QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第50回 技術ライセンス契約:~定義
2023/06/15   契約法務, 知財・ライセンス, 特許法

UniLaw 企業法務研究所 代表 浅井敏雄


前回, 技術ライセンスに関する総論的なことを解説しましたが, 今回から, 技術ライセンス契約について具体的な条項を提示した上解説していきます。今回は, その第1回で, 「許諾知的財産権」, 「許諾地域」, 「許諾製品」等, ライセンスの内容に関する用語等の定義条項を中心に解説します。
 

【目 次】

(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)

Q1:契約名称・前文

Q2:定 義

 

 

Q1契約名称・前文


A1: 以下に例を示します。
 

技術ライセンス契約


 

○○○○(以下「ライセンサー」という)及び○○○○(以下「ライセンシー」という)は, ライセンサーからライセンシーに対する特許及び技術のライセンスに関し, 次の通り契約(以下「本契約」という)を締結する。

【解 説】


【本契約の名称】 本契約に基づくライセンスは, 既に特許が成立している発明の他, 技術ノウハウ等も対象としています。そこで, 本契約の名称は「技術ライセンス契約」としています。

【本契約の当事者】 契約中では両当事者を「甲」, 「乙」とすることが多く, 勿論本契約でもそうして問題ありません。しかし, ここでは, 契約中で両当事者を逆に書いてしまう等の間違いが起こりにくく, 又, 条文を読む上でも理解し易いことから, 「ライセンサー」, 「ライセンシー」としています。

 

Q2:定 義


A1: 以下に例を示します。
 

第1条    定 義

本契約において使用する以下の用語は, それぞれ以下の意味を有するものとする。

(1)     「許諾特許」とは,(i)別紙1記載の特許権, 実用新案権, 意匠権等(以下「特許等」という), (ii)別紙1記載の特許等の出願(以下「特許出願等」という)に関し生じた補償金請求権等の権利, (iii)別紙1記載の特許出願等の最初の出願書類に記載された発明, 考案, 意匠等(以下「発明等」という)について将来ライセンサーが許諾地域において取得する特許等を意味する。

(2)     「許諾発明」とは,許諾特許の権利の対象である発明等を意味する。

(3)     「許諾情報」とは, 許諾発明以外の情報又は技術(コンピュータ・ソフトウェア及びデータベースを含む)であって本契約別紙1において特定されるものを意味する。

(4)     「許諾技術」とは許諾発明又は許諾情報を意味する。

(5)     「知的財産権」とは, 特許その他の工業所有権, 著作権, 営業秘密に関する権利, 商標権, その他各許諾地域において認められる全ての知的財産権を意味する。

(6)     「許諾知的財産権」とは, 許諾特許又はライセンサーが許諾情報について有する知的財産権を意味する。

(7)     許諾技術の「実施」又は「実施行為」とは, 当該許諾技術に係る知的財産権に基づく許諾を受けて行わなければ当該知的財産権の侵害となる行為を意味する。

(8)     「ライセンス」とは本契約に基づく許諾技術の実施の許諾を意味する。

(9)     「許諾製品」とは, 本契約別紙1において特定される製品又はサービスを意味する。

(10)  「許諾地域」とは, 本契約別紙1において特定される国又は地域を意味する。

(11)  「製造委託先」とは, ライセンシーが許諾製品の製造を委託する会社であって, 本契約別紙2で特定されるものを意味する。

(12)  「ライセンシー子会社」とは, ライセンシーが直接的又は間接的にその議決権の過半数を有する会社であって, 本契約別紙2で特定されるものを意味する。

(13)  「独立第三者」とは, ライセンシー及びライセンシーがその議決権の過半数を有する会社以外の者を意味する。

(14)  「販売」とは, 許諾製品の販売もしくは提供又はライセンシーもしくはライセンシー子会社による許諾製品の自己使用を意味する。

(15)  「販売価格」とは, 日本国内において, ライセンシーが独立第三者に対し許諾製品の販売の対価として請求する値引き前価格を意味し, 梱包費, 輸送費, 保険料, 消費税を含まないものとする。日本国外で許諾製品が販売された場合もかかる「販売価格」で販売されたものとみなす。

(16)  「ライセンス料」とは, ライセンシーがライセンサーに支払うべきライセンスの対価を意味する。

(17)  「発効日」とは, 本契約の効力発生日を意味し, ○○年○○月○○日とする。

(18)  「ライセンス料計算期間」とは, 発効日以降の, 各年の3月31日, 6月30日, 9月30日及び12月31日に満了する各3ヶ月の期間を意味するものとする。

(19)  「改良技術」とは, 許諾技術に対しなされる改変又は追加であって, それについてライセンスを受けることなく実施行為を行えば許諾知的財産権を侵害することとなるものを意味する。

【解 説】


【「(1)「許諾特許」とは,(i)別紙1記載の特許権, 実用新案権, 意匠権等(以下「特許等」という), (ii)別紙1記載の特許等の出願(以下「特許出願等」という)に関し生じた補償金請求権等の権利, (iii)別紙1記載の特許出願等の最初の出願書類に記載された発明, 考案, 意匠等(以下「発明等」という)について将来ライセンサーが許諾地域において取得する特許等を意味する。」】

別紙1には, 国内外における特許・出願等について以下のような事項を記載して「許諾特許」を特定します。

(i)の成立済みの特許権等:国名, 登録番号, 登録日等

(ii)の出願中の権利:国名(又は国際出願である旨), 出願番号, 出願日, 出願公開日等

(iii)のライセンサーが将来取得する特許権等:(ii)と同じ。

なお, 但し, 1件の特許の内,特定の請求項(特許請求の範囲/クレーム)に記載された発明のみライセンスの対象としたい場合は,更に, 「...請求項Xに係る特許権...」等と限定する。

又, (ii)及び(iii)については, 例えば, 請求項の発明は, 出願係属中に, 願書に最初に添付した明細書・特許請求の範囲・図面(出願書類)の範囲内で補正(特許法17条の2)により変容し得るので, 対象となる発明等を最初の請求項の発明に限定したい場合には, そのことを明確にしなければなりません。

(iii)は, 別紙1記載の特許出願の分割出願・(実用新案又は意匠への)変更出願, 別紙1記載の日本における特許出願を基礎とする外国における優先権主張出願により生じる外国特許(ファミリー特許)等も含む

【「(2)「許諾発明」とは,許諾特許の権利の対象である発明等を意味する。」】

(解説省略)

【「(3)「許諾情報」とは, 許諾発明以外の情報又は技術(コンピュータ・ソフトウェア及びデータベースを含む)であって本契約別紙1において特定されるものを意味する。」】

・「許諾発明以外の情報」:特許・出願等されていない技術的ノウハウ等を想定しています。

・「許諾発明以外の...技術(コンピュータ・ソフトウェア及びデータベースを含む)」:特許・出願等されている技術に関連して用いられるライセンサーのコンピュータ・ソフトウェア, データベース等を想定しています。

・「本契約別紙1において特定」:許諾発明以外の情報又は技術は, 特許・出願等の番号・日等で特定できないので, 例えば, 『ライセンサーからライセンシーに提供した○○年○○月○○日付け「○○○○資料」で特定される情報』等と記載するか, 又は, 直接別紙1にそれが特定できる程度にその情報又は技術の概要を記載します。

【「(4)「許諾技術」とは許諾発明又は許諾情報を意味する。」】

別紙1記載の国内外で登録済み又は出願中の発明, 実用新案, 意匠等と, 同じく別紙1記載の特許・出願されていない技術的ノウハウ, 関連コンピュータ・ソフトウェア, データベース等を総称して「許諾技術」としています。

【「(5)「知的財産権」とは, 特許その他の工業所有権, 著作権, 営業秘密に関する権利, 商標権, その他各許諾地域において認められる全ての知的財産権を意味する。」】

「工業所有権」とは, 「工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約」(通称「パリ条約」)(1条)によれば, 各国における特許, 実用新案, 意匠, 商標等に関する権利を意味します。「著作権」は, 「工業所有権」には含まれませんが, 1866年の「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」(通称「ベルヌ条約」)で国際的に保護されています。「営業秘密」は, 1994年の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(通称「TRIPS協定」)(39条)で「開示されていない情報」として国際的に保護されていますが, ここでは, より分かり易い「営業秘密」に関する権利としています。なお, TRIPS協定の保護対象である"intellectual property rights"を, 上記の同協定和訳では「知的所有権」と訳していますが, 現在ではむしろ「知的財産権」が一般的と思われるので, この語を用いています。TRIPS協定ではパリ条約及びベルヌ条約の遵守(2条1項, 9条1項)が定められており, 「知的財産権」には, 「工業所有権」及び「著作権」が含まれます。

【「(6)「許諾知的財産権」とは, 許諾特許又はライセンサーが許諾情報について有する知的財産権を意味する。」】 

本契約のライセンス対象となる知的財産権を「許諾知的財産権」として定義しています。

【「(7) 許諾技術の「実施」又は「実施行為」とは, 当該許諾技術に係る知的財産権に基づく許諾を受けて行わなければ当該知的財産権の侵害となる行為を意味する。」】 

「実施」又は「実施行為」の定義として, 日本の特許法の実施(2(3)), 同著作権法の複製等(17~28)のように定義することも考えられますが, 非常に長くなります。又, 各国における全ての該当行為について具体的にかつ漏れなく列挙することは現実的ではありません。そこで上記のような定義としています。

【「(8)「ライセンス」とは本契約に基づく許諾技術の実施の許諾を意味する。」】 

(解説省略)

【「(9)「許諾製品」とは, 本契約別紙1において特定される製品又はサービスを意味する。」】 

「許諾製品」の定義は重要です。ライセンスの範囲を限定するとともにその販売額等がライセンス料計算の基礎になることが多いからです。特許権, 著作権等の対象には製品だけでなくサービスも含まれ得るので, 「許諾製品」にはその両方を含めています。

本契約では, 「許諾製品」を別紙1において特定することとしています。具体的に仕様が特定されている製品・サービスを「許諾製品」とする場合には別紙1にその仕様を特定できる記述をします。他に, ややその範囲が曖昧になるものの, 技術分野又は製品の種類(例:「半導体レーザーチップ」)により「許諾製品」を特定することも考えられます。

一方, 「許諾知的財産権」の権利範囲に属する全ての製品・サービスを「許諾製品」とする場合には, 『「許諾製品」とは, それについてライセンスを受けることなく許諾技術を実施すれば許諾知的財産権を侵害することとなる製品又はサービスを意味する。』のような定義が考えられます。

なお, 「許諾製品」を製品名や製品番号のみで特定することは, それらが変更されただけでライセンス対象外となってしまうので適切ではありません。

【「(10)「許諾地域」とは, 本契約別紙1において特定される国又は地域を意味する。」】 

ライセンシーが許諾技術を実施できる国又は地域については,このように定義し,別紙1に具体的国又は地域を記載すればいいいでしょう。この国や地域は正式名称で特定しなければなりません。米国の場合, 属領等(プエルトリコ,グアム)がある場合にはそれらが含まれるか否かを明確にすること, 中国については, 中国本土と香港・マカオ・台湾は法制度が異なり経済的にも別の地域ととらえるべきなので香港・マカオ・台湾が含まれるのか否かを明確にすること, 「欧州」は確定した定義がなく, 「欧州連合」は加盟国が変動し得ること等から, 具体的な国名を記載すること等が必要です。

【「(11)「製造委託先」とは, ライセンシーが許諾製品の製造を委託する会社であって, 本契約別紙2で特定されるものを意味する。」】 

本契約では, ライセンシーが許諾製品を一定の第三者(製造委託先)に製造委託することを認めているので, その製造委託先の定義を置いています。

【「(12)「ライセンシー子会社」とは, ライセンシーが直接的又は間接的にその議決権の過半数を有する会社であって, 本契約別紙2で特定されるものを意味する。」】 

本契約では, ライセンシーがその子会社にライセンスを再許諾(サブライセンス)することを認めているので, その子会社の定義を置いています。なお, 子会社の実施については, 子会社自身も本契約の当事者とし, ライセンシーが自身としてだけでなく子会社の代理人としても本契約を締結するという方式も考えられます。しかし, その場合, ライセンサーは, 原則として, 直接子会社との間でライセンス料の報告・徴収, ライセンス料に関する監査等を行わなければならず煩雑です。そこで, 本契約では, 親会社であるライセンシーに子会社に対するサブライセンスを認めるとともに, 子会社分のライセンス料についてもライセンシーとの間で報告・徴収・監査等を行うこととしています。

【「(13)「独立第三者」とは, ライセンシー及びライセンシーがその議決権の過半数を有する会社以外の者を意味する。」】

【「(14)「販売」とは, 許諾製品の販売もしくは提供又はライセンシーもしくはライセンシー子会社による許諾製品の自己使用を意味する。」】 

【「(15)「販売価格」とは, 日本国内において, ライセンシーが独立第三者に対し許諾製品の販売の対価として請求する値引き前価格を意味し, 梱包費, 輸送費, 保険料, 消費税を含まないものとする。日本国外で許諾製品が販売された場合もかかる「販売価格」で販売されたものとみなす。」】 

【「(16)「ライセンス料」とは, ライセンシーがライセンサーに支払うべきライセンスの対価を意味する。」】 

本契約では, ライセンス料を, 許諾製品の販売価格に一定率を乗じた額のランニング・ロイヤリティとしています。そこで, 上記の各定義により, その販売価格及び販売の意味を明確化しています。ライセンシーのグループ会社間で許諾製品が販売される場合, ライセンシー自身が許諾製品を使用する場合, 許諾製品が日本国外で販売される場合等も考慮して, 上記のような定義としています。

【「(17)「発効日」とは, 本契約の効力発生日を意味し, ○○年○○月○○日とする。」】 

【「(18)「ライセンス料計算期間」とは, 発効日以降の, 各年の3月31日, 6月30日, 9月30日及び12月31日に満了する各3ヶ月の期間を意味するものとする。」】 

前記のランニング・ロイヤリティの計算期間について上記のような定義を置いています。

【「(19)「改良技術」とは, 許諾技術に対しなされる改変又は追加であって, それについてライセンスを受けることなく実施行為を行えば許諾知的財産権を侵害することとなるものを意味する。」】 

許諾技術に対しライセンシーにより改良がなされた場合, その改良技術の取扱いについて規定する場合に必要な定義です。単に「改良技術」と言っても如何なる範囲の改変・追加が含まれるかは不明なので, このように定義しています。発明に関して言えば日本の特許法 72 条の利用発明がこの「改良技術」に該当します。

 

今回はここまでです。

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「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の回


 

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【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄  (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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