6月の定時総会で前年比2倍に、株主提案について
2025/07/16   商事法務, 総会対応, 会社法

はじめに


三井住友信託銀の調べによると、今年の定時株主総会での株主提案が104件と前年比で倍増していることがわかりました。
一方で、会社側からの提案については6社で26件が否決されているとのことです。

今回は会社法の株主提案について見直していきます。

 

事案の概要


三井住友信託銀の調べでは、今年の定時株主総会で株主提案を受けた114社のうち、提案者がアクティビストら機関投資家であった企業は51社で過去最高を記録したとされます。
また、可決された株主提案は7社で14議案を数え、昨年の2社2議案を大きく上回ったとのことです。

これに対し、会社側からの提案は6社で26件が否決されているとされ、太陽ホールディングスでは業績面は好調であったにもかかわらず、代表取締役の再任案が否決される異例の事態となっているとされています。

また、同社では米投資ファンドや日本作業推進機構から非公開化の提案などもされていたとのことです。

 

株主提案とは


近年、いわゆる「物言う株主」とされるアクティビストの活動が活発化しており、株式会社が株主から株主提案や株主総会招集請求を受ける事例が急増しています。

株主提案とは、一定の株式数を保有する株主が株主総会において議題または議案を提案することができる権利をいいます(会社法304条、305条)。
ここで議題とは、たとえば「定款変更の件」や「取締役選任の件」といった株主総会の会議の題材そのものを指します。
そして、議案とはそれら議題について具体的な決議内容を言います。たとえば取締役選任については A 氏を選任するといったものです。

これらの議題や議案は通常は会社側、取締役などが提案しますが、株主にもイニシアチブを与え株主総会を活性化させることが趣旨と言えます。

 

株主提案の要件


会社法では議題提案と議案の要領通知請求については取締役会設置会社では総株主の議決権の1%か300個(公開会社では6ヶ月前から引き続き)を保有していることが求められます(303条)。

議案の要領通知請求とは、提案しようとしている議案につきその要領を他の株主に通知するよう求めることです。
これらは取締役会設置会社では株主総会の8週間前までに行う必要があります。また、取締役会非設置会社でも要領通知請求については8週間前までに行う必要があります。

株主総会において議案を提案するだけなら持ち株要件はなく、誰でも行うことが可能です。株主総会当日に取締役選任について、B 氏を提案するといった具合です。

なお、取締役会非設置会社の場合は当日の議案提案だけでなく、議題提案や議案の要領通知請求についても持ち株要件はありません。

 

株主提案に対する制限


株主提案も上記の要件を満たしていれば無制限に認められるわけではなく、一定の制限を受けることとなります。

まず、提案した本人が議決権を行使できない事項は提案できません(303条1項カッコ書き)。
そして、1人が提案する議案の数が10を超える場合、会社は超える部分については拒絶することができます(305条4項、5項)。

実質的に同一の議案につき株主総会で総株主の議決権の10%以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合も提案できません(同6項)。
それ以外にも法令や定款に違反する内容である場合や、提案自体が権利濫用に該当するといった場合も提案が制限されることとなります。

 

コメント


近年、海外の投資ファンドなど、いわゆる物言う株主であるアクティビストの活動が活発になってきていると言われています。
それに伴い、株主提案の数も数年で急激に増加しており、今年は7つの会社で14の議案が可決されています。

それと同時に、本来否決されることがほぼなかった会社提案の議案が否決されるという事態がしばしば見られるようになってきました。

株主による積極的な株主総会への参画とも言えますが、運営する会社側には負担の増加にもつながると言えます。
上でも触れたように、株主提案にはそれぞれ要件や拒絶事由も規定されており、適切な対応が求められます。

株主提案を無視して会社側提案の議題・議案だけを可決した場合、一般論としては株主総会決議取消の訴えの対象にはなりませんが、不法行為として損害賠償を認めた例があります(東京地裁平成26年9月30日)。

また、会社法では100万円以下の過料の制裁も規定されています(976条18号の2)。

今一度、会社法の規制内容を見直して社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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