企業におけるLGBT対応まとめ

はじめに

 近時、職場におけるLGBT(性同一性障害)を持つ働く人をめぐる問題が多数生じてきています。自動車販売会社に勤めていたLGBTを抱える女性が、2008年11月、同僚に性同一性障害を告白した後、社内で自傷行為をしたこと等を理由に解雇通知を受け、自殺しました(朝日新聞デジタル『「この体が嫌なんよ」命絶ったわが子』2017年2月6日公開、同月13日閲覧)。
 ここでは、LGBTをめぐり企業内に生じる問題につき、法務担当者が知っておくべき情報や対応策をまとめておきます。

1 LGBTの基礎知識

 性同一性障害とは、生物学的性と性の自己意識(性自認)とが一致しないために、自らの生物学的性別に違和感を持ち、自己認識に一致する性を求め、時に生物学的性別に己の姓の自己意識に近づけるために性の適合を望むことさえある状態を指す医学的な疾患です。性同一性障害を有する者は、おおよそ男性三万人に一人、女性十万人に一人の割合で存在するとも言われています(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の提案理由、※PDF直リンクなのでご注意ください)。

2 LGBTをめぐる法制度

 日本では、LGBT差別禁止法は制定されていません。2004年7月に、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律が施行されている。同法は、性同一性障害を定義し、性別変更の審判を受けることにつき規定しているのみです。
 ただ、男女雇用機会均等法の「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置の指針」では、職場におけるセクハラには同性に対するものが含まれると記載されています。
 さらに、厚生労働省は、「事業主が職場における性的言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(セクハラ指針)」に、「被害を受けた者の性的嗜好又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となる」と明記し、2017年1月にこの指針が施行されました
 LGBT施策を取り込む企業の増加により、日本でも今後差別禁止の法制化の動きが広まる可能性があります。

3 LGBTをめぐる裁判例

(1) 利用客との紛争
 男性から女性に戸籍を変更し、性別適合手術を受けた者が、老舗ゴルフ場から入会を拒否されたため、不法行為に基づく損害賠償請求をしました。これに対し、裁判所は、慰謝料として100万円の支払いを命じました(請求一部認容、静岡地判平成26年9月8日、東京高判平成27年7月1日)。
 利用客の身体が女性型になっており、混乱も起きてないことから、ゴルフ場の不利益が抽象的であり、他のゴルフ場会員の意向にも左右されないとしました。

(2) 従業員との紛争
 当該従業員は、性別適合手術や性別の戸籍変更はしていないが、性同一性障害と診断されて精神療法などの治療を受け、戸籍上の名前も女性名に変更していました。女性の容姿で出勤したところ、会社が服務命令に違反するなどを理由に懲戒解雇しました。裁判所は、解雇を無効とする判断をしました。
 その理由として、従業員が性同一性障害により女性の容姿でないと多大な精神的苦痛を被る状態にあった場合には、会社の業務遂行上著しい支障を来すおそれがない限り、女性の容姿による出勤を服務命令で禁止したり、また配置転換できないとしました(東京地決平成14年6月20日)。

(3) 裁判例から読み取れること
 上記裁判例では、利用客・従業員に対しても、会社の業務遂行上具体的な不利益がなければ、性同一性障害を理由として別異取扱いをすることに違法性が認められるとしています。企業内で行動指針が設定されていないとしても、LGBTに対して、無理解な対応をすることで企業に具体的な損失や紛争リスクが生じやすいといえます。

4 会社の対応

法務ニュース・LGBTの社員への対応策と今後の課題法務NAVIまとめ・今後のGID(性同一性障害)の社員への対応、野村亮輔・薬師実芳「基本用語と講習例でわかる!LGBT基礎知識」ビジネス法務2017年3月号73頁)

(1) 社内講習を通じた啓蒙活動
 LGBTに関するテーマを研修で取り上げるだけではなく、具体例を通じて従業員に考えてもらうという導入の仕方もありうるでしょう(たとえば、性同一性障害の経産省職員が女性トイレ使用を禁止された事例等)。
 LGBTの人に社内講習で話してもらいたい場合は、LGBTの支援団体に依頼する方法もありうるでしょう。

(2) 社内通報窓口担当者を中心とした勉強会
 相談担当者のLGBTに対する理解が不十分であると、相談者に対して誤った対応をしてしまい、二次被害が生じる可能性がある。
 社内通報窓口担当者(外部の法律事務所を窓口にしている場合には、担当弁護士も含む)で勉強会を開き、相談担当者が正しい理解を身につけることが必要です。

(3) 行動指針などの設定
 職場での行動指針やダイバーシティーポリシーなどで、性別に合わせ性自認や性的嗜好についても差別しない方針を明確化することが必要です。この措置は、福利厚生上の措置と比べても、比較的とりやすいといえます。男女雇用機会均等法に基づくセクハラ指針を基にして、同性に対してもセクハラが成立するといった形から、規定していく事もできます。

(4) 福利厚生上の措置
 ハードルが高いですが、家族に対する福利厚生に同棲パートナーを含む措置や、結婚祝い金を同棲パートナーに支給をする措置をする企業が増えています。日本IBMは、2016年1月から、同性パートナー登録制度を始め、男女間のカップルと同じようにLGBTパートナーに対しても、特別有給休暇、休職、慶弔見舞い、赴任旅費などを適用しています

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[著者情報] mir21

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弁護士 濵田雄久
1995(平成7)年4月 大阪弁護士会に弁護士登録、なにわ共同法律事務所入所
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2005(平成17)年8月 シンガポール共和国 Rajah & Tann 法律事務所において研修開始
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安西法律事務所所属。第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長。慶応義塾大学経済学部卒。使用者側の労働紛争を専門とする。

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