの「洛東タクシー」と「ホテルハイヤー」(京都市)では運転手の給料に、売上に応じて変動する「基準外手当」という歩合給が含まれているとされます。同グループでは法定時間外での残業や深夜早朝労働の賃金はこの歩合給によって支払われているとのことです。原告側の元タクシー運転手27人は、歩合給は総労働時間の対価であって、特定の時間帯の対価とは認められないとし、会社に対して未払い割増賃金分の支払いなどを求め提訴しておりました。これに対し会社側は基準外手当に時間外労働などの賃金が含まれるとし、また空車時の乗務は労働時間に含まれないと反論していたとされます。
労基法の割増賃金
労働基準法では、法定労働時間を1日8時間、週40時間と定め(32条1項、2項)、それを超える部分については割増賃金の支払いを義務付けております(37条)。割増賃金は法定労働時間を超えた部分には25%以上、大企業で月の時間外労働が60時間を超えたときは50%以上となります。なお中小企業については2023年4月1日から適用される予定となっております。休日に勤務させた場合は35%以上、深夜(22時~5時)に勤務させた場合には25%の割増となっております。たとえば法定時間外でかつ深夜であった場合にはいずれの割増率も適用され、割増賃金は50%以上となります。休日でかつ深夜である場合は60%以上となります。
歩合給制と割増賃金
歩合給制とは、売上や成果に応じて金銭が支払われる賃金体系を言います。月の売上の何%といった定め方が多いと思われます。これに対し固定給制とは売上に関わらず一定額の賃金が支払われる賃金体系です。固定給に歩合給を加えたものと完全歩合制の2種類があります。歩合給制の場合、割増賃金はどのようになるのでしょうか。この歩合給制を採用しても法定労働時間を超えて労働した場合にはその部分について割増賃金が発生するとされます。具体的には、歩合給制の場合は歩合給の額を総労働時間で割って1時間あたりの賃金を計算し、それに割増賃金分を加えて時間外分の労働時間に乗じることとなります。どのような賃金体系を採用しても労基法の規定は適用されるということです。
歩合給に関する判例
歩合給に関する著名な判例として国際自動車事件(最判令和2年3月30日)が挙げられます。この事例では基本給と歩合給があり、割増金と歩合給を算定するための対象額Aが定められておりました。対象額Aは(所定内税抜揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公出揚高-基礎控除額)×0.62となっており、この対象額Aから割増賃金を控除して歩合給が算定されるというものです。最高裁は労働契約における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金と割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要とし、そのためには当該手当が時間外労働の対価として支払われていることを要し、その判断は手当の趣旨、契約書等の記載内容、その他諸般の事情を考慮すべきとしました。その上で本件での賃金の仕組みは、どの部分が時間外労働に対する対価に当たるかは明らかではないとして37条に違反するとしました。時間外労働がある場合は歩合給が減額される仕組みも法の趣旨に反するとしております。
コメント
本件で洛東グループ側は、歩合給である「基準外手当」に時間外手当などが含まれると主張しておりましたが、京都地裁はこの基準外手当が時間外労働の対価であるとの記載が雇用契約書などに見当たらず、売上に応じて算出されているのであるから割増賃金とは言えないとしました。以上のように歩合給制を採用している場合でも労基法の割増賃金の支払いを要します。そして割増賃金と言えるためには通常の賃金と割増賃金が明確に判別できる賃金体系である必要があるとされます。近年規制緩和による同業者の増加や働き方改革による長時間労働の規制、新型コロナなどの影響によりこのような給与体系の運送業を中心に訴訟が増加傾向にあります。売上が高ければ逆に労働者に有利となっていた給与体系も、不況になると大幅に収入が下がることが理由の一つと言われております。今一度自社の給与体系が労基法に抵触していないか見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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