テレワーク中の長時間労働による適応障害に労災認定 ー横浜北労基署
2024/04/09 労務法務, 労働法全般
テレワークによる疾病発症に労災認定
テレワーク中の長時間の時間外労働が原因で、適応障害を発症した女性が横浜北労働基準監督署より「労災認定」されたことがわかりました。女性の代理人弁護士によると、テレワークによる労災認定は異例とのことです。
労災認定の概要
今回、労災認定を受けたのは、補聴器メーカーに勤務する50代の女性です。女性は会社に正社員として採用され、主に経理や総務などを担当していました。新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、2020年からテレワークで仕事をするようになったといいます。
しかし、2021年末ごろに新たな精算システムが導入されたことを契機に、仕事量が増え残業時間が増加しました。また、会社ではみなし時間労働制(実労働時間に関わらず、事前に決められた労働時間を働いたとみなす制度)を採用していましたが、休日や業務時間外に、上司からメールやチャットで頻繁に業務指示を受けており、本来の就業日や就業時間を超えて働かざるをえない状況にあったといいます。その結果、女性は2022年3月に適応障害を発症。発症直前2ヶ月の残業時間は、単月の過労死ラインである月100時間を超えていたとのことです。
横浜北労働基準監督署は、女性が適応障害と診断されたことについて、業務で強い心理的負荷がかかり発症したと判断。労災認定しました。
さらに、会社がテレワーク中の社員に対し「みなし労働時間制」を導入しながら、上司が頻繁に指示を行っていた点について、是正を求めています。
会社側は、横浜北労働基準監督署からの指摘を受け、在宅勤務時に長時間労働が起きないよう上司への申請を義務づけたとしています。
みなし労働時間制とは
みなし労働時間制とは、実労働時間の把握が難しい業務に適用される労働時間制度で、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、社員の労働時間の算定義務を免除し、その事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度です。
例えばテレワークや外回りの営業といった、会社のオフィスの外で働く社員の労働時間を会社が把握するのが難しい職種や働き方に対し導入されています。
この制度下では、例えば、所定労働時間8時間のところ、7時間のみ働いた労働者に対しても、8時間分働いたとみなして給与などが支払われます。その反面、労働者が1時間残業し、9時間働いた場合でも残業代は出ないことになります。
みなし労働時間制の導入は、特にテレワークなどにおいて、社員の働きやすさの向上に繋がる一方、運用上、気をつけなければならないポイントがいくつかあります。
テレワークでの制度活用で注意点
みなし労働時間制度には要件があり、テレワークを行う社員に対し導入するためには、以下の①と②を満たす必要があります。(労働基準法第38条の2)
① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
→具体的には、以下のような場合に、①を満たすとされます。
・勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合
・勤務時間中は通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行われるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合
・会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行うか否か、又は折り返しのタイミングについて労働者が判断することができる場合
② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
→具体的には、以下のような場合に、②を満たすとされます。
・使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、一日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合
コメント
今回の労災認定を受け、女性の代理人弁護士は「テレワークの悪用が過密な労働につながる」と、その運用の危険性を指摘しています。
会社による悪用がない場合でも、テレワークは、オンオフの境目の不明瞭さや、その後ろめたさから来る“隠れ残業(超過勤務の未申告)”の横行、非対面ゆえのコミュニケーションコストの増加などが原因で、長時間労働につながりやすい側面があるといわれています。
テレワーク中の社員の声に耳を傾けつつ、メール・チャットの送信時間ルールの設定、システムへのアクセス制限など、長時間労働を抑制するための仕組みづくりに取り組むことが重要になります。
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