労基署がペットフード包装加工会社を送検、労災隠しについて
2024/02/08   労務法務, 訴訟対応, 労働法全般

はじめに

 西宮労基署が6日、労災隠しの疑いで輸入ペットフード包装加工会社「ウィルコム」(西宮市)と60代の男性部長を書類送検していたことがわかりました。従業員の骨折を遅滞なく報告しなかったとのことです。今回は労災隠しについて見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、2023年1月31日、同社の倉庫で男性従業員が約2.2メートルの高さから転落して右腕を骨折し、4日以上休業したにもかかわらず、遅滞なく報告書を提出しなかったとされます。男性従業員は当時脚立を使用し、積み上げられたペットフードの最上部からサンプルを取って降りようとし転落、所属長である部長に伝えたものの部長は報告書を提出しなかったとのことです。3月中旬になり事実が発覚し、西宮労基署は同社と部長を労働安全衛生法違反の容疑で神戸地検に書類送検しました。認否は明らかにされていないとのことです。

 

労災隠しとは

 労働安全衛生規則97条1項によりますと、「事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその付属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない」としております。労災、就業中の負傷や中毒、事業場等での負傷、付属寄宿舎内での負傷等で死亡や休業したら遅滞なく報告が必要ということです。この報告をせず、または虚偽の報告をした場合は罰則として50万円以下の罰金が科される場合があります(労働安全衛生法121条4号)。以下具体的に報告義務について見ていきます。

 

労働者死傷病報告

 上記のように労働者に労災等が発生した場合、事業者は所轄労基署長に対し労働者死傷病報告の提出をする義務が発生します。この報告は労働者の休業日数によって使用する様式と提出期限が異なります。死亡または休業4日以上の場合は様式第23号を使用し、期限は災害発生後遅滞なく(1月以内)となります。これに対し休業が1日~3日の場合は様式第24号を使用し期限は各四半期(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月)ごとにその発生分を当該四半期の最後の月の翌月末までに提出することとなります。提出方法は労基署窓口に紙面で直接持参する場合と、電子申請の方法による場合があります。これらの様式第23号と24号の報告書はいずれも厚労省のHPからダウンロードできます。

 

労災の要件

 ここで軽く労災認定の要件をおさらいしておきます。労災と認められるためには一般に(1)業務遂行性と(2)業務起因制が必要とされております。業務遂行性とは労働者が事業主の支配下にある状態とされ、業務起因性は業務と傷病との間に相当因果関係がある状態とされております。事業場での作業中の傷病は大半がこれに該当しますが、私的行為や業務逸脱行為、天災など業務と関係がない場合は業務災害と認定されない場合があります。これに対し休憩中は自由行動が許されていても事業場施設内にいるかぎり事業主の管理下にあり、業務遂行性が認められやすくなります。またトイレや水分補給中の場合も業務に付随するものとして労災が認められる可能性が高いと言えます。

 

コメント

 本件でウィルコムの男性従業員は倉庫での作業中に右腕を骨折し4日以上休業したとされます。この場合労働安全衛生法および労働安全衛生規則では様式第23号による死傷病報告を遅滞なく労基署に提出する必要があり、発生から1ヶ月以上経過してから発覚したとのことです。これにより労基署から書類送検されております。以上のように事業場等で労災や死傷病等が発生した場合はその要した休業日数に応じて労基署への報告を要します。これは従業員の数や会社の規模、正規非正規などに関わらず義務付けられます。一般に労災隠しが行われる要因は企業イメージの低下や取引先との取引を失うことを恐れたり、労災保険料の増加や労基署による査察を嫌うことなどが挙げられております。しかし従業員20名以下の企業では労災の有無で保険料は変わらず、また労災よりも労災隠しが後で発覚するほうがイメージの低下は深刻と言えます。労災の際には迷わず報告し、手続を進めることが重要と言えるでしょう。

 

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