最高裁が初判断、放送法の合憲性について
2017/12/08

はじめに
NHKの受信契約を巡る訴訟の上告審で最高裁は6日、テレビを設置する人にNHKと受信契約を義務付けた放送法の規定は合憲であるとの判断を示しました。近年多くの訴訟に発展している受信料契約。今回はNHKと放送法を巡る問題点について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、NHKは2011年頃からテレビを設置していながら受信料契約を行っていない個人等に対し、契約締結と受信料支払いを求め訴訟の提起を始めました。それ以降、去年の時点で提訴件数は200件に上り、そのうちの7割はテレビの設置者が支払いに応じ、32件はNHK側が勝訴していました。本件訴訟はそのうちの一つで、都内の男性に対しNHKが提訴した事案です。男性側はテレビを所持するだけで契約の締結を強制する放送法の規定は憲法違反であるなどと反論していました。一審二審はNHK側の主張を認め、放送法の規定は合憲としていました。
放送法の規定
放送法64条1項では「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」としています。ここに言う「受信設備」について明確な基準はありませんが、NHKのHP等によりますと、テレビの他にインターネットと接続されているPCやワンセグが視聴できる携帯、ケーブルテレビも含まれるとしています。またアンテナ等に接続せずビデオやDVD、ゲーム等のみに使用するテレビについては、以前は対象外としていましたが、現在HP等にはその旨の記載は削除されております。
放送法による契約義務の問題点
(1)契約自由の原則
本件での被告男性側も主張しているように、受信設備を所持するだけでNHKと受信契約が強制されることは契約自由の原則に反し、憲法に違反するとの指摘があります。契約自由の原則とは契約を締結するか否かは国や裁判所などの国家権力等が介入せず、当事者の意思に委ねられるべきとする原則です。個人の尊厳を定める憲法13条と財産権を定める29条を根拠としていると言われております。放送法の規定はこの原則に反し違憲とならないかが問題となります。
(2)受信料負担者
放送法では受信装置を設置した者は受信契約を締結し、受信料を支払うことを義務付けていますが、建物等の施設の所有者とテレビを実際に視聴する者が異なる場合にどちらが受信料を負担すべきかという問題もあります。例えばホテルに設置されているテレビやマンスリーマンションなどあらかじめテレビ等が設置されている物件が挙げられます。これらは実際に訴訟に発展しておりNHK側の主張や判決を見ても明確な基準は見いだせないのが現状です。NHK側はホテルについてはホテル側に負担義務があるとして提訴、下級審判決でも約19億円の支払いを認めています(東京地裁平成29年3月29日)。一方マンションについてはNHKは入居者に支払い義務があるとして提訴、東京高裁は一審を覆し入居者に支払い義務を認めました(東京高判平成29年5月31日)。
(3)契約成立時期と時効の起算点
本件で被告男性側が主張しているその他の点として契約成立時期と時効の起算点の問題があります。仮にテレビ等の設置により契約が強制されるとして、契約が成立するのはテレビ設置時なのか、NHKが契約を求めた時なのかといった点と、長年テレビを設置していながら受信料を支払って来なかった視聴者の支払い義務の消滅時効の起算点はいつなのかという点が問題となっております。
コメント
本件で最高裁の15人の裁判官のうち14人が、放送は国民の知る権利を充足し、公共放送の財源を国民が公平に分担することは合理的なものであり憲法の保障する財産権などを侵害するものではないとして合憲としました。また契約成立時についてはNHK側はNHKが契約を求めた時点で自動的に成立すると主張していたのに対し最高裁は契約承諾を命じる判決が出た時点としました。また受信料はテレビ設置時に遡って徴収することができるとし、時効の起算点については契約成立時からとしました。仮に50年前から設置していた場合、50年分が時効消滅せずに徴収されるということになります。放送法が仮に法令違憲で無効となればNHKの根幹を揺るがすことから合憲判決がでることはある程度予想できていたと言えますが、本判決が多くの受信料訴訟に影響を与えることになるものと考えられます。しかし受信料の負担者の問題など依然として判断されていない点もあり、今後の法改正や訴訟の行方を注視していくことが重要と言えるでしょう。
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