消費者団体が東京医大を提訴、消費者裁判手続特例法について

はじめに

 医学部入試で不正があった東京医大に対し消費者団体が17日、受験料などの返還義務の確認を求め東京地裁に提訴していたことがわかりました。消費者裁判手続特例法が施行されて以来初の提訴となります。今回は消費者団体による訴訟の概要を見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、東京医大は2017年、2018年度の医学部入試で女子や多浪の受験生が不利になる点数調整を行なっていたことが判明しました。NPO法人「消費者機構日本」(東京)は公正に合否判定を行わなかったことは一種の債務不履行に該当するとして、消費者裁判手続特例法に基づき東京地裁に提訴したとのことです。対象となる受験生は女性だけで2800人にのぼり、受験料4万円~6万円に加えて旅費や宿泊費の返還義務の確認を求めていくとしています。

消費者裁判手続特例法とは

 多数の消費者に被害が出る消費者事件が生じても、1件1件の被害額が小さい場合には個々の被害者は弁護士費用や手間を嫌い賠償請求を断念することが多々あります。また個々の消費者と事業者では情報の量や質、交渉力などに格差があります。そこで適格消費者団体が全被害者の代わりに提訴し、勝訴が確定した場合には簡易な手続で個々の被害者が救済を受けられるという制度が平成25年4月に成立しました。以下手続の流れを具体的に見ていきます。

手続の流れ

(1)共通義務確認訴訟
 手続の一段階目としてはまず適格消費者団体により共通義務確認の訴えが提起されます。共通義務とは事業者が相当多数の消費者に対して負うべき金銭の支払い義務をいいます。提訴先は原則的には被告事業者の本店、営業所、事務所の所在地の管轄裁判所となりますが、不当勧誘が行われた地や消費者の所在地も管轄地となります(6条)。裁判所で審理が行われ、通常裁判と同様に判決が出されます。不服があれば上訴することができます。判決の効力は両当事者である事業者と消費者団体だけでなく、被害者とされる消費者にも及びます。

(2)消費者の債権確定手続
 上記確認訴訟で事業者の共通義務確認の判決が確定したら、二段階目として個別の消費者への支払額の確定手続に入ります。まず消費者団体が簡易確定手続開始の申立を行い、消費者に通知・広告がなされます(25条~29条)。各消費者から団体に授権がなされ裁判所に届け出されます。そこで事業者の認否を経て裁判所が簡易確定決定をします。これに異議がある場合は訴訟に移行することになります。事業者は簡易確定に基づいて個々の消費者に弁済していきます。なお適格消費者団体は第一弾回の訴訟に先立ち、全被害消費者のために仮差押を行うことができます(56条)。これにより事業者が財産の隠匿や散逸を行うことを防ぐことができます。

対象となる請求

 本制度の対象となるのは消費者契約に基づく金銭の支払い請求です(3条1項)。具体的には①契約上の債務の履行請求(1号)、②不当利得返還請求(2号)、③債務不履行による賠償請求(3号)、④瑕疵担保責任による賠償請求(4号)、⑤不法行為による賠償請求(5号)です。これに対して請求の範囲外となるのは、消費者契約の目的となるもの以外の拡大損害、目的物の提供があれば得られていた逸失利益、人身損害、慰謝料となります(2項1号~6号)。

コメント

 本件で問題となっている医学部の受験料は1人あたり4万~6万円前後と、1人1人が個人で訴訟をしてまで請求するには少額と言えます。しかし対象となる者は最低でも2800人以上と総額で言えば決して小さくないものです。本件は本来法が想定している事業者による消費者問題とは性質が異なりますが、消費者団体による初の確認訴訟として注目されております。この共通義務確認訴訟制度はアメリカのクラスアクション制度に近いもので、多くの被害者のために代表して訴訟追行ができるというものです。しかしアメリカのものに比べその対象は消費者契約上の金銭債権のみと、かなり限定されております。またこの制度は附則で施行3年で制度の見直しがされる予定です。今後このようなクラスアクションに類似した訴訟制度は範囲を拡大していくことも予想されます。法制度の把握と法改正の流れを注視していくことが重要と言えるでしょう。

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セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
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