借用書と金銭消費貸借契約書 まとめ
2024/02/21   契約法務, 債権回収・与信管理, 民法・商法

はじめに

 金銭の貸し借りがなされる際に作成されるのが金銭消費貸借契約書です。返済が滞った場合など、裁判所での解決を図る際には証拠として重要な意味を持つことになります。

この金銭消費貸借契約書以外にも借用書というものが使用されることがあります。これは一体どのようなものなのでしょうか。金銭消費貸借契約書とはどのような違いがあるのでしょうか。

以下これらの書面について詳しく見ていきます。

 


 

金銭消費貸借契約とは

 ここでまず、「金銭消費貸借契約」とはどのような契約なのかを見ていきます。民法第587条によりますと、「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」としております。

つまり、金銭等の代替物を借りて、後にこれと同じ物を返還する契約を言います。法的な性質としては要物契約とされ、金銭等を引き渡すことによって成立するとされますが、書面による契約の場合は当事者間の合意によって成立する諾成契約となります(587条の2)。

この諾成的消費貸借は民法の平成29年改正によって条文化されたもので、それまでは判例によって認められておりました(最判昭和48年3月16日)。これにより安易・軽率な貸し借りの防止と、借主側が貸主側に貸すことを訴訟で求めることも可能となります。

なお、この書面による金銭消費貸借契約は、金銭を受け取るまでは借主側が解除することが可能です(同2項)。また受け取るまでに当事者の一方が破産した場合は契約の効力を失います(同3項)。

 

金銭消費貸借と利息

 通常金銭の貸し借り、金銭消費貸借には利息が付くことが一般的です。しかし、民法第589条1項では、「貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない」としております。

つまり、消費貸借は無利息が原則であり、利息を付ける旨の条項、特約がなければ利息を請求できないということです。これに対し、商人間で金銭消費貸借をしたときは、このような特約がなくても貸主は法定利率での利息の請求をすることができるとされております(商法第513条1項)。

なお、現在の法定利率は3%となっており、3年ごとに見直される変動制が採用されております(法第404条2項、3項)。また商法第514条は削除され、民事商事ともに法定利率は3%に統一されております。

約定利率については利息制限法で上限が定められており、元本が10万円未満のときは年20%、10万円以上100万円未満で年18%、100万円以上で年15%となっております。

 

金銭消費貸借契約書と借用書

 金銭消費貸借契約書とは、上記の金銭消費貸借契約の際にその契約自体の存在の確認と証明をするための書面です。貸主と借主の両者が署名押印して2通作成し、お互いが手元に保管しておきます。

これに対し借用書は、内容自体は金銭消費貸借契約書とほぼ同じですが、借主側が1通だけ作成し、借主に提出します。

いずれも当事者、特に借主に返済義務を認識させ、返済されない、または遅延などのトラブルが発生した際に訴訟で証拠として利用されることとなります。

 

一般的な借用書の記載事項

 借用書には一般的に以下の事項を記載することとなります。

1.表題
「借用書」や「借用証書」などの表題を記載します。「念書」などといった表題が使用されることもあります。

2.貸主
誰が貸主、債権者であるかを記載します。会社や法人の場合は「○○株式会社 御中」などと記載します。

3.借入金額と借入日
借り入れた金額とその日付を記載します。この借入日は文書の作成日ではなく実際に金銭を借り入れた日となります。金額は壱弐参、拾佰阡萬といったいわゆる大字で記載します。

4.返済期日と返済方法
返済期日と返済方法を記載します。「○年○月○日付、元本全額を一括で返済します」「毎月○日付で、元本のうち○万円を返済し、○年○月○日付で残額を一括で返済します」などと記載することになります。

5.利息
利息は上で触れたように利息の定めがないと貸主は借主に請求することができません。また利息制限法の上限規制を超えないように定める必要があります。

6.遅延損害金
返済が遅延した際の遅延損害金については、特に定めなかった場合は上記法定利率によることとなりますが、定めておくことが一般的です。
ちなみに、遅延損害金についても上限利率が定められており、個人間の消費貸借の場合は上記利息の上限利率の1.46倍とされ、金融業者から個人または企業が借り入れた場合は年20%が上限となります。

7.期限の利益喪失条項
分割返済の場合に、借主が返済を遅延した場合、残りの全額についてもただちに返済請求ができる旨の条項を盛り込んでおくことが一般的です。「1回の返済遅延により、すべての元本について期限の利益を喪失する」などと記載します。

8.借用書の作成日と借主の氏名・住所
最後に借用書の作成日と借主の氏名または名称と住所を記載します。借主が会社である場合は会社名を印字し、届出印を押印することが一般的です。

 

収入印紙の貼付

 印紙税法では借用書を書面で作成する場合は、課税文書(1号文書)として収入印紙の貼付が義務付けられております。納税者は書面の作成者とされており、借用書の場合は借主となります。収入印紙を貼付し作成者の印で消印を押します。

印紙税額は借入額が1万円未満であれば非課税ですが、1万円以上10万円以下で200円、10万円超50万円以下で400円、50万円超100万円以下で1000円、100万円超500万円以下で2000円、500万円超1000万円以下で1万円と額によって増加していきます。

この印紙貼付がなされていない、または不足していて税務署に発覚した場合、本来の印紙税額の2倍の過怠税が課されることとなります(印紙税法第20条)。つまり3倍支払う必要があるということです。なお自己申告した場合は本来の印紙税額+10%の過怠税となります。

 

公正証書で作成する場合

 借用書や金銭消費貸借契約書の証拠としての価値を高めるため、公正証書で作成される場合があります。公正証書とは公証人役場で公証人によって作成される公文書で、偽造変造の心配も無く、高い信用性と証拠力が期待できます。

また、通常、訴訟によって貸金を強制的に取り立てる場合は判決が確定(仮執行宣言により確定前の場合も)し、裁判所書記官に執行文を付与してもらって強制執行に着手するといった手順を踏みますが、「執行受諾文言付公正証書」の場合は裁判所による判決を経ずに強制執行が可能です。

 

その他の注意点

 借用書や金銭消費貸借契約書を作成していても、時効や制限行為能力などによって貸金返還請求ができなくなる場合があります。

現行民法では権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年で債権が時効消滅します(民法第166条1項)。時効が近い場合は訴訟や催告など時効の完成を阻止する手立てを講じる必要があります。

また、借主が未成年者や成年被後見人、被保佐人等のいわゆる制限行為能力者であった場合、契約自体が取り消されることがあります。未成年者や被保佐人の場合は法定代理人や保佐人の同意を要しますし、被補助人の場合は借入に同意を要する旨の審判がなされていた場合に同意が必要となります(第5条2項、第13条1項2号)。

 

まとめ

 以上のように現在金銭消費貸借は書面による場合とそうでない場合で契約の成立時期が異なっており、また法定利率も3%の変動性となっております。

約定利率に関しても、かつてグレーゾーンと呼ばれていた利息制限法と出資法での上限利率の差が撤廃されており、出資法も上限は20%とされます。また、印紙の貼付なども注意が必要です。

これらに注意した上で、必要事項を漏らさず書面化し、場合によっては公正証書を利用することも検討していくことが重要と言えるでしょう。

 

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