国税庁が課税強化を説明、信託型ストックオプションとは
2023/05/30 商事法務, 税務法務, 租税法, 会社法
はじめに
国税庁と経済産業省は29日、新興企業が優秀な人材確保のために利用している株式報酬「信託型ストックオプション」についての課税説明会を開催しました。譲渡所得ではなく給与所得とのことです。今回は信託型ストックオプションについて見ていきます。
説明の概要
新興企業のスタートアップの際に従業員等へのインセンティブ報酬として活用されてきた信託型ストックオプションの課税について、従来権利行使時ではなく株式売却時に譲渡所得税として課税されると考えられてきました。しかしこの点について国税庁は、会社側が付与した権利を従業員が行使して株式を取得した時点で実質的な給与とみなし、その時点で課税するとの見解を発表しました。また行使済みの従業員についても、会社側が遡及して源泉徴収を求める必要があるとしました。源泉徴収には5年の時効があることや、給与課税は分割納付することもできるなど救済策も示しております。国税庁は今回改めて解釈を示したのではなく、従来、給与課税という認識だったとのことです。
信託型ストックオプションとは
まだ十分な報酬を従業員等に用意することができない新興企業はインセンティブ報酬としてストックオプション(新株予約権)を活用することが多いと言えます。自社株の価格が上昇した時点で、予め決められた価格で株式を購入することができ、その後株式を売却することによって差額分の利益を得ることができます。しかし税制上の優遇措置を受けるには時価以上で購入する必要があり、株価上昇後の従業員には旨味が少ないとされてきました。そこで予め信託会社などの受託者が新株予約権を取得しておき、その後会社への貢献度に応じて従業員等に付与される、いわゆる「信託型ストックオプション」が活用されるようになりました。これにより後から入社した従業員等にも十分なインセンティブを与えることができるようになります。
信託型ストックオプションの税務上の扱い
信託型ストックオプションの税務上の扱いについては従来から、課税されるのは新株予約権の行使時ではなく、行使して取得した株式を譲渡した時と考えられてきました。所得税法67条の3第1項、2項によりますと、受託者から信託財産に属する資産を従業員等が引き継いだ際、その引き継ぎにより生じた収益の額は、その引き継ぎを受けた日の属する年分の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないとされております。そのため信託型ストックオプションについては取得した株式を売却した際に譲渡所得として課税されるものであり、株式取得時には課税されないとの認識が一般的であったと言えます。しかし今回の国税庁による発表では譲渡所得ではなく給与所得として扱うとされました。
譲渡所得と給与所得
国税庁のHPによりますと、株式の譲渡所得に関する課税については、譲渡価額から取得費や委託手数料などの必要経費を控除したものが譲渡所得額とされ、税率は上場株式、非上場株式共に20%(所得税15%、住民税5%)となっております(所得税法33条、措置法37条の10等)。これに対し給与所得の場合、まず収入から必要経費などを差し引き、さらに所得控除を行って税率を乗じることとなります。税率は収入が増えるほど税率が高くなる、いわゆる累進課税で、課税所得が1000円~194万9000円では5%ですが、課税所得が4000万円を超える場合45%となり、そこに一律10%の住民税が加わります。つまり給与所得として扱われた場合は最大55%となり譲渡所得に比べかなり割高になります。
コメント
従来からストックオプションに関する税務上の扱いは、税制適格ストックオプションか否かで異なってきました。税制適格の場合は権利行使時には課税されず、譲渡の際にのみ課税され、非税制適格の場合は両方で課税されることとなります。課税面で有利な一方インセンティブは低いと言えます。そこで信託型ストックオプションが利用されてきました。課税を抑え、高いインセンティブを従業員に提供できるというものです。しかし今回の国税庁の発表により、信託型ストックオプションについては給与所得として扱い、株式取得時に課税するというものです。これまで譲渡所得として扱っていた会社も過去に遡って源泉徴収する必要があるとされます。これを受け多くの新興企業から不満の声が上がっております。役員や従業員にインセインティブ報酬としてストックオプションを付与している場合は税務上の扱いについても考慮して見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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