業務委託契約と労働法 まとめ
2024/01/24   契約法務, 労務法務, 民法・商法, 労働法全般

業務委託契約とは

 社内の雑務や専門的な業務など、コア業務以外の業務を外部のフリーランス等に業務委託して、従業員をコア業務に専念させたいと考える企業が増えております。

また、IT系の職種に代表されるように、「働く時間帯・時間数等を気にせず、自分の裁量で仕事を行い、成果に応じた報酬を得たい」と、従業員側から業務委託への移行を希望されるケースもあります。
契約形態が業務委託に移行した場合、会社としても必要なときにだけ業務を発注すればよくなるため、社内の業務ボリュームによっては、当該従業員を雇用していたときよりも費用の削減が期待できる面があります。

では、この業務委託とはどのような契約なのでしょうか。一口に業務委託と言ってもその内容は様々で、大きくは、請負契約・委任契約・準委任契約に分けられます。以下、具体的にその内容を見ていきます。

 

請負契約とは

 民法第632条によりますと、「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」としております。

請負契約の典型例としては、建物の建築や自動車、工場の機械、会社のPCなどの修理依頼、制服のクリーニングなどが挙げられます。

請負契約における請負人の義務は仕事の完成義務であり、注文者の義務は完成された仕事に対して報酬を支払う義務とされます。この報酬の支払いは仕事の目的物の引き渡しと同時とされ、引き渡しが無い場合は労働の終了後とされております(第633条)。

あくまでも仕事を「完成」させることが請負人の義務となり、それに対して報酬が支払われるということです。しかし、例外的に注文者に責任無く仕事が完成できなくなった場合、または途中で契約が解除された場合は仕事が完了している割合に応じて報酬が支払われることとなります(第634条)。

なお、仕事が完了するまでは、注文主は補償することによりいつでも契約を解除できます(第641条)

 

委任契約とは

 委任契約とは、「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」契約とされております(第643条)。

請負が一定の仕事の完成を目的としていたことに対し、委任は一定の法律行為を行うことを目的としております。ここに言う「法律行為」とは不動産の売却や賃貸、訴訟事件の処理といった一定の事務処理を指すとされております。

仕事の完成や達成、成功までは目的となっておりませんが、受任者は委任の本旨に従った善管注意義務をもって事務処理をする必要があります(第644条)。

弁護士に訴訟処理を依頼し、弁護士が仕事を尽くした結果、敗訴したとしても報酬支払い義務は生じるということです。

なお、委任における報酬は特約がなければ発生しないとされます(第648条1項)。しかし現在では大多数の委任に報酬が付くことから明示の特約がなくとも報酬が認められることが多いとされます。また報酬が得られる場合でも委任事務の履行後でなければ請求できません(同2項)。

また、委任契約の当事者双方は、いつでも委任契約を解除することができるとされております(第651条1項)。ただし相手方の不利な時期に解除した場合や、受任者の利益をも目的とする委任を解除した場合は損害の賠償が必要となります(同2項)。

 

準委任契約とは

 委任契約が一定の法律行為をすることを委託する契約であるのに対し、準委任契約は法律行為ではない一定の事務処理行為をすることを委託する契約と言えます(第656条)。仕事の内容が異なるだけで基本的に委任の規定が準用されます。

例えば、荷物の運送、ソフトウェアの開発、コールセンターやヘルプデスク業務などあらゆる事務処理行為が該当します。

委任契約は成果完成型(第648条の2第1項)と履行割合型(第648条2項)に分けられており、準委任契約にも準用されます。前者の場合は完成しなければ報酬請求できず、後者は想定どおりに成果が上がらなくても履行の割合に応じて報酬請求できます。

成果完成型準委任契約は請負契約に近いと言えます。仕事の完成に報酬が支払われるという点が共通していますが、請負契約は仕事が完成できなければ債務不履行責任を負うのに対し、準委任契約は善管注意義務を尽くしていれば完成できなかったとしても債務不履行責任は負わないという違いがあります。

 

契約不適合の場合

 請負の成果物に瑕疵があった場合の請負人の担保責任の規定は平成29年の民法改正で削除されました。現行民法では請負契約にも売買契約の規定が準用され、契約不適合責任が適用されることとなっております(第559条)。

請負の成果物に契約不適合があった場合、注文主は(1)履行の追完請求、(2)代金減額請求、(3)損害賠償請求、(4)契約解除をすることができます(第562条1項~654条)。

なお、この契約不適合責任は注文主が契約不適合の存在を知った時から1年以内に請負人に通知しなければ上記の権利行使はできないとされております(第637条1項)。

これに対し、委任・準委任契約に関しては契約不適合責任の規定は適用されません。ただし、上でも述べたように受任者は善管注意義務を負っており、それに違反した場合は債務不履行責任を負うこととなります。

 

業務委託と労働法

 業務委託契約は会社との雇用契約ではないため、原則として労働基準法などの労働関連法令は適用されません。そのため、労働法令で保障されている労働者としての権利も認められないのが原則です。

会社からの指示や監督に従わなくていい反面、労働者であれば当然に認められる時間外労働や休日労働、深夜労働などの割増賃金、年次有給休暇や産休・育休、各種手当、労働時間規制などが業務委託では保障されないこととなります。

つまり、会社は社会保険料や労働保険料の負担も無く、成果に対する報酬のみ支払えば良いこととなります。会社にとっては負担の軽減とコスト削減が期待できるということです。

しかし、契約形態が業務委託契約であっても、その実態が実質的には雇用と変わらない場合、労働関係法令違反となることがありえます。いわゆる、「名ばかり業務委託契約」の問題です。

 

労働者性の判断基準

 業務委託契約を締結している受託者が、実質「労働者」に該当し、各種労働法が適用されるかどうかの判断にあたっては、契約の形式や名称いかんに関わらず、実質的な使用従属性が認められるかが基準となるとされております(さいたま地裁平成26年10月24日)。

その判断には、(1)仕事の依頼・業務の指示等に対する諾否の自由の有無、(2)業務遂行上の指揮監督の程度、(3)勤務場所と勤務時間の拘束性、(4)報酬の労務対価性、(5)使用機材を会社負担で用意されているか、(6)報酬額が他の社員と同等であるか、(7)その会社の業務への専属性の強さ、(8)就業規則や服務規定の適用の有無、(9)源泉徴収の有無、(10)福利厚生や退職金制度の有無などが総合考慮されます。

 

労働者性に関する裁判例

 労働者性が問題となった事例として、リラクゼーションサロンを経営する会社と業務委託契約を締結し、整体やリフレクソロジー等の施術を行なっていた例が挙げられます。

 この事例で裁判所は、1日8時間の業務従事時間に満たない場合には減額されていたことや、1日5000円の最低補償額が規定されていたこと、契約書に「遅刻」や「始末書」等の文言が盛り込まれていたことなどから実質労働契約と判断しました(大阪地裁令和元年10月24日)。

また運転代行会社で運転代行を行なっていた事例では、就業規則に署名押印させられ、勤務時間の拘束や職務専念義務を課されていたことから労働者に該当すると判断された例もあります(東京地裁平成30年10月17日)。

 

偽装請負のリスク

 業務委託契約には上記の労働法違反の他に偽装請負のリスクもあると言えます。偽装請負とは、形式上は業務委託契約となっていても、発注者が外注先従業員に対して指揮命令をしており、実質労働者派遣に該当する場合を言います。

労働者派遣法第2条1号によりますと、労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」とされます。

業務委託契約の場合、注文主は外注先の従業員に指揮命令をすることはできませんが、実態として指揮命令をしている場合は偽装請負となるということです。

偽装請負かどうかの判断基準は、(1)勤務規則が適用されているか、(2)定時があるか、(3)仕事のやり方や時間配分について詳細な指示があるか、(4)勤務場所が指定されているかなどを総合的に判断されると言われております。

偽装請負であった場合、罰則として派遣元事業者に対して1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(労働者派遣法第59条1号)。また職業安定法でも派遣元、派遣先双方に対して1年以下の懲役、100万円以下の罰金が科される場合があります(同法第64条9号)。

 

まとめ

 以上のように業務委託契約は大きく請負・委任・準委任に分けられます。その中でも請負と準委任が主に利用されていると言えます。これらの契約を活用することによって労働者は労働時間などに縛られずに自己の裁量で自由に業務を遂行することが可能となります。

企業にとっても従業員ではないことから各種労働法令上の義務や保険料負担が免れ、コスト削減を期待することができます。

その一方で、労働者にとっては労働法令上の権利や保護が受けられず生活が不安定になるリスクがあり、企業にとっても細かな指示や監督ができなくなるといったデメリットが挙げられます。

そこで、雇用形態だけ業務委託とし、それ以降も従前と同様に会社の指揮命令に服させるといった名ばかり業務委託も横行していると言われております。しかし、上でも触れたように裁判所は契約の形式ではなく労働の実態から判断しております。

それぞれの契約形態のメリット・デメリットを把握した上で自社にあった人財活用を模索していくことが重要と言えるでしょう。

 

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