「それって法務の仕事だっけ?」問題の解決に動いた部長の話

 

こんにちは。法務専門キャリアアドバイザーの潮崎です。

年の瀬を控え、皆さま一年のストレスがたまっている時期なのか・・、
キャリア相談を受けていても、現職への愚痴をこぼす方が増えている印象です。

先日も、「事業部が法務の仕事じゃない案件まで押し付けてくる」と憤っている方がいました。

もはや、“法務あるある”とも言える、『それって法務の仕事だっけ?』問題。
この話題を聞く度に、この問題に本気で向き合った、とある化学メーカーの法務部長の話を思い出します。

 

1.なぜ、法務に「範囲外の仕事」が押し付けられるのか?

以前から交流会・勉強会などでお話をする機会があったNさん。当時40代後半、とある化学メーカーで法務部長を務めておられました。

そんなNさんの会社でも、他部門からの法務の「範囲外の仕事」が増え、部内が混乱していたといいます。各メンバーは、情報セキュリティ関連の相談、庶務寄りの業務、人事労務周りの相談など、実にさまざまな業務を抱えていたとのこと。

なぜ、こんなにも法務部門には、範囲外の仕事が降りかかってくるのか?私が尋ねると、Nさんは、

(1)法務は「社内相談業務」がメイン業務の一つとして置かれており、相談が集まりやすい部門であること
(2)他部門が法務の役割・管掌範囲を理解していないこと

などが主な原因なのではと分析してくれました。

また、Nさんの会社は違うようですが、会社によっては、間接部門である法務の位置づけが低く、面倒ごとを法務に押し付けようとする風土が蔓延しているケースもあるとのことでした。

 

2.真相究明のため、他部門へヒアリング

法務の「範囲外の仕事」が増えてしまうと、本来の法務業務を圧迫し、仕事のクォリティに影響が出てきます。また、「自分の仕事じゃないのに・・」と、メンバーの疲労・不満がたまっていき、最悪の場合、それが一因となって離職に繋がるケースもあります。

Nさんの会社も同様の状況にあったそうで、これ以上はやり過ごせないと、Nさんは腰を上げることになりました。

最初に行ったのが、事業部をはじめとする他部門の部長へのヒアリングです。

その中で、驚きだったのは、彼らが「法務の具体的な業務範囲」をまったく理解していないことでした。また、法務の実際の役割と他部門の期待の間に大きなギャップがあることも確認できたといいます。
中には、『リスクがありそうな内容については、数字関連以外は全て法務に相談するよう指示している』と悪びれもせず語る部長もいたそう。

Nさんは、相談へのハードルが低いこと自体は法務機能として好ましいと感じたものの、現実的に仕事が回っていない以上、早急に対策を講じなければと考えたそうです。

 

3.そもそも、部門内で「法務の役割」の共通認識があるか?

つまるところ、「法務の役割」が他部門にあいまいに伝わっていたことが原因と考えたNさんは、まずは法務部門内で、「法務の役割」をすり合わせることにしました。

しかし、メンバーに「法務の役割」を尋ねてみたところ、それぞれの持つ認識がかなりバラバラだったことに気づいたといいます。あるメンバーが「これは法務の仕事」と判断した内容が、別のメンバーから「それは法務の仕事の範囲外」と異論をぶつけられることも少なくなかったそう。

そこで、部門内でディスカッションを進め、すり合わせを試みたそうですが、「法務の役割」と「それ以外」との線引きにはかなり苦労したといいます。結局、部門内でも明確な線引きはできず、暫定的に“一応の定義”を仮置きする形になりました。

Nさんは、『部門内でも線引きがあいまいなのに、内情に疎い他部門に正しい線引きを求めるのは酷な話だったよね』と苦笑いを浮かべていました。

 

4.法務の役割は何か?部門内外ですり合わせの機会を作ろう

こうした状況を踏まえ、Nさんは以下のような取り組みを行ったといいます。

・部門内で仮置きした「法務の役割」を他部門の部長へ周知、グレーな事例なども含め、まずは部長陣の理解を深める
・法務への相談を所定のフォームから行う方式に変更。相談内容をメニューから選んでもらい、メニューのどれにも当てはまらない相談は「その他」を選んでもらう
「その他」として相談された内容が、法務の役割の範囲内のものか否か、部門内ですり合わせの機会を設ける
・部門内でのすり合わせをもとに、必要に応じて「法務の役割」の定義を変更したり、フォームのメニューを改定する
半期に1回、他部門の部長と役割のすり合わせや意見交換、状況共有の場を設ける

こうしたNさんの取り組みが実ったのか、1年ほど経ち、法務部への的外れな依頼は大きく減少。メンバーも徐々に本来の業務に集中できるようになり、部内のストレスも大幅に軽減されたということでした。

この種の話題では、特に事業部に対し大きな不満を抱いている法務パーソンが少なくありません。しかし、メンバーレベルでの主張のぶつけ合いはお互いに、相手の人格や能力に対する攻撃に終始しがちで、本質的な問題解決に繋がらないことが多いのではないでしょうか。

Nさんのお話を聞き、部門のトップが「法務の役割」をしっかりと社内発信し、他部門のトップと丁寧なコミュニケーションを積み重ねることの重要性を感じました。

多くの法務パーソンを悩ませる「それって法務の仕事だっけ?」問題。皆さんの会社がこの問題にどのように取り組んでいるのか、ぜひ聞いてみたいです!

 
 

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株式会社パソナ
法務・ハイクラス専門キャリアアドバイザー
潮崎明憲
大阪市立大学法学部卒、近畿大学法科大学院修了。法務・総務担当として入社した営業研修会社の事業を4年にわたって支えた後、2014年より、米国訴訟における日本企業支援(eディスカバリー)業務に従事。2016年からは、法務専門エージェンシー、株式会社More-Selectionsにてエージェントとして、1000社超の企業の法務職採用に携わる。2021年9月、同社のパソナへの吸収合併を機に、株式会社パソナにて法務・ハイクラス専門のキャリアアドバイザーを務める。
 
 
 

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