東洋製罐HDとホッカンHDの統合延期、完全子会社化について

法務担当者が“法務”を語る新しいWEBメディアはコチラ

はじめに

昨年4月に経営統合の方針を発表していた東洋製罐HDとホッカンHDは先月20日、公正取引委員会の企業結合審査が継続していることを理由に今年4月に予定していた株式交換を延期すると発表しました。今回は完全子会社化による経営統合の手法について見ていきます。

事案の概要

国内包装容器メーカーの老舗である東洋製罐HDとホッカンHDは昨年4月、株式交換による経営統合を行い、東洋製罐HDがホッカンHDを完全子会社化する旨の基本合意を締結したことを発表しました。飲料メーカーの業界再編やペットボトルの内製化、海外製品の増加等による経営環境の変化に対し両社のリソースを集約し対応することを目的としています。両社は統合推進委員会を設置し予定では昨年末に株式交換契約を締結し、今年2月に両社臨時株主総会によって承認決議を得ることとなっておりました。しかし公正取引委員会による事前の企業結合審査が現在も継続しており株式交換手続の延期を発表しました。

完全子会社化とは

ある株式会社が他の株式会社の株式の全部を保有することを完全子会社化と言います。吸収合併や新設合併同様経営統合の一形態です。完全子会社化することによってグループ企業として互いのリソースを活用し一体的な経営を行うことができます。親会社側から見ても少数株主が存在しないことから子会社のスムーズな運用ができます。子会社としても親会社の信用や評価を利用することができます。一方で完全子会社としては経営を100%親会社に握られることになり独自の経営できなくなり、また証券取引所から上場廃止になります。このような完全子会社化ですが、近年この方法による経営統合が増加しております。以下その手法を見ていきます。

完全子会社化の手法

(1)全部取得条項付種類株式による方法
完全子会社化したい会社の株式を100%取得するためには個別に株主と取引したり公開買付けを行うことも考えられます。しかしそれでは相当に時間がかかり、また応じてくれない株主も出てくることでしょう。そこで会社法ではいくつか強制的に株式を取得する方法が規定されております。その一つとして全部取得条項付種類株式があります(108条1項7号)。まず子会社側の定款変更を行い種類株式発行の旨を定めます。そして発行済株式の全てを全部取得条項付種類株式に変更し、最後に親会社の株式を対価として取得します。無償で取得し親会社に譲渡することもできます。これら一連の行為は全て株主総会の特別決議(309条2項)によって行うことができます。対価については分配可能額の範囲内でなくてはなりません(461条1項4号)。

(2)株式交換による方法
株式交換とは子会社側の株式を強制的に親会社に取得させる一種の会社間契約です(2条31号)。全部取得条項付種類株式による方法よりも簡便な手続で行うことができます。まず両社で株式交換契約を締結します(768条)。そして事前開示を行った上で株主総会の特別決議による承認を得ることになります(783条1項、795条1項、309条2項12号)。これにより子会社側の全株式は親会社に強制的に移転します。子会社株主への対価は親会社株式や金銭その他でよく、取得条項付種類株式の場合のような財源規制もありません。反面、反対株主保護のため株式買取請求に応じる必要もあります(785条、797条)。また会社債権者への通知・公告が必要となります(789条2項、799条2項)。

(3)株式移転による方法
株式移転とは株式会社の発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいいます(2条32号)。この制度も株式交換と同様に煩雑な手続を必要とせずに完全親子会社関係を創設することを目的としています。株式交換は既存の会社が親会社となるのに対し、株式移転は親会社を新たに設立する点に違いがあります。親会社がまだ存在していないことから契約ではなく株式移転計画を策定します(773条)。その他は株式交換と同様に事前開示を経て承認決議を得ることになります(804条1項)。効力の発生は親会社の設立登記時となります(925条)。反対株主の保護(806条1項)や債権者への通知も同様です(810条2項)。

(4)特別支配株主の株式売渡請求による方法
子会社の株式を90%以上保有する親会社等は特別支配株主と言い、他の株主に全員に株式を売り渡すよう請求することができます(179条1項)。これは平成26年会社法改正で新設された制度で、少数株主からの株式取得(キャッシュアウト)を簡易迅速に行い柔軟な経営の実現を図ることを目的としています。特別支配株主は対象となる子会社に対し売渡請求の承認申立を行います(179条の3第1項)。そしてその旨株主に通知がなされると個別に売渡請求したことなり、特別支配株主は株式を取得することになります(179条の9)。この制度では他の方法と違い株主総会が関与しません。それ故に別途株主を保護するために差止請求(179条の7)や価格決定申立(179条の8)、取得無効の訴え(846条の2~9)が用意されております。

コメント

東洋製罐HDとホッカンHDは100年以上続く老舗であり過去にも統合がなされておりました。戦後のアメリカによる政策によって業界の過度な集中を防止するために分離がなされるほどのシェアを有していることから公取委による審査も難航しているものと思われます。審査が終了し次第具体的に株式交換契約の締結、承認決議、債権者と少数株主保護手続を経て完全親子会社となることになります。上記のように完全親子会社となる方法は各種あり、それぞれに必要な手続が異なります。迅速に経営統合したいが対価として支払う金銭をすぐには用意できない場合には株式交換による方法が適当と言えます。すでに9割以上取得しており残りの株主にはある程度支払っても迅速に完全子会社化したい場合は売渡請求によることが適当でしょう。市場におけるシェアによっては公取委による事前審査を要することもありますが、経営統合の方法は上記以外にも数多く存在します。市場や経営環境、財政状況、株主状況等に合わせて最も適当な手法を選択していくことが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年1ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

会社法
《東京会場》2020年の注目すべき法改正と法務トピック
2020年02月25日(火)
13:30 ~ 16:30
22,000円(税込)
東京都港区
講師情報
淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
2020年は改正民法、改正独禁法、働き方改革関連法など重要な法改正が施行され、個人情報保護法などの改正も予定されています。

本セミナーは、これらの法改正の概要とそれがビジネスにどのような影響を与えるかを具体的に解説します。

重要な法改正の動きを俯瞰的に把握するとともに、各法改正が実務に与えるインパクトを理解することにより、社内においてメリハリがついた対応策を検討したり、社内研修を行ったりするための参考にしていただきたいと思います。

また、今年特に話題になりそうな法務トピックを取り上げ、その最新の状況をご紹介し、自社の法務部門の今後を考えるきっかけとしてもご活用いただける内容になっています。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ