山梨、同僚女性遺体遺棄の男が送検/社内ストーカーへの対応策
2024/05/10   労務法務, 危機管理, 労働法全般

はじめに


山梨県警は、5月3日、同僚女性の遺体を河川敷に遺棄した疑いで逮捕した男を送検しました。
男は被害女性に好意を寄せていたものの、思いが実らなかったことで犯行に及んだとされており、女性は事件発生前、職場に容疑者の付きまとい行為について相談していたということです。

 

退勤後に被害女性を待ち伏せ


5月1日の夜、山梨県身延町の河川敷で、甲府市の団体職員の女性(40歳)が寝袋に入った状態で、遺体で発見されました。その後、職場の同僚の男が警察に事情を聞かれ、遺棄に関わったことを認めたことから、警察は男を逮捕しました。

報道などによりますと、遺体が発見される前日の4月30日、男は女性に対して「2人で話をしたい」と声をかけたものの拒まれたため、殴って車に乗せたということです。
防犯カメラには男が一度退勤した後に、再び会社に戻り、仕事を終えた女性を出口で待ち伏せる様子が映っていたといいます。

男は、「何度か殴っているうちに動かなくなり、殺してしまったと思い遺棄した」と供述しているということです。
また、女性に対して好意を寄せていたものの、「実らず事件を起こした」とも話しているといいます。

 

「社内ストーカー」の定義


この事件の発生前、男のつきまとい行為などについて女性が職場に相談していたことが分かっています。ストーカー規制法では、繰り返し行われる「つきまとい等」をストーカー行為として、処罰の対象としています。

ストーカー規制法第2条では、「つきまとい等」を、恋愛感情等またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、相手またはその近しい者に対し、以下のような行為を行うことと定義しています。

・つきまとい、待ち伏せ、進路立ちふさがり、生活圏等の見張り、住居等への押し掛け、住居等付近のうろつき
・行動を監視している旨の告知(または匂わせ)
・面会・交際等の要求
・著しく粗野または乱暴な言動
・無言電話、拒絶された中での繰り返しの連絡等
・汚物等の送付等
・名誉を害する事項の告知等
・性的羞恥心を害する事項の告知またはこれらに係る記録媒体などの送付等

これらの行為が社内で行われた場合も例外ではなく、ストーカー規制法上の「つきまとい等」に該当することになります。

【社内ストーカーの例】
①プライベートな予定を把握している
業務上必要な連絡だけでなく、プライベートな予定や事情などを仕事の時間内外に社用メールやLINEなどでメッセージを送ったり、他の同僚との会話を盗み聞きして予定などを把握していると社内ストーカーに該当する可能性があります。最近では個人のSNSアカウントをフォローして休日の過ごし方などを見ているケースなどもあります。

②待ち伏せをする
今回の事件でも起こったように、就業前後や通勤途中で待ち伏せをする行為も社内ストーカーに該当する可能性があります。退勤時に待ち伏せて、被害者の自宅を特定しようとするケースもあるといいます。

 

社内ストーカーへの対応策


会社は従業員に対し、職場環境配慮義務(労働契約法第5条)を負っています。そのため、社内でストーカー行為が確認された場合、ストーカー社員に適切に対応しなければなりません。具体的には以下の手順を踏むことになります。

(1)事実関係のヒアリング
社内ストーカーとみられる行為があった場合、加害者とされる社員や被害者社員、その他周りの社員などから事実関係をヒアリングする必要があります。その際、具体的にどのような行為がどの程度の期間行われていたのか、他に被害者はいないか、加害者に恋愛感情等はあるのかなどを丁寧に聞き取らなければなりません。
(恋愛感情等がない場合には、迷惑行為防止条例違反などに該当しないか検討します。)

(2)対応策の検討
社内ストーカーを防止するうえで、被害者と加害者の接触機会を減らすことが重要です。部署異動や別支店への配置転換、業務分担の見直しなどの検討が必要となります。
また、ストーカー行為の悪質性や本人の反省の度合いなどによっては、警察への相談も必要なケースがあります。

(3)処分の検討
加害者社員に対しては、就業規則その他の社内規程に則り、処分を行うケースもあります。悪質な場合には、懲戒処分や解雇なども選択肢として出てきますが、労働契約法上、懲戒処分や解雇には厳格なルールが定められており、それらを踏まえたうえで、適切な手続きを踏んで慎重に処分を行わなければなりません。

性急な判断で処分を下した場合、不当解雇として労務紛争に繋がるおそれもあるため、判断が難しい場合には、弁護士に相談することも検討した方がよいでしょう。

 

コメント


痛ましい結果となった、今回の事件。どの職場においても他人事ではありません。「社員間のプライベートな問題には踏み込みづらい」と、距離を置いた対応を行ってしまうと、事態の悪化や被害者の離職などに繋がるおそれもあります。

社内ストーカーとして処分の対象となる行為の明確化と周知、相談窓口の設置、相談に迅速に対応する運用の確立など、社内ストーカー被害拡大防止に向けた取り組みが求められます。

 

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