【特集】第3回 種類株式の発行

第1 はじめに

 こんにちは。企業法務ナビの企画編集部です。今回も前回に引き続き、特集記事「企業による資金調達」をお送りします。株式会社では株式を発行して資本金として資金調達をすることができます。その際、発行する株式の内容を自由に設計できる種類株式というものがあります。そこで、第3回となる今回は「種類株式の発行」について、見ていきたいと思います。

<参考記事>

種類株式の発行による柔軟な資金調達が可能(資金調達BANK)

第2 種類株式と普通株式発行の違い

 株式会社が株式を発行して資金調達をする際、普通株式と種類株式を発行できます。普通株式とは、会社法が予定している、権利内容に何も限定のない標準的な株式のことをいいます。種類株式とは、一部の株式について、特定の権利を付与したり制限をするなど、異なる内容の株式を発行する場合を言います。

第3 手続の概要

 今まで種類株式を発行したことのない会社が、新しく種類株式を導入する場合の基本的な流れは以下のようになります。基本的に、会社の仕組みを種類株式発行会社に変更する手続、新たに当該種類株式を発行する手続の二段構えとなります。

1 種類株式発行のための定款変更の手続

 新たに種類株式を発行しようとする場合、まず、会社の仕組みをその種類株式発行が可能となる会社に変更しなければなりません。そのためには、定款変更が必要なため、定款変更の手続きが必要となります(株式すべてを変更する場合、会社法107条2項。株式の一部のみを対象に変更する場合、同108条2項)。具体的には、

(1) 取締役会により、株主総会招集、議案(株式の内容)を確定する(取締役会決議は議決に加わることのできる取締役の過半数が出席し、その出席取締役の過半数の賛成が必要です(法369条1項))

(2) 株主総会招集通知発送(株主総会の日時・場所、株主総会の目的となる事項(「種類株式発行ののための定款変更の件」等)株主総会に出席しない株主が書面や電磁的方法によって議決権行使可能なときは、その旨、その他法務省令で定める事項など。
詳しくはこちら→Q0505.株主総会の招集手続きについて教えてください。(中小企業ビジネス支援検索サイトJ-Net21)

(3) 株主総会により、定款変更の特別決議(すべての株主の議決権の過半数を有する株主が総会に出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成する必要)

(4) 定款変更の登記申請(株主総会議事録、株主リスト、所有する株式の種類が変わることにつき会社と当該株主の合意書、その他の株主の同意書などが登記に必要です)   

が必要となります。これらの手続きにより、当該種類株式が発行可能となります。

2 実際に当該種類株式を発行する手続

 株主総会の特別決議によって定款変更をしたら、実際に当該種類株式を新株発行します。手順は基本的に通常の新株発行手続(第二回参照)と同じです。具体的には、

(5) 申込をしようとする者に対する通知・申込予定者の申込(各種必要書類、ひな型はこちらの記事に紹介があります。⇒新株発行(AZX)

(6) 会社側による割当の決定・通知

(7) 申込者による払込(出資の履行)

(8) 新株発行の変更登記(登記申請書、株主総会議事録、株主リスト、株主総会議事録又は株主総会の決議による承認を受けなければならない 場合に該当しないことを証する書面、株式申込証、払込みがあったことを証する書面、資本金の額の計上に関する証明書などが登記の際に必要です。登記申請書のひな型はこちら⇒商業・法人登記の申請書様式(法務局)

となります。

 以上からわかるとおり、「定款変更の登記」と「新株発行の変更登記」のふたつの登記が存在するので注意しなければなりません。

<参考記事>

種類株式発行手続サポート(弁護士法人クレア法律事務所)

種類株式の例(司法書士・行政書士星野リーガルファーム)

種類株式の手続諸注意(弁護士法人 淀屋橋・山上合同)

定款変更の登記手続(すばる会計事務所)

新株発行の登記に必要な書類:株主割当の場合。ページ先「関連する記事」欄に第三者割当の場合等の必要書類が載っています。(増資手続き(第三者割当増資 株主割当増資)-情報局)

第4 各種類株式について

 種類株式には以下の9つがあります。

①配当優先株式・配当劣後株式(会社法108条1項1号)

 通常とは異なる配当金額が支払われる株式のことをいいます。配当優先株式では、利益または利息の配当をほかの種類の株式よりも優先的に受け取ることができます。配当優先株式は大企業や都市銀行が発行し、公的資金の注入など事業再生に伴い利用されることが多い株式です。配当劣後株式は、普通株式よりも配当への参加順位が劣位にある株式をいいます。配当劣後株式は、会社が新株を発行する際に旧株の配当を低下させないために一定期間は新株を劣後株としたり、既存株主の利益を損なわずに資金調達を行わなければならない場合などに発行されます。

②残余財産分配優先株式・劣後株式(会社法108条1項2号)

 通常とは異なる残余財産の分配がなされる株式のことをいいます。残余財産の分配は会社が清算される場合の話なので、事業再生などで使われます。通常、企業再生には多額の追加資金が必要となります。しかし、再建できずに倒産してしまうと残余財産に対して普通株主と平等の取扱となり資金回収が十分に達成できませんので、投資家は出資に応じない可能性があります。そこで、企業再生が失敗した場合にでも資金回収が可能となるよう、普通株主よりも優先的な配当を得られるようにすることで、会社が投資家から資金調達をしやすくするために、残余財産分配優先株式を発行します。一方、残余財産分配劣後株式は、残余財産の分配への参加順位が普通株式より劣位にある株式をいいます。引き受け側にはメリットがなく、通常は会社の清算において経営者や経営陣に対して発行されます。

③議決権制限株式(会社法108条1項3号)

 全部または一部の事項に議決権がない株式のことをいいます。会社の経営に興味がなく、配当収入などの資金的利潤にのみ興味がある投資家に対して発行される株式です。ベンチャー企業などは投資家が経営権を持たないので発行しやすいメリットがあります。一方、経営権を放棄する代わりとして投資家から高配当を要求される可能性があります。

④譲渡制限種類株式(会社法108条1項4号)

 譲渡をするのに会社の承認が必要な株式のことをいいます。中小企業の場合、株主が自由に株式を譲渡できるとなると、会社にとって好ましくない株主が経営権を持ってしまう可能性があります。株式の譲渡に会社の承認を必要とする旨の制限をかけることで、好ましくない株主が経営支配権を獲得することを防ぐことが出来ます。

⑤取得請求権付種類株式(会社法108条1項5号)

 株主が会社に対して取得を請求できる株式をいいます。上述した①配当優先株式と③議決権制限株式を合わせた種類株式を発行し、投資家から資金調達したものの、会社経営がうまくいかずに配当が出せない場合、株主側から会社に対して議決権のある普通株式への転換を請求できる株式です。普通株式への転換を認めることで、投資家はその普通株式を売却して資金の回収を図れます。

⑥取得条項付株式(会社法108条1項6号)

 会社が一定の条件のもと株式を取得できる株式のことをいいます。上述した⑤の場合と同様に、「配当優先株式+議決権制限株式」で資金調達したが、経営がうまくいかずに配当が出せないときに、会社側の判断で普通株式へ転換を図る株式です。例えば、株式の公開準備会社が、非公開時には配当優先株式で資金調達を行い、上場した段階で普通株式に転換するよう設計することが考えられます。公開準備中は譲渡制限株式のため投資家から高配当を求められますので、公開に伴い普通株式にして通常の配当に転換する仕組みにしておく必要があります。

⑦全部取得条項付株式(会社法108条1項7号)

 株主総会の特別決議により、会社が株式の全部を取得できる株式のことをいいます。会社再生のために、既存株主の株式をすべて会社側が取得し、新しい株主に再建を託す場合などに使用されます。

⑧拒否権条項付株式(会社法108条1項8号)

 株主総会や取締役会における決議事項について、その決議のほか、拒否権条項付株式を保有する種類株主による総会決議が必要となります。株主総会や取締役会で可決された事項であっても、種類株主総会で否決することで、決議を無効とすることができます。拒否権条項付株式は、買収防衛策の手法として用いられます。例えば、経営者に友好的な株主にあらかじめ拒否権条項付株式を1株だけ発行しておくことで、敵対的企業買収などから会社を防衛することができます。

⑨取締役・監査役選任権付株式(会社法108条1項9号)

 取締役や監査役を選任・解任できる株式のことをいいます。この株式は、非公開会社の経営者が自らの立場を保持したい場合や、資金提供者が取締役を確保し株主総会だけでなく取締役会にも参画したい場合などに利用されます。

<参考記事>

シリーズ<3>種類株式の活用①(株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人)

シリーズ<4>種類株式の活用⓶(株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人)

第5 おわりに

 現在は、非常に柔軟な株式設計が可能となっており、経営者は、経営の自由度と資金調達の可能性についてバランスを考えることで、様々な株式の発行が可能となりました。経営者にとって重要なことは、自分たちがどのような株式を発行したいのか把握し、投資家の要望がどのようなものであるか理解することで、適切な資金調達を図ることです。今回の記事がその一助となれば幸いです。
 次回は、「社債の発行」についてを特集記事としてお送りしたいと思います。最後に、種類株式発行の手続全般について詳しいページをご紹介しておきます。

<参考記事>

種類株式の概要と発行実務(森田 務 公認会計士事務所:PDFファイル)

(文責:narisawa)

関連業務タグ:
関連法律タグ:,
 
[著者情報] moriyama

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務NAVIまとめ 商事法務 会社法 民法・商法
第91回MSサロン(東京会場)
2017年11月22日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
近内京太
2006年の弁護士登録以来、丸の内総合法律事務所にて、企業の法律顧問業務のほか、M&A、株主総会、危機管理、海外取引、企業関係訴訟、その他の企業法務全般を取り扱う。
2003年京都大学法学部、2016年ワシントン大学ロースクール(LLM)卒。2017年ワシントン州司法試験合格。2011年1月~2012年6月預金保険機構、2016年8月~2017年7月米国シアトルのShatz Law Group勤務。
趣味は、ロングトレイルを中心にランニング全般。
[近時の著作]
「自動運転自動車による交通事故の法的責任~米国における議論を踏まえた日本法の枠組みとその評価[上]・[下]」(国際商事法務44巻10号1449頁・11号1609頁) (2016)
American Bar Association, Section of International Law, Regional and Comparative Law: Asia Pacific, 51 The Year In Review 579 (2017)
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「民法(債権法)改正の概要と約款取引について企業のとるべき対応」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
民法・商法
《緊急セミナー:名古開催》改正債権法に基づく契約書作成実務
2017年11月24日(金)
14:30 ~ 17:30
15,000円(資料代・消費税を含む)
名古屋市中区栄
講師情報
滝川 宜信
(行政書士滝川ビジネス契約コンサルティング代表〔特定行政書士〕・明治学院大学非常勤講師)
◆中央大学大学院法学研究科博士後期課程中退
◆㈱デンソー法務部課長~部長および名古屋大学大学院法学研究科客員教授、明治学院大学法科大学院教授(会社法・商法担当)、株式会社トーカン顧問を歴任。
・この間、中部経済連合会法規委員会専門委員長、経団連経済法規委員会企画部会委員・消費者部会委員、名古屋工業大学・名城大学法学部・中京大学法学部・南山大学法学部・法科大学院の非常勤講師を歴任。
◆日本私法学会会員、金融法学会会員
◆主な著書
『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『実践企業法務入門(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)、『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)
『内部統制対応版企業コンプライアンス態勢のすべて〔新訂版〕』(共著・きんざい)、『リーディング会社法〔第2版〕』(単著・㈱民事法研究会)、『企業法務戦略』(共著・㈱中央経済社)、『社外取締役のすべて』(共著・東洋経済新聞社)など
改正民法施行は、2020年1月または4月と見込まれていますが、今から契約書の準備をすることが必要です。
本セミナーでは、『取引基本契約書の作成と審査の実務』など契約書の審査と実務シリーズ(民事法研究会・刊)の著者が、企業法務の担当者を対象に、直接、わかり易く丁寧に解説します。
滝川宜信・著『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会・刊)に掲載の請負契約書ひな型・委任契約書ひな型に基づき具体的に条文の変更例を示し解説します。
東京開催(10月)の満員の盛況を受け、このたび名古屋開催を決定しました。
※変更例および主旨は、他の契約にも応用が可能です。
※本セミナーは、本年7月19日に、名古屋・愛知県弁護士会ホールで行った内容をバージョンアップし、3時間で解説するものです。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)

あわせて抑えておきたい関連記事

【法務NAVIまとめ】会社の合併手続き等について... はじめに リーマンショック以降、不景気が続く中、大企業が生き残りをかけた経営統合や合理化の手段として、また後継者がいない中小企業の事業継続の方法として、合併という手段がとられることも珍しくなくなりました。 そこで、今回は企業の合併について、主に手続きを整理する観点からまとめました。 合併とは...
【法務NAVIまとめ】労働時間制度の種類と比較... 1 主な労働時間制度の概要  主な労働時間制度としては以下のものが挙げられる。 ①固定時間制度(通常の労働時間制度) ②変形労働時間制度 ③裁量労働制 出典: 労働時間制度について 企業における各労働時間制度の採用状況は出典元のようになっている。出典: 平成27年就労条件総合調査結果の概況...
債権回収会社を利用して債権回収をする方法について... 1 はじめに  今回は、企業が取引先等から自力で債権を回収することが困難な場合に、債権回収会社を使用して債権回収を行う方法について説明します。 2 債権回収会社とは  債権回収会社(サービサー)とは、以下の業務に関して法務大臣の許可を得た民間の債権管理回収専門業者です(債権管理回収業に関す...