非上場会社で届出不要へ、譲渡制限付株式報酬とは
2025/10/08 商事法務, 総会対応, 会社法

はじめに
金融庁および金融審議会が現在、非上場企業が株式報酬を付与しやすくなるよう有価証券届出書の提出を不要とする法規制の改正を目指していることがわかりました。スタートアップ企業の育成支援を目的としているとのことです。
今回は株式報酬の一種である譲渡制限付株式報酬について見ていきます。
改正の背景
日経新聞の報道によりますと、政府は2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、企業価値10億ドル以上の未上場企業(ユニコーン)を100社創出する目標を掲げているとされます。
それを実現するためには報酬体系の多様化が不可欠とみており、ストックオプションに加え、非上場会社での譲渡制限付株式報酬の付与を容易にするため有価証券届出書の提出義務を免除する方向で検討されているとのことです。
なお、上場会社は有価証券報告書を毎年提出していることから届出書の提出は元来不要となっています。来年年明け以降に関連法規制の改正を目指すとされています。
譲渡制限付株式報酬とは
譲渡制限付株式(RS)とは、一定期間の譲渡(売却)が制限された株式を言い、株式報酬スキームの一種とされています。
ストックオプションと同様に業績の向上に伴ってその価値も上がるというインセンティブ報酬の一種と言えます。また、一定期間譲渡制限が付与されていることから、会社にとっても優秀な人材を一定期間つなぎ止める効果が期待できるというメリットがあります。
近年多くの企業で採用されており、現在の株式報酬の主流となっていると言われています。野村證券の調べでは、株式報酬を導入している上場企業は全上場企業の約6割に上り、ここ10年でおよそ3倍になったとされています。
その中でも譲渡制限付株式報酬を導入しているのは約1690社となっており、ストックオプションを大きく上回っているのが現状と言えます。
譲渡制限付株式報酬のスキーム
それでは、譲渡制限付株式報酬はどのような仕組みとなっているのでしょうか。
実際の付与の流れとしては(1)金銭報酬債権の支給、(2)払込、(3)株式交付、(4)譲渡制限解除となっています。まず、発行会社が付与の対象となっている役員等に金銭報酬債権を支給します。役員等はその金銭報酬債権を会社に現物出資として払い込みます。
これに対し会社は役員等に株式を割り当てます。その際に株式に譲渡制限を付与します。この間に実際の金銭の移動は伴いません。
その後発行会社は一定期間経過後に譲渡制限を解除します。これによって役員等は自由に譲渡することができるようになります。
なお、勤務継続条件などで譲渡制限が解除されなかった株式は会社が無償で回収することとなります。
ストックオプションとは
似たような株式報酬としてストックオプションというものが存在します。ストックオプションは会社の役員や従業員に与えられる報酬の一種で、将来一定の価格で自社株を購入することができる権利を言います。
これは1997年の商法改正によって導入が可能となった制度で、これが与えられた役員や従業員は株価が上昇したタイミングで行使し、権利行使価格と上昇後の株価の差額を利益として得られるというものです。
業績の向上がそのまま利益につながるインセンティブ報酬となっています。権利を行使することで会社の株式を取得することができる点で新株予約権と似ていますが、新株予約権は対象が社内に限らず一般投資家も取得できるようになっています。
ストックオプションもスタートアップ企業やベンチャー企業などで利用されてきており、優秀な人材確保が期待できます。
コメント
近年の株式報酬としてはストックオプションよりも譲渡制限付株式が圧倒的に多く導入されてきています。ストックオプションは将来株価が上がった時点で行使することによって自社株を取得できます。
一方で、譲渡制限付株式は付与された時点ですでに株主となっており、議決権の行使や剰余金配当を受けることもできます。
また、2016年の税制改正によって譲渡制限付株式報酬は付与時ではなく譲渡制限が解除された時点で収入が発生し、会社は損金算入が認められるようになったことも導入が進んだ理由と言われています。
現在非上場会社に義務付けられている有価証券届出書の提出義務が廃止となれば、スタートアップ企業の人材確保を推進するものと考えられます。
それぞれの制度のメリット・デメリットを把握しつつ、自社に適切な報酬体系を選択していくことが重要と言えるでしょう。
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